612.いま一度『マズローの法則』
2023年4月21日
4月から『時間外割増率猶予率措置』が廃止され、どこの企業も残業代が増え、
人件費の増加に悲鳴を上げている経営者や「うちは零細だからそんなことはできない」と開き直る経営者が続出しています。
しかし、根本的な問題は、雇用している従業員に対する責任を果たすためにも、残業代も含め「給与」を上げることです。
その課題を解決するためには、まずは給与を上げられるだけの生産性向上と付加価値向上を実現していくことに他なりません。
そのためのヒントが、この『マズローの法則』にあります。
そこで再度、『マズローの法則』を取り上げます。
「人間の自己実現」に関する理論を提唱し、5段階からなる人間の欲求を発表し、それが『マズローの法則』と呼ばれています。
1 従業員の「やる気」と「成長」が企業成長のキーファクター
今日の企業経営においては規模の大小を問わず、従業員を雇用して事業をやっている以上、
従業員の「やる気」と「成長」に基づいた『高付加価値経営』と『効率的な経営』が求めてられいます。
日本の人口は減少に転じ、国内市場の縮小化が始まっています。
他方、企業に対しては給与の引き上げが求められています。
大企業であれば、不足する市場を海外に求め、また給与を引き上げる内部留保もあるのかもしれません。
しかし、われわれ中小企業は簡単に海外へ市場に求めることはできませんし、また人件費を引き上げる内部留保もありません。
したがって、この『高付加価値経営』と『効率的な経営』という課題は、中小企業ほど「一丁目一番地」の経営課題なのです。
その解決糸口のヒントが、この『マズローの法則』にあると注目されているのです。
この法則を参考にして、従業員の「やる気」と「成長」を高め、高付加価値経営と生産性向上を実現しようと試みられています。
2 高付加価値経営も効率的な経営もヒトが主役
そもそも、高付加価値経営の実現も生産性の向上も、人材抜きには考えることはできません。
何故ならヒトの「やる気」と「成長」が、『高付加価値経営』と『効率的な経営』を実現するからです。
人員増加や設備投資による生産性の向上では、コストアップが伴い、なかなか解決策には至りません。
またこれまでの状況で、精神的な鼓舞だけでやる気や生産性を上げようとしても、それは経営者の独りよがりで成果はでません。
また従業員の前向きな姿勢なくして、経営の付加価値化も図れません。
そこで『マズローの法則』を参考にし、従業員の「やる気」と「成長」を持って、
新たなコストゼロで生産性と付加価値を上げようという経営戦略がいま注目されているのです。
3 マズローの法則とは
マズローの法則には背景があります。
それは米国経営学者ダグラス・マグレガーが提唱した「X理論・Y理論」です。
マグレガーはY理論である「性善説」で、人間の自主性を尊重するマネジメントをすれば、どの企業にも無限の可能性があり、
飛躍的に発展すると説きました。
そのことにマズローは注目し、「人間は自己実現に向かって成長する」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で説明した、
次の『自己実現理論』を提唱したわけです。
「5段階の欲求」とは、次の通りです。
(1)一番基本的な欲求 :生理的欲求
生理的欲求とは、基本的に生きるために必要な欲求のことです。
たとえば、食べることができる、眠るところがあるなど、生活することが最低限満たされる欲求のことをいいます。
この生理的欲求はほとんどの企業が、程度の差はあれ従業員に対して満たしていると思われますが、問題は次からの欲求です。
(2)第2段階の欲求 :安全の欲求
安全の欲求とは、身体的に安全で、経済的にも安定した環境で暮らしたいという欲求です。
企業現場で考えれば、ある程度快適な職場環境であったり、給与・給与水準などが当たります。
大企業であればそれ相当の職場環境が整備できている企業は多くあるのかもわかりませんが、
中小企業では意外とそうではありません。
雑然としていたり、トイレが男女同じであったり、座る場所もない職場は多くあります。
さらに給与面になると、大半が大企業と比べると大きく見劣るのが中小企業の実情です。
しかしここで大事なことは、いきなり大企業と同じ職場環境や同じ給与水準を実現することではなく、
まずその姿勢を従業員に見せる、示すことでなのです。
「顧客や社会のために貢献する」などという、対外的に向けた張りぼての経営姿勢だけでなく、
まだ満足はできないかもわからないけれど、現状の従業員待遇を改善する、だからこの方向でこうして行こうという姿勢なのです。
対外的な経営方針を掲げる企業は多くありますが
従業員に向けた経営方針を掲げる企業はそう多くはありません!
(3)第3段階の欲求 :社会的欲求
安全の欲求の次は、社会的欲求です。
社会的欲求とは、会社などの社会集団に所属し、安心感を得るという欲求です。
企業現場で考えれば、安定的な経営状況であったり、将来を考えてくれる職場環境であったり、
そして給与による誇り(プライド)が持ているということです。
これが満たされてくると、従業員には他の従業員や顧客に対する能動的な働き掛けというモチベーションが芽生えて来ます。
いくら職場環境や給与水準が改善されても、安心感が伴わないと、社会的欲求は芽生えません。
他人のことより自分のことが心配でたまらないからです。
私たちが健やかに暮らしていくためには、物質的満足だけでなく、自分を任せられる親密な社会の存在が不可欠なのです。
物質的満足だけでなく、自分を任せられる親密な社会(職場)の存在が重要です!
(4)第4段階の欲求 :承認欲求
承認欲求とは、自分が属する集団の中で高く評価されている、自分の能力が認められているという実感です。
具体的には、褒められる、認められるのほか、課長や部長などという役職や上級ポジションとなります。
やはり、褒められればやる気も出ます。名刺や肩書に役職が付くと、それなりの自覚が芽生えてきます。
承認欲求の段階に入ると人は、職場依存的な評価軸から自立し、あくまで自分で立てた基準や目標・使命に従った欲求に
なってきます。
承認とポジションは能動的な活動を誘発します!
(5)第5段階の欲求 :自己実現欲求
最後の自己実現欲求とは、自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きたいという欲求にです。
企業現場の中でいえば、経営者あるいはそれに準じる役員層、支店長・店長など高次の責任者層ということになります。
もっとも最近では、そんな気概を持った従業員も少なくなったという著名な創業オーナーもいるようですが、
それはその企業固有の問題であり、またオーナー自身の資質や人柄の問題と思われます。
(6)最近は第6段階の欲求も提唱されています
マズローは晩年、もう一段階の高次元な欲求を付け加えました。
その第6段階の欲求は「自己超越欲求」と呼ばれています。
自己超越欲求とは、「社会をより良いものにしたい」「世界の貧困問題をなくしたい」など、
オーナー系経営者によく見られる、自身のエゴを超えたレベルでの理念を実現したいという欲求です。
自己実現欲求と似ているようにも思われますが、その両者は根本的に異なります。
自己実現欲求は、「理想的な自分になりたい」と、自分にベクトルが向いています。
自己超越欲求になると、社会など自分の外にあるものに対する貢献に、ベクトルが向かいます。
しかし、そこまで従業員に求めても仕方ありません。何故なら、オーナーと従業員では立ち位置が違うからです。
立ち位置が違うのに従業員に同じことを求めるオーナー経営者が実は多い!
現代は経営の『高付加価値化』と『生産性の向上』を図らなけばならない時代です。
そのためには、従業員のモチベーションをアップさせることが先決です。
経営改善の第一歩は「従業員のモチベーションアップから」です。
必ず、自社なりの方法があるはずです!