628.会計の基本『簿記』⑧
2023年9月22日
■前回の復習
前回は『売上債権』に関する簿記の説明をしました。
そのポイントの次のとおりです。
①売掛も受手も「得意先別に管理」する。
②売上は得意先別管理に加えて、部門別などを利用して「継続売上と新規売上を集計」する。
③「売掛金はしっかり期日回収」する。それが不良債権化防止と資金繰りの維持につながる。
④「受取手形は極力受け取らない」ようにする。決済日から3営業日を過ぎると取り立てできなくなるので注意が必要!
このような考え方の会計を『管理会計』と呼び、経理事務を経営管理業務に変身させる!
すると、会計事務所などに頼り切った経理姿勢から自立した経理姿勢に変わり、経営に役立つ会計に変わります。
今回は『棚卸資産』に関する「簿記」について考えてみましょう。
第8講 簿記 棚卸資産編
棚卸資産は粗利益にも影響し、また赤字経営にも結び付き、さらには資金繰りにも影響する非常に大事な資産です。
会計上『棚卸資産』に分類される科目は商品・製品・半製品・原材料・仕掛品・貯蔵品など、多くありますが、
卸小売業であれば『商品』だけであり、飲食業であれば食材である『貯蔵品』だけになります。
一番、棚卸資産が多い製造業でも、『製品』『原材料』『仕掛品』程度で十分です。
何も会計事務所が細かく分類するように指導するからといって、経営的に影響なければ細かく分類する必要はありません。
会計事務所はただ会計上の区分に従って説明しているだけで、それ以上のことはありません。
それよりも経営に役立てる管理を考えることが大切です。
経営管理的に大事なことはむしろ、商品・製品・原材料などの棚卸資産の中でも、主要な在庫はやはり内訳管理することです。
また業種や形態にもよりますが、最低でも月に一度は実地棚卸は行い、棚卸資産の実態を観察・把握することが大事です。
それが直接原価の低減につながり、ついては不必要なものは仕入しなくなりますので、資金繰りの改善にもつながります。
棚卸資産は主要なものは内訳管理し、かつ実地棚卸することが大事!
(1)月次棚卸資産の洗い替えでしっかり利益を掴む
ところで、月次で正しい粗利益を把握するためには、月次棚卸資産の洗い替えが必ず必要となります。
何故かといえば、正しい月次粗利益を掴むためには、正しい月次原価を把握しなくてはならないからです。
月次粗利益の計算はご存じのとおり、「月次売上高ー月次直接原価」です。
その月次直接原価を掴むためには、「月初棚卸高+月次仕入高ー月末棚卸高」という計算が必要となります。
つまり、月初にあった在庫に、その月に仕入した商品などを加え、そして月末に残った在庫を引き算すれば、
その月の直接原価が計算できるということです。
この月初・月末棚卸高を期首・期末棚卸高に置き換えれば、年間の直接原価が計算できることになります。
このことを踏まえて、棚卸資産に関する仕訳を考えてみましょう。
(2)棚卸資産に関する仕訳
①最初の『期首棚卸高』計上仕訳
前期決算で残ったB/S棚卸資産を、P/L期首棚卸高に振替えます。
*取引年月日は期首年月日
借方:期首棚卸高 / 貸方:商品
借方:期首棚卸高 / 貸方:製品
借方:期首材料棚卸高 / 貸方:原材料 など
これらの仕訳は、期首年月日にしか行いません。
期首棚卸高への振替えは1度しか行わない!
②期中『仕入』の計上仕訳
そして必要に応じて、仕入を行い、月末にはいくらかの在庫が残ることになります。
商品や材料を掛けで仕入していれば、次のような仕訳となります。
*取引年月日は実際に仕入した年月日
借方:商品仕入高 / 貸方:買掛金
借方:材料仕入高 / 貸方:買掛金
仕入した商品や材料は一旦、P/Lの商品仕入高や材料仕入高に計上します。
仕入計上はB/S棚卸資産ではなく、P/L商品仕入高と材料仕入高に計上する!
③期首第1月目以降の『月末棚卸高』計上仕訳
月末になると、売れ残った商品などが手元に残りますから、実地棚卸をして確認し『月末棚卸高』を計上します。
*取引年月日は月末年月日
借方:商品 / 貸方:月末棚卸高
借方:製品 / 貸方:月末棚卸高
借方:原材料 / 貸方:月末材料棚卸高 など
実地棚卸して確認した在庫を『棚卸資産』と『月末棚卸資産』に計上します。
これで「期首棚卸高+仕入高-月末棚卸高」という計算で、期首第1月目の直接原価が計算できることになります。
この『月末棚卸高』の計上仕訳を毎月、末日に行うことになります。
毎月の売上原価を把握するために月末棚卸高の計上を毎月月末に行う!
④期首第2月目以降の『月初棚卸高の計上仕訳
第2月を迎えると、月末棚卸高と棚卸資産を、一旦ゼロクリアします。
*取引年月日は月初年月日
借方:月末棚卸高 / 貸方:商品
借方:月末棚卸高 / 貸方:製品
借方:月末材料棚卸高 / 貸方:原材料 など
このように、月末棚卸高を一旦、『棚卸資産』の科目を相手にしてゼロクリアします。
また、月末棚卸高の月初戻しに『期首棚卸高』という科目は使わないことに注意してください。
この仕訳を期首第2月から第12月まで、毎月月初に行います。
あとは、②の期中『仕入』の仕訳と、月末になれば③の『月末棚卸高』の計上仕訳を繰り返すだけです。
(3)棚卸資産管理の重要性
最後に、棚卸資産の管理をおろそかにすると、どのようなことが生じるのか、考えてみます。
①二重帳簿を誘発する
まず考えられることは、棚卸資産の管理をおろそかにしていると、本当の利益計算ができません。
したがって、必然的に二重帳簿を誘発します。
何故なら、形式的な会計帳簿では利益などが把握できませんので、自ずと何らかの別のメモや帳簿が必要となってくるからです。
②デッドストックによる不良在庫が発生する
在庫状況を把握していないと、売れ残りが生じやすくなり、それらがデッドストックになっていきます。
さらにそれらが在庫管理の妨げとなりますので、やがて不良在庫を発生させるようになります。
③直接原価が高くなる
売れ残りがデッドストックとなって廃棄処分する在庫も、もちろんもともとは仕入れをしていたわけです。
したがって、原価をかけて処分するわけですから、結局、直接原価を高くすることになります。
そうすると収益は悪化し、それが赤字経営につながっていくことになります。
④粉飾決算につながりやすくなる
帳簿上の在庫を増やせば帳簿上の原価は下がり、帳簿上の在庫を減らせば帳簿上の原価はあがります。
つまりずさんな在庫管理を続けていると、帳簿上の在庫を減らすことができなくなり、
また逆に収益が悪いので帳簿上の在庫を増やそうという誘惑にかられることになります。
つまり、在庫調整で見せかけの収益をつくるようになり、やがてそれが安直な粉飾につながっていきます。
このように、棚卸資産の管理をおろそかにすると、さまざまなリスクを呼び起こす要因になります。
したがって、正しい棚卸資産の管理は「経営リスクのヘッジ」にもなります。
棚卸資産の管理は不良在庫・赤字経営・粉飾決算などの経営リスクのヘッジにもなる!