30.事業収益力③資本回転率
2009年12月20日
財務分析解説コラム(14) 当社事業の収益性を検証する -総資本回転率-
今回は会社事業の収益性を検証する財務分析の第3回目、『総資本回転率』について説明します。
総資本回転率とは
同じ1000万円で事業を始めるなら、1000万円稼ぐより、1500万円稼いだ方がいいと思いませんか。ごく普通の感覚ですよね。そのことを『総資本回転率』と言います。『総資本回転率』とは、効率性・収益性分析の一つの指標で、総資本(他人資本+自己資本)額の何倍の売上高があるのかを示す指標です。回転率が大きいほど、少ない総資本で大きい売上高を上げたことになり、総資本が効率的に高いリターンで活用されたことになります。計算式は次のとおりです。
計算式: 総資本回転率 = 売上高 ÷ 総資産
なお、『総資産回転率』ということもありますが、『総資本回転率』と同義です。
総資本回転率の見方
投下する総資本(元手)はより少なく、売上はより大きく上げることが理想ですから、この指標は高いほど良いと判断できます。 例えば、事例で考えて見ましょう。
[事例]
A社 B社
投下資本 100,000千円 50,000千円
売上高 200,000千円 200,000千円
総資本回転率 2.0回 4.0回
A社の投下資本1億円に対し、B社の投下資本は5千万円とA社の半分です。金額で会社の規模を計れば、A社はB社の2倍の規模と言えます。売上高を比較すると、両社はともに2億円です。『総資本回転率』を比較すると、A社の2回転に対し、B社は4回転です。B社はA社に比べて半分の投下資本でしたが、A社と同額の売上高2億円を上げることができました。B社は大変うまく投下資本を活用して、高いリターンを上げたと評価できます。『総資本回転率』を高めるには、売上高を増加させるか、あるいは総資本を少なくするかのどちらかになります。ちなみに『業種別の総資本回転率』は次のとおりです(中小企業庁「中小企業の財務指標」より)。
■総資本回転率
①建設業1.8回 ②製造業1.2回 ③情報通信業1.9回 ④運輸業1.5回
⑤卸売業1.8回 ⑥小売業1.9回 ⑦不動産業0.2回 ⑧飲食宿泊業1.7回
⑨サービス業1.5回
このようによほど元手が少なく始められる事業(例えば士業等)しか、例題のように総資本回転率が3回、4回なるような業種はありません。
総資本回転率を改善するには
『総資本回転率』とは、売上高を総資本で除したものであることは説明しました。また『総資本回転率』と『総資産回転率』とは同意語であることも説明しました。これらを詳細に見てみると、『総資本回転率』は売上高で各負債科目あるいは純資産科目を割り算したものの合計であることに気づきます。同様に『総資産回転率』は売上高で各資産科目を割り算し、合計したものであることに気づかさられます。従って『総資本回転率』および『総資産回転率』を改善(大きく)するには分子である売上高を増やすか、分母である資産・負債・純資産を減らすかのいずれかとなります。
(1)売上高を増やす
売上高は「顧客数」と「顧客単価」の積と考えれば、売上高を増やすとは、顧客数を増やすか、顧客単価を上げるかのいずれかになります。
顧客数を増やすには、ターゲットを絞り込んだ品揃えをするなどの「プロダクツミックス(4P)」が重要となります。またマーケットを拡げるにはネットショップなどインターネットを活用することが重要となります。ただその前に、店舗やオフィスをきれいにすることや、気持ちの良い接客、心のこもった電話応対、スピーディな対応など、当たり前のことを当たり前にできる姿勢が大切です。さらに「商品・市場戦略」をしっかり考えることも重要となります。特に新商品をもって新市場を開拓することをこれまでは「多角化」と呼んでいましたが、そうではなく、これまでのドメインの応用と考え発想するべきだと思います。例えば、葬祭ビジネスをしているの場合、法事ビジネスまで市場を広げるという考え方です。これだといままでのドメイン(葬祭ビジネス)の経験を活かしながら、新商品(法事サービス)をもって、新市場(法事マーケット)を開拓できることになります。
顧客単価を増やすには、「ついで買い」「セット化」がキーワードとなります。いまや低価格化は避けられない状況です。そうであれば、いままで一品で確保できた売上を、二品・三品で確保するという時代です。「ついて買い」「セット買い」でいままで以上の売上高を確保するとともに利益率も改善することがポイントです。
(2)総資本を減らす
総資本を減らすためには、資産の部並びに負債の部をスリムにする必要があります。
具体的には次のようなことが上げられます。
①売上債権の回収に努める
②現預金に余裕あれば借入金の繰り上げ返済をする
③有価証券を処分する
④遊休資産を売却する
⑤不良資産を処分する
⑥買入債務を圧縮し原価低減を図る
⑦未払いを精算する
⑧ねん出した資金で、借入金の繰り上げ返済をする
⑧回収ルールに則った営業を行う など
このように「財務分析」は自社の問題が分かると同時に、改善の方向性がわかります。
具体論は社長自身が一番分かるのでしょうから、具体的な対処方法を意思決定し、あとは実践するのみです。これまでは「中小企業だから」という弁解をしながらでも、事業は継続して来られました。しかし、時代は変わりました。もう中小企業だからという「甘え」は利きません。「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を自ら発見し、その処方箋・戦術を明確にして実行していくことが根本的に重要です。「会計資料が読めない、読まない」ということは、そこに経営の危機が迫っていることにすら気づくことができず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うことです。時代は変わっているのです。自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・