645.2024年度の主な制度改正
2024年2月2日
さて、本年2024年も多岐の分野において、多くの制度改正が予定されている。
分野別にまとめてみると次のとおりである。
■経理・財務関連
1. 電子帳簿保存法改正(2024年1月1日開始)
2. 金融商品取引法改正(2024年4月1日施行)
■労務関連
3. 労働安全衛生規則改正(2024年4月1日施行)
4. 労働基準法施行規則改正(2024年4月1日施行)
5. 改善基準告示改正(2024年4月1日施行)
6. 厚生年金保険法・健康保険法改正(2024年10月1日施行)
■法務関連
7.フリーランス保護新法(2024年11月までに施行)
■障碍者法関連
8. 障害者差別解消法改正(2024年4月1日施行)
9. 障害者総合支援法改正(2024年4月1日施行)
■知的財産関連
10. 意匠法改正(2024年1月1日施行)
11. 商標法改正(2024年4月1日施行)
12. 不正競争防止法改正(2024年4月1日施行)
13. 景品表示法改正(2024年11月までに施行)
■その他の分野
14. 民法改正(2024年4月1日施行)
15. 不動産登記法改正(2024年4月1日施行)
16. 民事訴訟法改正(2024年3月1日施行) 等々
今回はその中でも、比較的身近な分野における制度改正を紹介する。
1 電子帳簿保存法改正(2024年1月1日開始)【電子取引データ保存の猶予期間が終了】
電子データ保存は本来、2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法により電子取引に係るデータは電子保存が義務付けられ、
紙に印刷して保存することは不可とされていた。
しかし2年間の猶予措置があったので、一定の要件を満たせば、2023年12月末までは紙による保存も可能であった。
だが、その猶予期間も終了したので、今年からは電子取引に係るデータは電子保存が一律で義務付けられている。
その電子データ保存の注意点は次のとおりだ。
1.手書き帳簿は対象外であること
手書き帳簿とは、たとえパソコンで作成したものであっても、”手書きの追記”があれば手書きとなり、
電子保存はできないということである。
2.データスキャンはカラーで現物大であること
データスキャンは”カラー”で、かつ”現物大”であることが必須となっている。
モノクロスキャンや縮小スキャンでは、電子保存はできない。
3.ある一定の古いものは現物での保存となる
上記のほか、古いものはそのまま原本での保存となる。
古いものとは、2カ月と7営業日が過ぎた書類等をいう。
4.電子データの保存期間は7年間
保存期間は7年間であるが、その間にパソコンが壊れたり、データファイルが破損したりする場合があるので、
なんらかの復旧対策を講じなければならない。
今年1月より電子取引データは電子保存しなければならない!
2 金融商品取引法改正(2024年4月1日施行)【四半期報告書の廃止等】
金融商品取引法とは、上場企業に対する「企業情報開示」を義務付けている法律だ。
その中で「四半期報告書」という報告書が義務付けられていたが、「決算短信」と内容が重複することも多いので、
その必要性が問われていた。
そこで、2024年4月1日から施行される金融商品取引法の改正の中で、「四半期報告書」が廃止される。
金融商品取引法の改正ではそのほかにも、顧客本位の業務運営の確保、金融リテラシーの向上、デジタル化進展に対応した
顧客等の利便性向上や保護に関する規定が盛り込まれている。
4月から「四半期報告書」は廃止される!
3 労働安全衛生規則改正(2024年4月1日施行)【化学物質管理者選任の義務化】
「化学物質管理者」とは、事業現場における化学物質を管理するに際して、技術的事項を管理する担当者ことであるが、
従来はガイドラインによって位置づけられていた。
しかし今回の労働安全衛生規則の改正により、2024年4月1日以降は、リスクアセスメント対象物を扱うすべての事業場において、
化学物質管理者の選任が義務付けられるようになる。
4. 労働基準法施行規則改正(2024年4月1日施行)【労働条件明示のルール・裁量労働制の見直し】
(1)労働条件明示のルール変更
労働基準法施行規則の改正により、2024年4月1日以降、労働者を雇い入れる場合は交付する「労働条件通知書」に、
以下の記載が義務付けられる。
1.就業場所と従事すべき業務の変更範囲
2.更新上限の有無および内容
3.無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに無期転換を申し込むことができる旨の記載
4.無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに無期転換後の労働条件の記載
労働条件はより明確に記載することが求められる!
(2)裁量労働制の見直し
「専門業務型裁量労働制」の対象業務に次の業務が追加されるほか、労使協定等に記載すべき事項が追加される。
1.追加される対象業務
・銀行又は証券会社における顧客の合併、および買収に関する調査又は分析、およびこれに基づく合併、および買収に関する
考案、および助言の業務(M&Aアドバイザリーに関する業務)
2.労使協定等への記載が追加される事項
・労働者本人の同意
・労働者が同意をしなかった場合の不利益な取り扱いの禁止
・同意の撤回の手続き
・各労働者の同意および同意の撤回に関する記録の保存
専門業務型裁量労働制は対象業務が追加され、労使協定への記載が追加される!
5 改善基準告示改正(2024年4月1日施行)【特定業種における労働時間の上限規制の見直し】
2024年4月1日から改善基準告示の改正が施行され、ドライバーの労働時間に関する規制が厳格化される。
これがいわゆる「物流の2024年問題」といわれるものだ。
具体的には、ドライバーの拘束時間の上限が短縮されるほか、勤務間インターバルの確保などが求められる。
ドライバーの拘束時間上限は960時間に制限される!
6 厚生年金保険法・健康保険法改正(2024年10月1日施行)【51人以上の事業所で社会保険適用対象】
社会保険の適用拡大は、多くの企業の経営に、大変大きな影響を与える改正だ。
2024年10月に改正される、社会保険の「加入条件」は以下のとおりだ。
1.従業員数が「常時101人以上」から「51人以上」である事業所までに拡大
2.週の所定労働時間が「20時間」以上である従業員
3.雇用期間が「2か月」を超えて見込まれる従業員
4.賃金の月額が「88,000円」以上である従業員
5.学生ではない(一部例外もあり)従業員
従業員が「常時51人以上」になると、多くの中小企業でも該当する場合が多くなり、法定福利費などの負担増が見込まれる。
したがって、いまから抜本的な経営改革が必要となってくる。
社会保険適用事務所は「101人以上」から「51人以上」に拡がる!
7 フリーランス保護法(2024年11月までに施行)【契約内容の明示等を義務化】
「フリーランス保護法」は新しい法律だが、働き方の多様化の進展に鑑みて、個人が事業者として受託した業務に安定的に
従事することができる環境を整備することを目的にしている。
各種の労働法が適用される一般労働者とは異なり、これまで、フリーランスには取引における立場が保障されていなかった。
一部、下請法によって一定の保護を受けられる場合もあったが、資本金要件を満たさず、下請法が適用されないケースもあったと
いわれる。
そこで新しく「フリーランス保護法」を定め、資本金の多寡を問わず、以下の規制などを定め、取引におけるフリーランスの保護を
図ることとなった。 なお、2024年11月までの施行が予定されている。
フリーランス保護法による規制
1.書面等での契約内容の明示
2.報酬の60日以内支払い
3.募集情報の的確な表示
4.ハラスメント対策の明示
フリーランス保護法によって多様な働き方を促進する背景がある!
8. 障害者差別解消法改正(2024年4月1日施行)【事業者による障害者への合理的配慮提供の義務化】
障害者を雇用することは、いまや経営者としては、心がけないといけない時代となっている。
そこで、障害者差別解消法を改正し、事業者に対して、障害者への合理的配慮の提供が義務付けられるようになった。
障害者差別解消法改正の内容
1.障害を理由とする「不当な差別的取扱い」の禁止
2.障害のある人から申出があった場合に「合理的配慮の提供」を行う
これまで、これら障害者に対する「合理的配慮の提供義務」は、国や地方公共団体などに限られていた。
一方、民間事業者に対しては『努力義務』とされていた。
しかし、今回の改正によって、民間にも国や地方公共団体並みに法律上の義務を求めるようになった。
障害者も大切な労働力として考えることが当たり前になっている!
9 障害者総合支援法改正(2024年4月1日施行)【障害者等の地域生活や就労支援の強化等】
障害者総合支援法の改正によって、障害者等の希望する生活を、よりよく実現するための変更が行われる。
障害者総合支援法改正のポイント
1.障害者等の地域生活支援体制の充実
2.障害者の就労支援および障害者雇用の質の向上の推進
3.精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備
4.難病患者等に対する適切な医療の充実および療養生活支援の強化
5.障害者・難病等についてのデータベースに関する規定を整備 等々
障害者もやっと普通の生活ができるように支援する時代となって来た!
10 不正競争防止法改正(2024年4月1日施行)【ブランド・デザインの保護強化等】
不正競争防止法の改正では、主に以下の改正が行われる。
不正競争防止法改正のポイント
1.ブランド・デザインの保護強化
2.営業秘密・限定提供データの保護強化
3.損害賠償額の算定規定の拡充
4.外国公務員贈賄罪の強化・拡充
中小企業経営においてはその面の規律が甘いところがあるので、今後はブランドやデザインなどの権利に気を付けねばならない。
2024年は「甲辰(きのえたつ)」・・。
甲とは、十干の最初に出てくるもので、甲冑(かっちゅう)の「甲」の文字から鎧や兜が連想でき、
種子が厚い皮に守られて芽を出さない状態や、物事に対して耐え忍ぶ状態を表す文字と言われている。
また、生命や物事の始まり、成長なども意味するそうだ。
一方、辰は「振るう」という文字に由来しており、自然万物が振動し、草木が成長して活力が旺盛になる状態を表すそうだ。
辰は、竜(龍)のことでもあり、十二支の中で唯一の空想上の生きもので、東洋では権力や隆盛の象徴でもある。
そのようなことから、2024年はこれまで耐えていたものが活力を増し、隆盛を誇る年になるとも解釈できる。
ぜひ、今年一年がそのような年になるように努力していきたいものだ。