638.経営状況チェック 固定資産

2023年12月15日

『固定資産』とは、本来、事業の「生産設備」のことを指す。

会計では、『建物』『構築物』『機械設備』『車両運搬具』『工具器具備品』『土地』など、細かく定められているが、

その中で事業活動にとって重要なものは、「機械設備」「車両運搬具」「工具器具備品」であり、

それに建設業の場合には『建設仮勘定』が加わる。

また、管理会計上では『減価償却累計額』という勘定科目も重要になる。

一般事業にとって重要な固定資産は『機械設備』『車両』『工具器具備品』!

 

では、そんな事業にとっての生産設備である『固定資産』をどのようにチェックすればよいのか。

 

 

1 基本は「生産設備の稼働状況」を知る

固定資産は生産のための設備なのだから、その「稼働率」が重要となる。

稼働率が低いようであれば高めなければならないし、稼働していないのであれば処分も検討しなければならない。

したがって、それぞれの固定資産がどれほどの稼働状況であるのかをチェックしなければならない。

その指標を『固定資産回転率』と呼ぶ。

固定資産回転率は「その設備に関する年間売上高÷その設備の金額」で求められる。

仮に、その設備に関する年間売上高が5000万円、その設備の金額が1000万円であれば、

1000万の設備が「5回転」していることになる。

固定資産全体の稼働状況は「年間売上高÷固定資産」で把握できるが、

少なくとも固定資産は「6回転以上」、できれば「10回転以上」はさせたい。

固定資産の稼働状況は『固定資産回転率』で知る!

 

因みに少し古いデータではあるが、平成17年財務省から固定資産をについて、次のような統計が発表されている。

  建設業 8.1回  製造業 3.5回  情報通信業26.0回  運輸業  3.9回   卸売業11.9回

  小売業 7.9回  不動産業0.4回  飲食宿泊業 3.5回  サービス業5.8回

業種によって大きな開きがあることがわかるが、もし、著しく固定資産回転率が低い場合は、

稼働率が低い固定資産を売却するなどして、固定資産のスリム化を図らなければならない。

 

 

2 固定資産の「購入財源」を知る

そしてもう一つ大事なことは、この固定資産の購入にあってのその資金の出どころである「財源」だ。

事業資金の出どころは、試算表の資金調達である「負債」と「純資産」に示されている。

そしてその運用は「資産」に示されているとおりだから、それぞれを上から順々に比べることが大事だ。

流動負債は流動資産で、固定負債+純資産は固定資産で、運用することが基本鉄則!

 

したがって、固定資産は純資産で賄われているか、あるいは最悪でも純資産プラス固定負債で賄われていないと、

資金運用としては問題がある。

その指標を『固定比率』、あるいは『固定長期適合率』という。

『固定比率』とは、固定資産の購入にあたって、どれくらい純資産で賄っているのかを示す指標だ。

固定比率は低ければ低いほど、資金運用としては適切で、経営の安全性が高いと言われる。

家計で言い換えると、住宅を自己資金だけで購入しているようなものだ。

仮に固定資産が1000万円、純資産が500万円であれば、固定比率は200%となり、

安全性の面からは良いと言い切れないし、あるいはまた純資産で2倍の設備を購入しているので、積極的に事業活動をしている

とも捉えられるが、その判断は事業の状況によって違う。

安全性から見ると「良い」とは言えないが、少なくとも固定資産額の半分程度は自己資本で賄いたいものだ。

固定比率は少なくとも200%以下!

 

しかし普通は、自己資本だけで固定資産を購入することはなかなか難しく、その不足分を『固定負債』で賄うことが一般的だ。

したがって、固定資産と「純資産+固定負債」を比較することも重要だ。

この指標を『固定長期適合率』と呼ぶが、固定長期適合率は必ず100%未満でないと、経営の安全性上かなり良くない。

例えば、固定資産が1000万円、純資産500万円、固定負債1000万円であれば、固定長期適合率は67%となる。

経営判断上、重要なことは最悪でも固定資産は「純資産+固定負債以内」でなければならない。

これがもし、100%を超えていると、住宅を一部短期ローンも加えて購入していることと同じことになる。

家計上、住宅を短期ローンも加えて購入することなんてあり得ない。

事業経営も同じで、設備がいくら必要でも、資金が足りないから『流動負債』をあてにして購入することはあってはならない。

固定長期適合率は必ず100%未満!

 

 

3 大事な内部留保

そこで大事なことは『内部留保』だ。

内部留保とは、企業内で貯めている利益のことであり、科目では『繰越利益剰余金』という。

この繰越利益剰余金は経営的にはいろいろな用途で使われるわけだが、その一つが「設備投資」だ。

「設備投資」というと大げさな表現で、大企業専用の響きがあるが、中小零細企業にとってもケタは違うかもしれないが、

設備投資はある。

そのためにも『繰越利益剰余金』を貯めていかないといけない。そのためには「毎期の黒字経営」が必要となる。

設備投資を健全に行うためにも『毎期の黒字経営』が大事!

 

さらに加えて、繰越利益剰余金は「絵に描いた餅」でもある。

確かに、理論的にはそれだけの利益をこれまでの経営で貯めてきたのは事実だが、しかし「それだけの資金がある」とは言えない。

すでに使ってしまっているかもわからない。

そこでその裏付けが『現預金』だ。

つまり、この『繰越利益剰余金』をある程度『預金』で持っていないと設備投資に使うことはできない。

だから、預金を会計上、「口座別管理」を利用して、使途目的別に管理することが大事なのだ。

「勘定あって銭足らず」とはよく言ったもので、繰越利益剰余金があるから必ずしも資金があるとは限らない。

しかし、まず「勘定」である『繰越利益剰余金』がないといけない。

次に、「銭」である『預金』があること、ということになる。

繰越利益剰余金を資金として保有していることを確認するために預金の口座別管理が大切!

 

 

 

このような見方や考え方で、固定資産を捉えて経営判断すれば、資金繰りも良くなり、スリムな安定した経営ができる。

大切なことは売上状況や設備状況をもとに、設備投資計画を策定し、それに基づいた経営(PDCA)を行うことである。