602.収益改善 選択と集中

2023年1月28日

前回は経営改善する際に抜けているものとして『マズローの法則』を紹介しました。

経営改善の担い手は「社員」であり「従業員」です。

その社員・従業員のやる気なくして経営改善はあり得ないということです。

ですから経営改善を行うためには「社員・従業員の動機づけから始めなければならない」ということです。

経営改善を行うためには担い手の動機づけから始めなければならない!

 

今回は、経営改善に際してよく勘違いされている『選択と集中』についてです。

「経営改善」の最初に取り掛かることで多いのが、業務(大きく言えば事業)の『選択と集中』です。

経営資源が限られている中小企業ですから、その状況下で競争優位に立つためには行うべきこと選択して、

経営資源を集中させようということですが、ここに大きな落とし穴があります。

それは『選択』とはやることを選ぶのではなく、やらないことを決めるということなのです。

『選択』とはやることを選ぶのではなく、やらないことを決めることです!

 

これは決して言葉の遊びではありません。大変重要な発想の転換なのです。

やることを選ぶという考えで選択すると、これとこれはやるという『加算思考』になりますから、

その隣接した事案が発生した場合にはどうしても「選択したちかくのことだからまっやってしまえ」となってしまいます。

つまり、『選択』が曖昧になってしまい、やがて元の木阿弥につながってしまうのです。

しかしやらないことを決めるという『減算思考』であれば、やらないことがハッキリ決まりますのでそのようなことが防げます。

 

たとえば・・、

人員が少ないので、営業エリアを絞り込み、集中度を高めようとしたとします。

「どの地域をエリアにするか」という加算思考で決めた場合で、多くの特別区の中から品川区と目黒区だけに絞ったとします。

しかし実際はその場合でも隣接した地域で、しかもその境界線のすぐそばの大田区や世田谷区、港区などから問合せなどがあれば、

「まっ、近くだから受けてしまおう」という気持ちになってしまいます。なにしろ『加算思考』ですから。

そうすると、その近くのすぐ傍もその近くという考え方になり、徐々にエリアは拡がってしまい、遂には選択したことにならなく

なってしまいます。

つまり、対象とする地域を『加算思考』で考えているから、ついつい近くならと拡大していくのです。

しかし、「こことここはやらない」という『減算思考』で決めた場合は、大田区や世田谷区、港区はやらないと決めていますから、

たとえ問合せがあっても「申し訳ありません」と断ろう気持ちが働きます。

これは『選択と集中』とって大きな違いとなります。

『選択と集中』とはやることを選択するのではなく、

やらならいことを選択して経営資源を集中させることです!

 

ここであたらめて『選択と集中』について、理解しましょう。

1 『選択と集中』とは

『選択と集中』は経営戦略の一つであり、ある業務や事業に経営資源を集中して投入することをいいます。

これまで高度経済成長期やバブル経済期は業績がよい企業が多くあったので、本業で得た資金をもとに業務や事業を拡げ、

さらに利益を獲得しよういう時代がありました。

しかし、現在はリーマンショックや人口減少、コロナ感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻などを受け、

将来を見通せない不透明な時代となっており、考え方も変わりました。

そのような状況の中で、特に経営資源が乏しい中小企業では、競争優位を保つためにも業務や事業を拡げるという考え方から

自社の根源的な事業領域や経営資源を考え、業務や事業を絞る『選択と集中』を採る企業が増加しています。

『選択と集中』とは複雑に不透明になっている時代における守りを強化する戦略です!

 

2 『選択と集中』の意味とは

『選択と集中』の意味は、自社の経営資源を投入する業務や事業を選定し直し、その業務や事業に対して集中的に経営資源を投入し

深掘りをして自社の特徴をアピールすることです。つまり『差別化』です。

業務や事業領域を絞り込むので、より効率的な経営に図ることができます。

自社の強みを強化したり、新しい販売経路を開拓するなどで、業務や事業での成功確率を高めることにもなります。

しかし一方、どの業務や事業に絞り込むかで成功確率は大きく違ってきますので『選択』が非常に重要となります。

したがって、第三者や社内の意見を聞き取るなどして慎重に決定するとともに、PDCAマネジメントサイクルを実行し、

素早く現状に対応する体制が必要となります。

『選択と集中』とは差別化でありPDCAと抱き合わせで素早く是正していける体制が重要!

 

3 『選択と集中』の利点

『集中と選択』を行う利点は多くありますが、その主なものには次のようなことが上げられます。

 ①業務の効率化ができる

 ②事業価値が高まる

 ③イノベーションの創出につながる

1.「業務の効率化ができる」とは

そもそも企業経営には、多くのサービスや販売あるいは多くの事業をもって展開しています。

それらの利点は「経営リスクの回避」ということが上げられますが、

一方でどの業務や事業にうまくいくように経営資源を分散させていますので、

すべての業務や事業で見合った利益が得られるわけではありません。

つまり見合った利益が得られなかった分は「無駄」という言い方もでき、現代の経営ではそのような余裕がなくなって来ています。

そこで、『選択と集中』は、その経営資源の無駄を防ぐことが可能となると言えます。

かつ、効果的に経営資源を投入できるため、業務の効率化やコスト削減が図れられ、収益性を向上させることができます。

2.「事業価値が高まる」とは

事業価値とは、ある事業で得られる将来的な収益をもとに算出される、事業全体における価値のことをいいます。

これを企業全体で判断した場合には「企業価値」となり、収益性をもとに企業価値を算出する際はインカムアプローチという

方法を用います。

『選択と集中』によって効率的な経営資源の投入が可能になるので、収益性の低い事業には経営資源をあまり投入せず、

逆に収益性の高い事業には集中的に経営資源を投入することができます。

集中的に経営資源を投入した事業の事業価値はさらに高められますので、企業全体としての企業価値を向上させることができます。

3.「イノベーションの創出につながる」とは

効率化できる経営資源は「資金」だけではありません、企業が持つ「ヒト」「モノ」「ノウハウ(情報)」なども含まれます。

この内、ヒトにおいて経営資源の選択と集中を行うと、集中的に投入された事業では人材が増えることになります。

人材が増えればさまざまな考え方が生まれるので、イノベーションを創出できる可能性を高めることができるということです。

また、コミュニケーションも強化されていくため、社員が持っている今までのノウハウが発揮され、新たな切り口を生み出し、

それがイノベーションの創出のきっかけになる可能性もあります。

 

4 選択と集中の欠点

 ①選択により、優秀な人材が流出してしまう恐れがある

 ②従業員から反発される恐れがある

 ③選択と集中への対応が難しい

1.「選択により、優秀な人材が流出してしまう恐れがある」とは

『選択と集中』によって人員配置などを行うと、解雇や社員の自発的離職を生む可能性があるということです。

選択と集中によって効率的に経営資源を投入することができる一方、効率的ではない部分には切り捨てる必要性も出て来ます。

切り捨てる経営資源が「ヒト」の場合はリストラとなり、同時に優秀な人材を失ってしまう可能性が出て来ます。

また、人員配置した場合は、社員の希望と合わないケースも出て来ます。

その場合、従業員によっては離職を考えるケースもありますので、そこでも優秀な人材が流出するリスクがあります。

『選択と集中』には「ヒト」という経営資源に対するリスクがあることも理解する必要があるということです。

2.「従業員から反発される恐れがある」とは

従業員からの反発は、どの企業でも起こる可能性があります。

『選択と集中』では特定業務や事業に経営資源を集中させるわけですから、個人的に思い入れのある仕事をできなくなる

従業員も出て来る可能性がありますので、反発が起こることもあります。

したがって、『選択と集中』を行う際には、従業員には十分な説明を行うことが非常に大事です。

『選択と集中』後の仕事について十分話し合うことで、従業員の離職対策を講じる必要があります。

大手企業になれば、それに加えて、株主の抵抗が生じることもあります。

3.「選択と集中への対応が難しい」とは

『選択と集中』を行うとは、売上における特定業務や事業の割合を高めることになります。

特定の業務や事業の売上高を集中させることは、一方では「経営上のリスク」を高めることも意味します。

したがって、『選択と集中』を行う際には慎重な経営のかじ取りが求められます。

また、特定業務や事業へ経営資源を集中させると、事業戦略を変更せざるを得ない可能性もあります。

例えば、ある事業の市場シェア5%で、業界内では上位10位であったとします。

この場合、その業界で生き残るためには他社製品との差別化を図る差別化集中戦略を取ることが一般的です。

しかし、事業の『選択と集中』を行い、当該事業に経営資源を集中させれば、事業規模拡大や顧客の認知度向上につながり、

市場シェアが拡大して業界内でトップに近づく可能性もあります。

一方で、この状況でも従前と同じ戦略を取っていると、上位企業の模倣や価格競争などでシェアを奪われる恐れもでてくるため、

新たに模倣困難品の開発や価格競争に打ち勝つ戦略を取る必要があります。

このように、事業戦略から見直す必要性が出るなど、『選択と集中』への対応が難しいことは、欠点のひとつといえます。

 

5  『選択と集中』の危険性

『選択と集中』について利点と欠点を上げましたが、企業経営をリスクに落とし込む危険性も十分あります、

 ①ハイリスク・ハイリターンの可能性がある

 ②長期的な視点を持つことが難しい

1.「ハイリスク・ハイリターンの可能性がある」とは

『選択と集中』では、どこかへ集中的に経営資源を投入しますから、その業務や事業で成功確率を高めることができた時には、

投入分のリターンを得ることができます。

一方で、その業務や事業が不調になると、会社全体で営業成績が悪化しますので、ハイリスクの経営戦略にもなります。

仮に『選択と集中』という経営戦略をすべての企業がとったと極論を想定した場合、

1企業が1事業しか行わなくなるために、社会全体としては「成長を阻害する」方向に働きます。

このような点が、『選択と集中』は成長を妨げる要因のひとつともいえますので、やがて企業は『多角化』の方向へ転じ、

またそこで『選択と集中』を取るという、『選択と集中』と『多角化』を繰り返すことになります。

2.「長期的な視点を持つことが難しい」とは

『選択と集中』では、特定業務や事業に経営資源を投入することで、短期的に利益をあげることが可能です。

しかし、長期的な視点で見た場合は、やはり特定業務や事業だけに依存することは、経営上の大きなリスクと言えます。

さらに、経営資源を集中的に投入した事業でいつまで利益をあげ続けられるのか、それを予測することは極めて困難な問題です。

つまり、『選択と集中』は長期的な視点を持つことが難しいと言え、会社全体の成長を妨げる可能性があります。

会社としては倒産や廃業を回避するために、『選択と集中』で成功後は、経営リスクを回避する経営戦略を取ることが必須と

言えます。