624.会計の基本『簿記』④
2023年8月25日
■前回の復習
前回はB/S・P/Lの全体的な読み方を紹介しました。
それは「回転期間」や「構成比」で見直すと、金額表示では気づかなかったことに気づけるということでした。
今回はもう少し枝葉的な会計資料の「読み方」について、紹介します。
第4講 会計資料の読み方(2)
会計資料の枝葉を読むにはいろいろな見方がありますが、ここではその中でも、もっとも基本的な見方を紹介します。
これらのことの理解度が深まってくるに連れ、それ以上のことが自ずと読めるようになりますので、
この基本的な見方を理解しましょう。
(1)資金調達とその運用を比較して、B/Sを見る
資金調達は、その運用を通じて事業活動を行い、利益を得る目的で集めた資金であり、おカネです。
だから、そのおカネとその運用を比べることで、事業運営の安全性や健全性を読みことが出来るのです。
①短期的に返済しなければならないおカネは、なるべくすぐにおカネに回収できる資産に運用する
短期的に返済や支払いをしないといけないおカネとは、『流動負債』に表示されている負債の項目です。
流動負債と固定負債は「ワン・イヤー・ルール」で分けていることを思い出してください。
注:流動負債と固定負債はワン・イヤー・ルールで「分けられている」のではなく、経理業務で「分けている」のです。
したがって、経理する際にワン・イヤー・ルールを守ることは、たいへん重要なのです。
このことは税務申告には関係しませんので、「適当でいいですよ」という専門家(会計事務所)もいるようですが、
それは会計を税務申告のためだけに理解している専門家であり、経営管理の側面から理解していない単なる事務代行の専門家です。
同様に、すぐおカネになる資産とは『流動資産』でした。
そこで、流動資産と流動負債を比較すると、何かがわかるような気がしますね。
そうです、返済すべき金額と返済の原資となる金額が比べられるということです。
そう理解すると、最低でも、流動資産は流動負債を上回る程度、保有すべきものであることが理解できます。
しかし、同額程度では心許ないですね。
なぜかというと、流動負債は期日になれば、必ず返済しなければならない金額が計上されていますが、
それに対して、流動資産は回収期日になれば必ず回収できるものばかりではないからです。
回収できるか不透明な『その他の流動資産』、売れるか売れないか不透明な『棚卸資産』、さらに売上債権といえどもすべてが
回収できるとは限りません。
したがって、流動資産は流動負債を上回る、それ相応の額がなければ不安となります。
「それ相応の額」とは別に決まっているわけではありませんので、各企業で判断しなければなりません。
とは言えども、一般的には「2倍以上」といわれています。
このことを『流動比率』と呼ばれていますが、
大事なことは名称を覚えることではなく、考え方や意味や判断基準を考えることです!
そのことを考え違いしないようにしましょう。
しかし現実は、形式から入る方が多く、結果「見方がわからない」「難しい」と匙を投げている中小経営者が実に多いのです。
②短期的に返済しないといけないおカネは、必ず資金回収できる資産に運用する
さきほども言いましたが、流動資産の中には「すぐおカネになるかどうかわからない」資産が多く含まれています。
したがって、返済原資を考える場合、流動資産全額ではなく、もう少し確実に資金回収できる流動資産で考えた方が、
当たり外れがないと考えられます。
では、それは何でしょうか?
そうです、『当座資産』になります。
当座資産は、資金として回収できる目途が不透明な『棚卸資産』や『その他流動資産』を除外した資産です。
この当座資産と『流動負債』を比べれば、より確実な支払能力がわかりますので、
事業の安全性や健全性を厳しい基準で、読み取ることが出来るわけです。
これも「いくらあれば大丈夫!」という基準は企業によってマチマチですので、自社で考える必要があります。
しかしながら、一般的には、「当座資産は流動負債と同額以上」とも言われていますので、
少なくとも常にそのようになっているように経営したいものです。
このことを『当座比率』と呼びますが、大切なことは名称を覚えることではなく、考え方や意味、判断基準を考えることです。
③短期的に返済しないといけないおカネは、絶対、返済できる状況を確保する
流動負債を上回る資金を持って経営することは、事業の安全性や健全性を保障します。
そこで、超堅実な経営を行っている企業は、常に流動負債以上の「おカネ」を持ちながら経営しています。
何故なら『当座資産』といえども、回収不能になる売上債権が含まれる可能性があるからです。
また、会計上、ほぼ回収不可能な売上債権を管理上、計上している場合もあります。
事実、回収できない売上債権を計上している企業がほとんどであるという報告もあります。
そこで、もっと堅実な考え方は、「短期返済負債である流動負債部分の現預金を持って経営する」という考え方です。
この状態であれば、いつでも流動負債を返済することに応じることができます。
但し、このようなビジネスモデルでは、調達資金を活用していませんので、事業を大きくすることは難しいかもわかりません。
しかし、すべての中小企業が、大きなビジネスをするという野望を持っているわけではありませんので、
これこそ「スモールビジネスの強み」ともいえるものです!
この現金・預金を合わせた資産を『手元資金』といいますが、
この手元資金が流動負債と同程度あれば、超安全性の高い事業といえます。
中小零細企業は小さな荒波でも飲み込まれることがあります。
したがって、流動負債に対する手元資金割合が高い経営を、一つの経営指針としたいものです。
このことを『手元流動性比率』と呼びますが、非常に先行き不透明感が強い現代社会にあって重要な指標です。
④設備投資は自己資本と長期で返済できる他人資本で行う
設備投資とは、長期にわたって生産するためや営業をするために取得した、建物や機械設備、車両・備品などのことをいい、
B/Sでは『固定資産』に表示されています。
したがって、家計で言えば、住宅を短期ローンなどで購入しないのと同じように、
固定資産も短期で返済しなければならない流動負債を元手に取得することは「おかしい」と、容易に察しがつきます。
しかし、多くの企業では、全額は極端としても、『流動負債』に頼って固定資産を取得しています。
自社のその状況を読むには、固定資産を自己資本(純資産)と比較したり、あるいは自己資本に固定負債を加えて比較したりして
自社の資金の運用状況をチェックします。
前者の自己資本だけと比較することを『固定比率』と呼び、後者のことを『固定長期適合率』という難しい用語で呼びます。
何回も言いますが、名称を覚える必要はありません。その考え方と表す意味を理解しましょう。
事業の鉄則は、設備投資は自己資本範囲内で行うことです!
現実的には難しいことだとは思いますが、その鉄則を忘れないことが大事です。
自己資本内で設備投資を行うことが難しければ、『長期借入金』などを加えて固定長期適合率100%以内で
設備投資するようにします。
設備投資を固定長期適合率100%以内に抑えることは「経営の大原則」です!
⑤事業としての健全度を見る
資金調達とその運用というテーマからは少し離れますが、最後に「事業としての健全度」を見る方法について考えてみましょう。
事業の究極的な目的は、制度的な意味や世間的な評価から考えても、「納税」と「雇用」にあると思われますが、
その事業が、事業として健全に経営されているかは、その生産性と利潤によって見ることが出来ます。
社会から有益と評価されていれば、それなりに売り上げは上がり、「生産性」は高まることになります。
と同時に「利益」も生じ、納税を少しでも多くすることができます。
それをどのように見るかは、『生産性』に関しては『売上高』を『総資本』と比べることによって見られます。
社会からの大きな支持があれば、その回転率は自ずと大きくなります。
むろん、有能な経営手腕があれば、より多くの社会からの支持を得られ、より効率良く設備投資も図れることになりますから、
回転率はますます高くなります。
このことを『総資本回転率』と呼びますが、1年間でいくらの総資本で何倍の売上高を上げたかという意味です。
回転率が高ければ高いほど、投下した資金の資金効率が高いということになります。
利益性に関しても、『利益』を『総資本』と比べることによって見られます。
やはり社会からの大きな支持があれば、利益率は自ずと大きくなります。
むろん、有能な経営手腕があれば、より多くの社会からの支持を得られ、より利益体質の向上が図れることになりますから、
利益率はますます大きくなります。
このことを『総資本利益率』と呼びますが、いくらの総資本でどの程度の利益を上げたかいう意味になります。
総資本利益率の要因は『売上高利益率』と『総資本回転率』に分けられ
この両側面から経営判断をすれば改善され、より高い総資本利益率になる!
注:会計書籍による説明は、上場企業を前提に、その株式投資をしている投資家の立場で説明されているものがほとんどですので、
説明されていることは正しくとも、中小企業の経営とは少し離れています。
だから私たちにとっては、とても無理な解説がされていたり、珍紛漢粉になってしまい、「会計はむずかしい」となるわけです。
しかしこのように平たく理解すると、会計の読解力が高まり、自社の経営状況がわかるようになります。