641.経営状況チェック 固定負債
2024年1月6日
『固定負債』は、事業資金調達資金の一つであり、1年以上をかけて返済する「他人資本」を指す。
その主な固定負債には、長期借入金金、役員借入金、長期未払金税などがある。
固定負債は通常、事業資金調達のために、社外から支払利息付きの借入を受けるので、その意味では流動負債以上に
「他人資本」の色彩が強くなる。また、支払利息が付くので『有利子負債』とも呼ぶ。
そのことを明確に把握するためには、経理事務で返済期間を1年基準に、流動負債と固定負債にしっかり分けることが重要であり、
そのことはこれまでも何度も説明しているとおりである。
固定負債を正確に把握するためにも『1年返済基準』で流動負債としっかり分ける!
では、そんな事業にとっての本来的な他人資本である『固定負債』を、どのようにチェックすればよいのか考えてみよう。
1 役員借入金に対する考え方
その前に『役員借入金』という勘定科目について考えてみよう。
試算表や決算書に『役員借入金』という科目があると、
「経営者自らおカネを出さないといけないほど経営状況が悪く、金融機関からも借入できないのか」と勘ぐられると言われたり、
またそのように説明している書籍も多いようだが、そうばかりとも言い切れない。
確かに、経営状況が悪い場合はその通りだ。
しかし、そうではない場合は、自己資本として判断される場合もある。
要は、そのような疑問を呈された場合に「そのとおり」と思ってしまうのか、「そうではない」と自然に思えるのかということだ。
もし、事業が順調であれば自分の事業なので、これほど経営情報も的確に得られる優良な投資案件もないと言える。
その場合は、個人資産を投資するのにもっとも最適な案件だと言える。
ただ昔から日本の中小零細企業は「所有と経営の分離」がなされておらず、多く儲かっている場合は役員報酬として多くとり、
儲かっていない場合は経営者が個人資産を投げ出すという歴史が長いため、個人資産を提供している場合は「経営が苦しい」と
見られて来たに過ぎない。
もし、個人と会社との間で「貸借契約書」を結び、貸出金利を取れるならば、個人にとっても会社にとってもこれほど信用でき
かつ安心できる投資案件あるいは借入先はない。要は、公私のけじめをつけることが大切ということだ。
しかしながら、実際は苦しくて役員借入を起こす場合が多く、そのような事情から『役員借入金』とは表記せず、『長期未払金』
と表記している試算表や決算書が多い。
役員借入は決して経営状況が苦しいことだけを表現するわけではない!
2 固定負債のマネジメントの基本はその運用チェック
(1)固定資産と自己資本との比較:固定比率
固定資産を管理する第一の基本は、その運用チェックである。
基本的に、流動負債は営業資金として運用する負債であり(つまり、流動資産)、
固定負債は設備資金として運用する負債である(つまり、固定資産)。
流動負債は「営業」に、固定負債は「設備」に運用するのが基本!
したがって、その運用チェックは固定資産と比べて行うことになる。
まず、できることなら固定資産である設備は全額自己資本で購入したいものである。
なぜから固定資産は長く使用するので、返済もできればする必要もなく、かつ金利も負担する必要がなければ、楽になる。
したがって、固定資産と自己資本を比べる。
固定資産と自己資本を比べることを「固定比率」と呼ぶ!
この数値が「100%」であれば、全額自己資本で固定資産を運用していることになる。
「100%未満」であれば、まだ自己資本で固定資産を購入できる可能性があることになる。
悪くとも、固定資産は自己資本で半分は補いたいものだと考えれば、固定比率は「200%」となる。
固定比率は悪くとも「200%以下」になるよう経営をする!
もし、自社が成長期であれば、積極的に設備投資を行い、固定比率が200%超であってもおかしくはないが、
ただ知っておきたいことは、それだけ危険と表裏の経営を行っているので、しっかりした経営管理が求められるということだ。
そのことを疎かにしている場合が圧倒的に多いので、創業期に倒産する企業が多くなっている。
創業期に多くの企業が倒産する理由は危険と表裏の経営なのに経営管理を疎かにしているからだ!
(2)固定資産と自己資本+固定負債との比較:固定長期適合率
しかしながら、現実的には自己資本だけで設備投資をすることは難しい。
そこで自己資本に固定負債を加えて設備投資をする。
したがって、固定資産と自己資本+固定負債を比べる。
固定資産と自己資本+固定負債を比べることを「固定長期適合率」と呼ぶ!
この数値が「100%」であれば、自己資本と固定負債を使い切って固定資産を運用していることになる。
「100%未満」であれば、まだ固定資産を購入できる余地があることになる。
「100%超」であれば、固定資産は自己資本と固定負債で投資できていないことになり、無理な設備投資をしていると
判断せざるを得ない。
固定長期適合率は絶対「100%」を超えてはいけない!
このことは創業期や成長期であっても同じことだ。
固定長期適合率が100%を超えているということは、設備を購入するために一部短期融資を頼って購入していることになる。
短期融資は融資期間が短いだけにそれだけ支払利息は高くなる。
じっくり運用する固定資産に、そんな返済期間が短く、高利な短期融資を財源にしているなんて、採算が合うはずもない。
設備投資に「自己資本・固定負債以外」をあてにしてはいけない!
3 借入金額をチェック
次に、やはり気になるのは「借入金」だ。
「借入金」は有利子負債ともいい、短期借入金と長期借入金の合計だ。
その借入金にも適正な借入額というものがある。
その方法にはその依存度を見る方法と売上規模で借入金額をチェックする方法並びにおおよその返済期間を把握する方法がある。
借入金は「依存度」、「借入額」、「返済期間」でチェックする!
(1)借入金の依存度:借入金総資本比率
自社の「借入金の依存度」を見るには、借入金と総資本を比べる。
そのことを「借入金総資本比率」という。
例えば、借入金総額が3000万円あり、総資本が5000万円ならば、借入金総資本比率は60%となる。
業種などで判断は異なるが、一般的には50%前後までなら、なんとか「許容範囲」と言えるかもしれない。
しかし、60%を超えると「要注意」、70%を超えるならば「要警戒」と言えるかもしれない。
借入金の裏には支払利息があり、依存度が高ければ高いほど金利負担も過酷になり、利益を減らすことになる。
その減った利益から元金を返済しなくてはならないので、資金繰りも苦しくなる。
適切な観点から判断すれば、総資本の30%以内に抑えるように、経営の舵取りをしたいものだ。
借入金は多くとも「総資本の30%以内」に抑える!
(2)借入金の適正度:借入金対月商倍率
「借入金の適正度」を見るには、借入金と平均月商を比べる。
そのことを「借入金対月商倍率」という。
例えば、借入金総額が3000万円あり、平均月商が500万円ならば、借入金対月商倍率は6カ月となる。
一般的には「3カ月まで」と言われているが、これには「根拠」がある。
その根拠は「利益率」に基づいて計算されており、例えば仮に利益率が10%で、その半分を元金返済に充てるとする。
すると、平均月商と同額にするには20カ月かかることになり、月商3カ月分の借入金を返済するには60カ月かかり、
5年を要することになる。
しかし、現実的に利益率10%の企業は中小企業では皆無に等しく、仮に半分とすると、返済期間は10年となる。
つまり、平均月商3カ月分の借入金を返済するのに10年間かかるということになる。
しかし現実の返済期間は長期でも7年間であり、そのことから考えると月商3カ月分の借入金でも過大と言えることになる。
借入金対月商倍率は返済期間から考えれば「3カ月分が限度」である!
(3)借入金の返済期間:債務償還年数
「借入金の返済期間」を見るには、借入金と年間営業利益を比べる。
そのことを「債務償還年数」という。
例えば、借入金総額が3000万円あり、年間営業利益が600万円ならば、債務償還年数は5年となる。
ただし、これは「最短の償還年数」だ。なぜなら、利益をすべて返済に回すという仮定のうえでの計算だからだ。
だから実際は債務償還年数の2倍から3倍はかかることになる。
もちろん、赤字経営ならば、営業利益がマイナスなので返済することはできない。
現実の返済期間は「債務償還年数の2倍~3倍」である!
もちろん、営業赤字ならば返済することはまったくできない!
しかし、60%を超えると「要注意」、70%を超えるならば「要警戒」と言えるかもしれない。
借入金の裏には支払利息があり、依存度が高ければ高いほど金利負担も過酷になり、利益を減らすことになる。
その減った利益から元金を返済しなくてはならないので、資金繰りも苦しくなる。
適切な観点から判断すれば、総資本の30%以内に抑えるように、経営の舵取りをしたいものだ。
借入金は多くとも「総資本の30%以内」に抑える!
4 固定負債・借入金を管理する上で大切なこと
大切なことは2つだ。
ひとつは、固定負債と流動負債の区分けをしっかりすることだ。
ふたつめは、その意味でも、長期借入金の内、今年返済する部分は「1年以内返済長期借入金」に振替え、
流動負債に計上することだ。
固定/流動負債の区分をしっかり行い、長借の今年返済部分は「1年以内長期借入金に振替える!
このような見方や考え方で、流動負債を管理すれば、安定した経営ができる。
大切なことは、会計資料を見ながら、経営者自らの知恵で考えてみることだ。
それが自社の経営ノウハウにつながる。