633.会計の基本『簿記』⑬ まとめ
2023年11月10日
■前回の復習
前回は「費用」の簿記について、説明しました。
そのポイントは、次のとおりです。
①事業の本当の収益状況を見るためには、損益計算書の形式ではなく、「新しい収益構造」で見る必要がある。
「新しい収益構造」とは、下記のとおりです。
1.主要商品別又は業務別売上高を継続と新規に分け、かつ得意先に集計された「売上高」
2.売上高から直接原価だけを減算した「限界利益」
3.限界利益から役員・従業員に分けた人件費を減算した「処分可能利益」
4.処分可能利益から上記以外の固定費を減算した「営業利益」
5.営業利益から営業外損益を加減算した「経常利益」
このような収益構造で見れば、どこに計画あるいは前年と比べて、原因があるのかハッキリわかります。
②固定費の冗費節減は、社内の競争意識と自己抑制意欲を芽生えさせる。
③費用の仕訳は、相手貸方科目は現預金か未払費用か、あるいは預り金がほとんどである。
こうすると、「商品市場戦略の成果」や「業績管理の成果」が明らかになり、次期に対する打ち手が具体的に考えられます。
このような考え方の会計を『管理会計』と呼び、経理事務を経営管理業務へ変化させます!
このようにすると、会計事務所などに依存した経理姿勢から自立した経理姿勢に変わりますので、経営に役立つ会計に変わります。
今回は、これまでのまとめをお届けします。
第13講 会計の基本 まとめ
これまで12項にわたって「会計の基本『簿記』」をお届けしました。
その要旨は次のとおりです。 詳しくは、各項のコラムをご参照ください。
第1項 会計の構造
会計の基本を習得するためには、その構造を理解することが大切です。
その構造は、おカネ(資金)の増減要素で構成されています。
1.貸借対照表は「資産と負債・純資産を示す」ではなく、「資金運用と資金調達を示している」と理解しましょう。
2.同様に損益計算書は「売上とその費用を示す」ではなく、「資金源泉とその資金使途を示している」と理解しましょう。
3.そうすると仕訳も理解でき、資金運用の増加が「借方」であれば、資金調達の増加は「貸方」であると理解できます。
4.同様に、資金調達の増加が「貸方」であれば、その資金使途の増加は「借方」であると理解できます。
資金の使い方である資金運用と資金使途の増加は『借方』であり、
資金の得方である資金調達と資金源泉の増加は『貸方』です!
このことを理解することが「簿記の基本」です。
第2項 資金の運用・調達・源泉・使途の内容
1.資金運用とは「資産」のことを指しますが、資金化に要する期間で「流動資産」と「固定資産」に分けます。
この区別は、会計資料を経営に役立つものとするためにも厳格にしなくてはいけません。
2.資金調達とは「負債と純資産」のことを指しますが、返済に要する期間で、負債は「流動負債」と「固定負債」に分けます。
この区別は、会計資料を経営に役立つものとするためにも厳格にしなくてはいけません。
3.純資産は「資本金」と事業で得た「繰越利益剰余金」であり、返済の義務はないので、別名『自己資本』ともいいます。
資金運用と資金調達は運用期間と返済期間で『流動』と『固定』に分ける!
これらのことが理解できれば、自ずと、どの調達資金はどのように資金運用すべきか、理解できるようになります。
4.資金源泉とは資金になる元のことをいい、「売上高」と「営業外収益」のことをいいます。
ざっくりと言えば、「資金源泉は売上高だけ」と考えてもあまり差し支えありません。
5.資金使途とは売上のために使ったおカネのことであり、「費用」のことをいいます。
そうすると、どこでいくらおカネを使い、どのくらいの利益を残せているのか、掴めるようになります。
第3項 会計の読み方(1/3)
上記のことが理解できると、自ずと会計が読めるようになり、その読み方の基本は次のとおりです。
1.売上高を割ってみて見る
売上高を各資産・負債などで割って、見ます。
「売上高を割る」ということは、各資産や負債などが何倍の売上を上げることに貢献しているのかということを示しますが、
そのことを「回転率」と呼びます。
売上高をより少ない資産や負債で上げた方が、それらの資金運用や資金調達を活かしていると考えられますので、
「回転率は高ければ高いほどよい」ということになります。
2.資金運用と資金調達の各構成比を見る
資金運用は流動資産構成比が高ければ「筋肉質型」、固定資産構成比が高ければ「肥満型」企業と判断できます。
資金調達は流動負債構成比か高ければ「血液枯渇型」、固定負債・純資産構成比が高ければ「血液潤沢型」企業と判断できます。
もちろん、財務体質は、筋肉質型で血液潤沢型がよいといえます。
財務体質は現預金が多くて、純資産(自己資本)が多い企業が良い!
第4項 会計の読み方(2/3)
1.資金運用と資金調達の上(流動)を比べて見る
返済期間が短い流動負債は、いつでもおカネにできる形で運用していることが大事です。
だから「流動負債」を「流動資産」「当座資産」「現預金」と、徐々に確実におカネになる運用である「資産」と比べて見ます。
仮に、流動負債を超える現預金があるならば、いつでも返済に応じることができますので、「経営的には安全だ」といえます。
2.資金運用と資金調達の下側(固定)を比べて見る
固定資産は長く運用しますので、その財源が自己資本であれば「非常に健全な設備投資をしている」と考えられます。
だから「固定資産」とその調達資金を比較して見ることが大事なのです。
「固定資産」と同額以上の「純資産」があるならば、設備投資状況には余裕があるといえます。
「固定資産」と「純資産+固定負債」が同程度であれば、もうあまり設備投資する余裕がないといえます。
「固定資産」が「純資産+固定負債」を超しているようであれば、過剰設備投資をしている状況であり、改善の必要があります。
資金運用と資金調達は上と上、下と下を比べて見る!
第5項 会計の読み方(3/3)
1.損益計算書は資金源泉である「売上高」を基にした構成比で見る
売上高に対する構成比で見ると、自社の収益体質がわかります。
「どこで資金の源泉を̪大きく減らしているのか」わかりますので、そこを改善していきます。
2.売上高の増減は「市場商品戦略」の結果
売上が減った・増えた、ということは単に増減しているだけでなく、顧客と商品のマッチングの結果なのです。
したがって、そのことを『市場商品戦略』といいます。
売上高が減るということは、「それだけいまの市場に適していない」ということだと、理解することが大切です。
売上高の増減は『市場商品戦略』の結果です!
3.利益の増減は「業績管理」の結果
健全な経営を継続するためには、獲得した限界利益を「繰越利益」として蓄えていく必要があります。
その繰越利益が芳しくないならば、それは従業員の士気などを含めた問題があることを示してします。
したがって、そのことを『業績管理』といいます。
従業員に対する利益の分配や経費削減などを考えなくてはなりません。
繰越利益の多寡は『業績管理』の結果です!
4.損益計算書の主要項目のチェックポイント
・売上高は「継続売上高」と「新規売上高」に分けて把握する。
・直接原価は常に「直接原価率」を把握し、その改善は多くの場合「在庫」にある。
・限界利益は「限界利益率」も大事だが、現代、最も大事なのは「限界利益額」である。
・人件費は「役員」と「従業員」に分けて管理することが大切であり、現代は適正な分配をする時代である。
・処分可能利益は「固定費」と「営業利益」に分配する原資であり、それなりの金額を確保する必要がある。
・固定費に社内的な利害関係はないので「冗費節減が基本」であり、そのためには過去に囚われない節減策が大事である。
・営業利益は「黒字」が常識であり、売上高の10%程度は目標とする。
第6項 現預金の簿記
現預金の増加は「借方」、現預金の減少は「貸方」です。
特に、預金は取引銀行別に分けるより、その使途目的別に分けることが大事です。
そのようにすると、運転資金の多寡に気づくことが出来ます。
預金は使途目的別に分けて管理する!
また現預金は会社の生活資金でもあるので、最低でも「平均月商の3カ月分以上は保有する」ようにマネジメントしましょう。
第7項 売上債権の簿記
売上債権の増加は「借方」、売上債権の減少は「貸方」です。
売上債権は取引先別に分けることが必須です。
そうすると、未回収債権がある取引先に気づくことが出来ます。
売上債権は取引先別に分けて管理する!
なお、回収業務は督促業務ではなく、自社の信用獲得業務と考えるべきです。
しっかり回収する企業に対しては、「しっかりしている会社だ」と信用が増します。
第8項 棚卸資産の簿記
棚卸資産の増加は「借方」、棚卸資産の減少は「貸方」です。
棚卸資産で大事なことは「実地棚卸」です。
適切な在庫管理ができるまでは、月1回と固定的に考えるのではなく、毎週末でも行うようにしましょう。
そうすると、不良在庫や過剰在庫に気づけ、さらには商品の売れ筋なども掴めることになります。
棚卸資産は適切な在庫管理ができるまでは毎週末でも行うようにする!
適切な在庫管理は、直接原価率の低減と資金繰りの改善に効果が表れます。
第9項 固定資産の簿記
固定資産の増加は「借方」、固定資産の減少は「貸方」です。
固定資産で大事なことは「稼働率」です。
未稼働の固定資産は、なるべく早く廃棄処分を検討します。
それによって、スペースが空くことにもなり、また売却損も抑えられます。
固定資産は「稼働率」を管理する!
また会計的には、「減価償却累計額」や「リース会計」を利用することも大事です。
第10項 負債の簿記
負債の増加は「貸方」、負債の減少は「借方」です。
負債の管理で大事なことは、「流動負債」と「固定負債」の区分けです。
『1年基準』で、厳格に行います。
負債は『1年基準』で「流動負債」と「固定負債」に厳格に区別する!
また、設備投資は特別なことがない限り、自己資本と固定負債内で行うことが「経営の鉄則」です。
第11項 売上高の簿記
売上高の発生は「貸方」、売上高の取消は「借方」です。
売上高の管理で大事なことは、主要商品別か主要業務ごとに勘定科目を設定することと、
かつ、部門別で「継続売上」と「新規売上」に分類し、それぞれを取引先別に管理することです。
売上高は勘定科目で商品別又は業務別に設定し
部門別で「継続売上」と「新規売上」に分け、それぞれ取引先別管理をする!
そうすることで、具体的に売上傾向が掴めるようになります。
第12項 費用の簿記
費用の増加は「借方」、費用の返品等は「貸方」です。
費用の管理で大切なことは「細目管理」を行うことです。
たとえば、「水道光熱費」であれば、「電気」「ガス」「水道」に分けて、口座別管理を行います。
つまり、グロスではなく、具体的に何の費用をいくら支出したのか、いくら増加したのか、
必要な時にいつでも掴めるようにしておくことが大事です。
ただそれだけのことで「冗費節減」にもつながります。
費用はすべて細目管理を行う!
また「売上ー直接原価=『限界利益』ー人件費=『処分可能利益』ー固定費=『営業利益』」という、
新しい収益構造で損益状況を見ることも大事です。
書き出すと大変な長くなりましたが、やってみると大変なことはありません。
大事なことは、たったこれだけの手間をかけることで「自社の経営を強くできる」ということなのです。
このように『会計』は経営に活かせるものなのです!