596.実務的な経営分析 他人資本
2022年12月18日
7 自社の他人資本の状況を読む
(1)他人資本とは
他人資本とは、自社自ら調達している資本以外のことをいう。
自社自ら調達している資本とは、前回の「自己資本」のことであり、それ以外とはしたがって「負債」のことを指す。
負債には1年以内に返済しなければならない「流動負債」と、それ以上の期間をかけて返済する「固定負債」とがある。
しかし、事業のために調達している他人資本は、実質的には金利を支払ってまで借りている「短期借入金と長期借入金」になる。
事業のために金利まで支払って調達しているのだから、通常はその返済と金利以上の稼ぎができなければ、借りた意味がない。
そういう点が他人資本の状況を読むポイントになる。
借入金は返済と借入金利以上の稼ぎができないと意味がない!
そこで、これまでの復習にもなるが、借入金利の支払は『営業外費用』の「支払金利」で損益に組み込まれているが、
借入金返済は利益の中からするということを思い返してほしい。
つまり、借入した以上はこれまでの利益に加えて、借入返済分に相当する利益を稼げないと、借りた意味がないということになる。
借入した以上はこれまでの利益+借入金返済分を稼ぎ出せないと意味がない!
そう考えると、借入をして、それ相当分の利益をあげることは、かなりハードルが高いことがわかる。
仮にそうなっていないとどうなるかと言えば、結局は「手元資金が借入返済のために減ってしまう」ということになる。
おカネが足りなくて借入しているのに、結局はおカネを減らすことにつながるなんて、皮肉なことだ。
しかし現実には、そのようなことは企業で起こっていることを忘れないでいたい。
では、具体的に借入金をどう読めばよいのか、考えてみよう。
(2)借入金による稼ぎ高を読む
全体の稼ぎは「経常利益」だ。より正確に言えば「当期純利益」となる。また全体とは、「総資本」のことだ。
では、借入金による稼ぎはいくらぐらいになるのだろうか?
それは次の計算式で推測できる。
借入金による稼ぎ高=当期純利益×(借入金÷総資本)
「借入金÷総資本」とは、総資本に占める借入金比率だ。
全体の稼ぎが「当期純利益」だから、それを借入金比率で掛ければ、借入金による稼ぎ高が推測できる。
仮に当期純利益が100万円、借入金比率が40%であれば、借入金による稼ぎ高は「40万円」になる。
これをさらに「支払利息」と比較すれば、借入金による儲け率が分かり、
またその年度の借入金返済額で割れると、借入による利益率がわかる。
借入金による儲け率=借入金による稼ぎ高÷支払利息×100
借入による利益率 =借入金による稼ぎ高÷年間借入金返済額×100
(2)借入金に対する依存度を読む
次に、借入金対する依存度を読もう。
安全な経営をするためには、なるべく借入金を無くしたいものだ。
無借金経営にできれば、経営の安心度も高まり、また利益も出しやすくなる。
そこで総調達資金である「総資本」のうち、借入金である「有利子負債」がどのくらい占めているのかを確認してみよう。
借入金依存度=(短期借入金+長期借入金)÷総資本×100
一般的には業種にもよることになるが、「50%~60%」程度なら許容範囲といわれて、「60%」を超えると要注意、
「70%」を超えれば要警戒といわれている。
しかしこれは統計的な観点からの尺度であり、総資本の半分が「借入金」で占められている状況は、大変辛い経営状況である。
したがって、できれば多くとも「30%以内」には借入金依存度を抑えたいところだ。
(3)借入金の多寡を読む
次に、当社は借入金が多いのか、そうでもないのか、判断したいところだ。
それは企業の月間生活費ともいわれる「平均月商」と比較すれば、判断できる。
借入金の多寡=(短期借入金+長期借入金)÷平均月商
これも教科書的には「3ヵ月分以内」といわれている。
これには道理があって、返済期間の長さから考えれば、この程度が限界だという意味である。
しかし現代の金融緩和状況やコロナ禍に対する用心に備えるという観点から考えれば、もう少しあってもよいのかもわからない。
そうは言っても、年商以上の借入金は普通の企業であれば、多すぎると考えるべきだと思われる。
(4)借入金の返済期間を予測して借入状況を読む
最後に、借入金の返済期間を予測して、借入の状況を読もう。
返済期間を予測計算するには、『返済原資』をどう捉えるかがポイントだ。
経営分析では恣意性を排除するために、最大限の返済原資を基にして読むことを奨励している。
つまり、「利益のすべてを返済に回す」という考え方だ。
借入金の返済期間予測=(短期借入金+長期借入金)÷(年間経常利益+年間減価償却費)
まず、この計算式から気づけることは「赤字経営は論外である」ということだ。
赤字経営では「返済原資はナシ」なので、「ない袖は振れぬ」ということだ。
したがって、融資を申込む以上は、「赤字経営は決してしない」という覚悟がたいへん大切なことだ。
それに加えて、計算式を見ると、「減価償却費」も返済原資に充てている。
「減価償却費」は、形式上費用として計算しているが、実際にはおカネは流出しない。
したがって、減価償却費分はおカネとして残ることになる。
だからそれも加えて最短の返済期間を予測することになる。
この計算方法では、通常は長くとも5年程度で返済できる借入金額にしておきたいものだ。
5年間60か月とは、標準的な長期借入金の返済期間でもある。
この程度に借入金は抑えておきたいものだ。
最後に借入金は決して悪いことではなく、自己資金だけではなできない事業を行うための「梃子」ともいえるものであり、
その意味では上手に活用したいものだ。
但し、多くの中小企業ではそのようなために借入金を活用しているのではなく、事業延命のために活用していることが多いので、
これ以上借金は増やさないという「消極的な読み方」が多いのが現状である。