623.会計の基本『簿記』③
2023年8月18日
■前回の復習
前回はB/Sが表す『資金運用』と『資金調達』、並びにP/Lが表す『資金源泉』と『資金調達』について説明しました。
①B/Sの『資金運用』とは
調達している資金をどのような形で保有運用しているのかを表し、その構造はワン・イヤー・ルールに基づいて
1.総資産は「流動資産+固定資産+繰延資産」に分けられ
2.流動資産は「当座資産+棚卸資産+その他の流動資産」の合計を
3.固定資産は「有形固定資産+無形固定資産+投資その他の固定資産」の合計を
4.そして当座資産とは「手元資金+売上債権」の合計を表す ということでした。
②B/Sの『資金調達』とは
資金をどのような形で調達しているかを表し、『純資産』である自己資本と『負債』である他人資本に分けられ、
その構造は資産と同様ワン・イヤー・ルールに基づいて
1.総資本とは「負債+純資産」の合計を表し
2.負債とは「流動負債+固定負債」に分けられ
3.純資産とは「新本金+繰越利益剰余金+当期純利益」の合計を表す ということでした。
その結果、「総資産ー負債=純資産」という仕組みから、「総資産(=純資産+負債)=総資本」となり、
常に総資産と総資本のバランスはとれるようになっていますから『バランスシート』と呼ばれるわけです。
③P/Lの『資金源泉』とは
のちのち資金になる源のことを表し、『売上高』と『営業外収益』のことを指します。
しかしそれはあくまでも「源泉である」というだけですので、
それを資金に変えて行くには「仕入→在庫→売上→債権→預金」という流れで、「回収」していかなくてなりません。
したがって「売上≠資金」ということに気づくことが重要です。そうは言ってもついつい思い違いされている方が多い状況です。
「売上高はまだ資金ではない」この当たり前のことを多くの方が思い違いしている!
④P/Lの『資金使途』とは
販売するために使ったおカネのことであり、それは次のように分けられ、各段階の「利益」が掴めるようになっています。
1.『売上原価』とは、販売する商品・サービスの直接原価のことであり、「売上高ー売上原価」で『売上総利益』が掴めます。
これは換言すれば、事業で付加した『付加価値』のことであり、この付加価値を高める経営努力がいま非常に重要です。
2.『人件費』とは、協力している従業員の生活を支えるものであり、その意味では最も基本的な「事業の社会的役割」です。
「売上総利益ー人件費」で事業における可処分利益とでもいえる『処分可能利益』で掴めます。
この処分可能利益をもとに事業経費を賄い、その残りが「繰越利益」になるわけです。
なお『外注加工費』も、本来であれば社内ですべきことを社外に委託していると考えられますから、
「外注加工費は人件費の一種」という考え方は管理会計上、大切なことです。
3.『製造経費』や『販売費』及び『一般管理費』とは、販売していくために必要な費用です。
「処分可能利益ー(製造経費+販売費及び一般管理費)」で事業本来の利益である『営業利益』が掴めます。
事業は社会に役立つべきものという前提に立てば、営業利益は必ず黒字でなくてならない利益といえます。
4.『営業外費用』とは、通常の販売活動以外でかかった費用のことをいい、主に支払利息のことになります。
「営業利益ー営業外費用+営業外収益」で事業として経常活動の最終利益である『経常利益』が掴めます。
この経常利益の中から融資を受けている場合は借入金を返済し、その残りが『内部留保』となり、
いつの日かの設備投資などに備える資金となります。
借入金の返済は『経常利益』からするのです!
復習が長くなりましたが、これらが自分なりに理解できると、会計に対する読解力が高まり、経営分析もできるようになります。
資金運用、資金調達、資金源泉、資金使途を理解することが会計を経営に活かす第一歩です!
さて、今回は、簿記のルールに従って仕訳をしていくと出来上がってくる会計資料の「読み方」について説明します。
第3講 会計資料の読み方(1)
会計資料の読み方にはいろいろありますが、わかってくるとおのずと自社の財政状況や営業状況がいろいろとわかってきます。
今回はその中でも、全体的な状況が読めたり、問題点が掴めたりする方法をご紹介します。
(1)B/Sは売上高と比べて見てみる
B/Sは「事業の財政状況」を示す宝庫です。
今回は枝葉末節なことではなく、全体的な森を見つめて問題やヒントを掴む方法をご紹介します。
それは「売上高と比較する」ということです。
わかりやすく説明するために、例示で紹介します。
次のような決算書があったとします。
流動資産 1500万 流動負債 1000万
現預金 500万 買入債務 200万
売上債権 500万 短期借入金 400万
棚卸資産 200万 1年以内返済長期借入金 300万
その他の流動資産 300万 未払金 100万
固定資産 2000万 固定負債 2000万
有形固定資産 2000万 長期借入金 1500万
無形固定資産 0万 役員借入金 500万
投資その他の固定資産 0万 純資産 500万
繰延資産 0万 資本金 300万
総資産 3500万 繰越利益剰余金 200万
総資本 3500万
このようなB/S残高で、仮に年間売上高が6000万であった場合、その平均日商16.4万で各残高を割ってみましょう。
流動資産 91.5 流動負債 61.0
現預金 30.5 買入債務 12.2
売上債権 30.5 短期借入金 24.4
棚卸資産 12.2 1年以内返済長期借入金 18.3
その他の流動資産 18.3 未払金 6.1
固定資産 122.0 固定負債 122.0
有形固定資産 122.0 長期借入金 91.5
無形固定資産 - 役員借入金 30.5
投資その他の固定資産 - 純資産 30.5
繰延資産 - 資本金 18.3
総資産 213.4 繰越利益剰余金 12.2
総資本 213.4
これは何を意味しているのでしょうか。
これは「回転期間」を意味しています。
たとえば、総資産及び総資本と同額の売上高を上げるのに「213.4日間」要しており、年間で「1.7回転」しかしていない
ということを意味しています。
『回転期間』や『回転率』という言葉は日常でもよく使う言葉ですが、
その意味は『回転期間』は短いほど、『回転率』は高ければ高いほど、資産又は資本を効率よく使っているということになります。
その意味で、総資産及び総資本3500万を1.7回転しかさせられなかったというのは、
資産・資本が小さい中小零細企業としては少し物足りなく感じられます。
それをさらに効率よくするためには、例えば、ほとんどが事業に役立っていないと言える『その他の流動資産』を少なくするとか、
棚卸資産を12日分も持つ必要があるのかとか、もう少し固定資産である設備を処分することを検討するとかなど、考えてみます。
『回転期間』『回転率』でB/Sを見ると効率をもっと高めなくてはならないことに気づける!
(2)各構成比を見てみる
また構成比を見てみることも、森を見る方法としては適しています。
〔B/Sの構成比〕
流動資産 42.9 流動負債 28.6
現預金 14.3 買入債務 5.7
売上債権 14.3 短期借入金 11.4
棚卸資産 5.7 1年以内返済長期借入金 8.6
その他の流動資産 8.6 未払金 2.9
固定資産 57.1 固定負債 57.1
有形固定資産 57.1 長期借入金 42.8
無形固定資産 - 役員借入金 14.3
投資その他の固定資産 - 純資産 14.3
繰延資産 - 資本金 8.6
総資産 100.0 繰越利益剰余金 5.7
総資本 100.0
総資産の構成は流動資産が約4割、固定資産が約6割とまずまずの割合ではありますが、
もう少し流動資産の割合を多くすべきことがわかります。
また調達している資本も自己資本が14%では安定した経営とは言えません。
他人資本である負債は86%と負債の割合が高いですし、中でも銀行借入が63%というのは高すぎます。
中期的課題として銀行借入を減らし、自己資本を充実させることが上げられます。
〔P/Lの構成比〕
仮にP/Lが次のようであったとします。
売上高 6000万 →(構成比)100.0%
売上原価(直接原価) 2000万 33.3%
売上総利益(付加価値額) 4000万 66.7%
人件費 3000万 50.0%
処分可能利益 1000万 16.7%
製造経費 400万 6.7%
販売費 300万 5.0%
一般管理費 200万 3.3%
営業利益 100万 1.6%
営業外費用 60万 1.0%
経常利益 40万 0.6%
このように仮に黒字経営であったとしても、経常利益40万では、そこから銀行借入の短期・1年以内借入金700万を
返済することが出来ません。
そうなると手元資金からも返済しないといけなくなりますが、500万しかありませんので返済できそうもありません。
この状況では結局、返済のためにまた融資を受けなくてはいけなくなるようです。
そうすると少なくとも経常利益は借入返済と内部留保のことを考えれば、最低でも700万はなくてならないので、
やはり中期的にはまだまだ増益策を考えなくてならないということがわかります。
売上総利益をもっと増やし、処分可能利益を増額させ、製造経費・販売費・一般管理費で削れるものはもっと削ることが必要です。
『構成比』で見ると、財務体質の問題点や営業活動で改善すべきところが気づける!
これらのことがわかってくると、経営力がずっと高まってきます。