621.会計の基本『簿記』①
2023年7月30日
■これからはますます厳しい経営環境を迎えることになる
近ごろ、中小企業倒産・・、それも零細企業の倒産が増え出しているといいます。
その背景には、コロナ後の消費者行動の変容による「販売不振」、ロシアのウクライナ侵攻による「原価並びに経費の高騰」、
人手不足による「人件費増加」、さらには無担保融資の「返済開始」、そして10月からの「インボイス制度」の開始など、
さまざまなことが絡み合っており、ますます経営環境は厳しさを増すといわれています。
そのような環境の変化が中小・零細企業に対して求めていることはただ一つです。
それはこれまでのような漫然とした経営を続けるのではなく、しっかりとした経営管理の下で適切な経営判断を下すことです。
その判断材料が、適時正確な経営状況を示す「会計資料」です。
これからは漫然経営ではなくしっかりとした経営管理の下で経営判断を下すことが重要。
その判断材料が会計資料です!
■『簿記』は会計資料を作成する基本技術
簿記とは、会計資料を作成する基本技術なのです。
その簿記の技術で真の自社の経営状況を示す会計資料を作成し、それを解読しながら経営の舵取りをすることが大事です。
しかしもっと突き詰めれば、会計資料を作成する「経理」は、特に中小零細企業に限っては経営者自身が行うべき業務なのです。
なぜなら、中小零細企業の場合、経営判断は経営者がするしかない場合が多いからです。
経理とは『経営管理』の略であり、経営者自身がそれを行うことで取引の内容がよくわかりますので、会計資料を読み解く力、
すなわちリテラシーが向上するからです。
簿記とは会計資料を作成する基本技術。
その技術で経営者自ら会計資料を作成することが中小零細企業にとっては大切!
そこで今回は、「会計の基本『簿記』」というテーマで、わかりやすく『簿記』を説明していきます。
第1講 簿記の基本は「会計資料の構造を知る」ことから始まる
会計資料は「貸借対照表(BS)」と「損益計算書(PL)」から出来ていることはよく知られています。
では、BS・PLは何を表しているのでしょうか? それがわかっているようで、意外と理解されていません。
BSは、会社の財政状況という抽象的なことではなく、「資金運用の増減」と「資金資金の増減」を表しているのです。
PLは、会社の経営成績という抽象的なことではなく、「資金の源泉」と「資金の使途」を表しているのす。
まず、このことを理解することが大事です。
B/Sは「資金運用の増減」と「資金調達の増減」を
P/Lは「資金の源泉」と「資金の使途」を表している
(1)簿記の基本
簿記はおカネの動きを、左右の両眼で捉えます。左眼のことを「借方」、右眼のことを「貸方」と呼びます。
さらに先ほどの「資金運用の増加」と「資金の使途」は左側に記載し、減ればマイナス表記するのではなく、その反対側の右側に
記載します。
同様に「資金調達の増加」と「資金の源泉」は右側に記載します。減ればやはりマイナス表記するのではなく、その反対側の左側に
記載します。
そのことを「仕訳」と呼びます。
仕訳は「左に資金運用の増加と資金使途」「右に資金資金の増加と資金源泉」記載する
借方・貸方の表される数字の意味をまとめると、次のようになります。
1.資金運用の場合 借方:資金運用の増加 貸方:資金運用の減少
2.資金調達の場合 借方:資金調達の減少 貸方:資金調達の増加
3.資金源泉の場合 借方:資金源泉の減少 貸方:資金源泉の増加
4.資金使途の場合 借方:資金使途の増加 貸方:資金使途の減少
このことを理解すれば、簿記と呼ぶ仕訳のルールをほぼマスターしたことになります。
(2)それぞれの例を見てみよう
おカネは、そのまま現金として保有したり、銀行に預けたりします。
そういうおカネの形のことを、会計では「資金運用」と言います。
現金や預金のほかにも企業経営では、売掛金や受取手形、仮払金、前払費用、棚卸資産、固定資産など、
さまざまな形でおカネを運用しています。
同様に「資金調達」とは、その運用しているおカネをどのようにして持ってきたかを表しています。
買掛金、未払金、未払費用、借入金、資本金、繰越利益剰余金、当期純損益金などがあります。
※会計は比較的むずかしい用語を使いますが、指し示すことは簡単なことです。用語に惑わされないことも会計を理解するうえで
重要なことです。
「資金源泉」とは、資金の元になるものです。
つまり、その多くは売上高のことであり、その他に受取利息や雑収入などの営業外収益も含まれます。
最後に「資金使途」とは、おカネの使い途のことであり、他の表現で言えば、社外流出資金なんて難しい用語でも言われます。
具体的には商品仕入や材料仕入などの原価要素や役員報酬・給料・法定福利費等の人件費要素、交際費・旅費交通費・通信費・地代
家賃・水道光熱費などの販売費並びに一般管理費のことです。
(3)資金の運用を例に左右両眼の目で捉えてみよう
例えば、現金や預金として運用している場合・・。
現金や預金は突然増えるわけではありません。必ずその増えた原因、減った原因があります。
たとえば、預金が増えた場合は、売掛金を回収した、経営者がおカネを事業につぎ込んだ、金融機関から融資を受けた、などなど。
そうすると、仕訳は次のように展開されます。
1.左:預金 【資産運用の増加】/右:売掛金 【資産運用の減少】
→資金運用していた売掛金が回収された、預金口座に入金された。
2.左:現金又は預金【資産運用の増加】/右:役員借入金【調達資金の増加】
→経営者が事業のために資金を貸し付け、現金又は預金が増えた。
3.左:預金 【資産運用の増加/右:短期又は長期借入金(注)【調達資金の増加】
→金融機関から融資を受けて、その融資額が預金口座に入金された。
注:金融機関からの融資は、その返済期間に応じて、短期借入金、1年以内返済長期借入金、長期借入金に分類します。
例えば、売掛金として運用している場合・・。
売掛金も突然増えるわけではなく、やはりその原因や理由があります。原因は商品やサービスを掛けで売ったことです。
そうすると、仕訳は次のようになります。
4.左:売掛金(注)【資産運用の増加】/右:売上高 【資金源泉の増加】
→掛け売りで売って、売掛金が増えた。
注:掛け売りは売上債権である売掛金が増えただけで、おカネが増えたわけではないことに気をつけます。
取引先から入金されて、初めて資金化されます。
また上記の仕訳では、どの得意先や商品あるいはサービスに売れて、どの得意先に売掛金があるのかわかりません。
そこで最近では次のような工夫をします。
5.左:売掛金 得意先A【資産運用の増加】/右:売上高 得意先A【資金源泉の増加】
→得意先Aに掛け売りで売って、得意先Aの売掛金が増えた。
注:事業の実情に応じて、売上高は得意先別管理にするか、商品サービス別管理にするか、あるいは担当者別管理などにするかを
考えます。
これが『管理会計』の入り口となって行きます。