646.直接原価P/Lの詳細 直接原価とは

2024年2月9日

なかなか、経営環境が良くならない。

ひょっとして、このことについては「時代は経営環境に負けない経営を求めている」と考え直した方が良いような気もする。

そこで今回から、そんな経営環境に負けない経営のヒントが求められる『直接原価計算損益計算書』について考えてみたい。

直接原価計算損益計算書は、別名『変動損益計算書』とも呼ばれる。

また、直接原価計算損益計算書は管理会計なので、制度会計の全部原価損益計算書のように会計原則の制約を受けない特徴もある。

したがって、一口に「直接原価計算損益計算書」と言っても、そこには細部が違うものが存在できるという柔軟性がある。

そんなことも考慮しながら、第一回目は直接原価計算損益計算書のキーとなる『直接原価計算』について、詳しく見てみよう。

 

 

1 『直接原価計算』は「変動費」だけを原価とする計算方法

売上原価の費用には『変動費』もあれば、『固定費』も存在する。

『直接原価計算』は、売上原価あるいは製造原価について、変動費だけしか売上原価あるいは製造原価とする考え方だ

そうすることで、売上に対する原価をより正確に算出できるようになり、製品の提供価格やコスト削減を考える際に、

大変有効な資料となる。

 

 

2 『直接原価』とは

『直接原価』とは直接的な原価という意味であり、間接的な原価を意味しない。

つまり、『直接原価』とは売上と”直結”して”比例”して増減する原価のことであり、商品販売やサービスあるいはものづくりに

必要な商品や材料費のことを指す。

たとえば、小売店であれば「仕入商品」がそうであり、飲食店であれば「食材」がそうであり、製造する工場であれば「材料」が

それにあたる。

しかし、一部の企業では、工場で働く従業員の賃金や製造に必要な設備の維持費なども変動費に入れたりすることもある。

これは既述したように「直接原価計算損益計算書は管理会計の資料」なので、そのようなルールは各企業で決めればよいと

いうことである。

したがって企業としては、非常に使い勝手の良い、有益な損益計算書となる。

そこが制度会計の『全部原価損益計算書』との大きな違いの一つになる。

 

 

3 『全部原価計算』との違い

では、直接原価計算と全部原価計算の違いについて、あらためて考えてみよう。

 

(1)全部原価計算は売上に対する「全ての原価」を売上原価とする計算方法である

全部原価計算とは、商品や製品・サービスなどに対する仕入や製造にかかるすべての費用を『売上原価』として計算する方法だ。

ちなみに、税務署や金融機関に提出する損益計算書はすべて『全部原価計算損益計算書』である。

それは会計原則でそのようにすることが決められているからだ。

だから、全部原価計算損益計算書は制度会計上の損益計算書と言われる。

しかしながら、売上原価中の変動費も固定費も全て原価として扱うので、ある意味、計算しやすいとも言える。

がしかし、全部原価計算では計算の特性上から、製造量に応じて原価率が変わるため、正確な原価率を把握しづらくなる。

また、全部原価計算では期中に売れず、在庫に残った製品は『棚卸資産』に計上するので、製品が売れるまでは費用として

考えないという大きな特徴がある。

このことは重要なことなので、よく理解しておきたい。

そのため当期に製造しているにもかかわらず、費用が当期に計上されなくなるので、その分、計算上の利益が大きくなってしまう。

実際の費用を考慮できていないため、全部原価計算では当期の利益率を正しく算出できないとも言え、そこが経営者の感覚と

”ズレ”を生じさせる要因となっている。

 

(2) 直接原価計算と全部原価計算の相違点

全部原価計算が変動費と固定費の両方を製品原価として取り扱う。

それに対して、直接原価計算はそれぞれ区別した上で、変動費だけで製造原価を計算する。

両者の計算方法と製品原価とするものをまとめると、下記のようになる。

  (計算方法)  (製品原価として計上するもの)
  直接原価計算   変動費     *商品や原材料のみ
  全部原価計算   変動費・固定費 *原材料費、人件費、広告費すべて

たとえば、ある製品費用の内訳が「原材料費」「人件費」の2種類だったとすれば、全部原価計算ではいずれも製品原価となる。

したがって、生産量によって人件費などは違ってくるので、全部原価計算は製造する数に応じて『原価率』が変わってくる。

このことが全部原価計算の特徴であり、困る点でもある。

一方、直接原価計算では「原材料費」のみ製品原価になるため、製造する数が変わっても『原価率』は変わらない。

さらに、期中に製品が売れ残った場合でも棚卸資産には計上しないので、その事業期間かけた費用はすべて費用になるという特徴も

ある。

 

(3)直接原価計算と全部原価計算の営業利益には差がある

そうなると、当然のことながら、直接原価計算と全部原価計算では『営業利益』には差が生じる。

期首・期末に製品や仕掛品がある場合は、直接原価計算の営業利益の数字は全部原価計算の数字と一致せず、乖離することになる。

その原因は、それぞれの固定費製造費用の計上が異なるからだ。

全部原価計算の場合は、「売れていない製品分については固定費製造費用に含めない」。

直接原価計算は売れた・売れていないに関係なく「すべての製品分を固定費製造費用に含める」。

そのため、損益計算書上の営業利益に差が生じることになる。

仮に、期首・期末の製品や仕掛品は存在しないとすると、理論上は2つの営業利益は同じとなる。

 

 

4 直接原価計算における原価の分類

直接原価計算とは費用について変動費と固定費に分類した上で、変動費だけを製品原価として考える計算方法だと説明した。

具体的には製造原価を「変動製造原価」と「固定製造原価」に分けた上で、「変動製造原価」の部分だけを用いて計算する。

なお、固定製造原価のことを、直接原価と対比させて『間接原価』と表現する場合もある。

直接原価計算の製造原価は次の4つからなる。

 (直接原価計算の製造原価)

    直接材料費
    直接労務費
    直接経費
    変動製造間接費

もっとシンプルに考えるならば、『直接材料費』だけになる。 *そう考えた方がわかりやすいと思われる。

固定製造原価は製品原価として考慮しないで損益計算書上は期間費用として取り扱い、販売費及び一般管理費と一緒に計算する。

 

 

5 直接原価計算における損益計算書の4つの特徴

直接原価計算の損益計算書の特徴を考えてみよう。

(1)製品原価を変動費と固定費に分けて計上する

何度も説明するが、一般的に使われている『全部原価計算』では、変動費と固定費を両方とも製品原価に含める。

しかし『直接原価計算』では、製造原価を変動費と固定費に分けて、『変動製造原価』のみを製品原価とする。

直接原価計算で作成された損益計算書は、実際に仕入した材料費などをすべて変動費として計上し、固定費は販管費と同じく、

発生したものすべてを計上することが特徴だ。

※材料費などについても、製品が売れた分のみ変動費を計上する考え方もある。

 

(2)CVP分析による戦略立てがしやすい

CVP分析とは、『原価(Cost)』『生産販売量(Volume)』『利益(Profit)』の関係性を把握する分析方法である。

CVP分析で『限界利益』を求めると、『損益分岐点』となる売上高が算出できる。

損益分岐点が算出できれば、適切な製品の価格や目標の売上を達成するための経営方針が定められる。

直接原価計算は、企業の予算設定や戦略に役立つ計算方法と言われる所以だ。

もちろん、全部原価計算でもCVP分析は可能だ。

しかし、全部原価計算は固定費と変動費を合算しているため、正確に分析したいなら直接原価計算がよいと言える。

 

(3)固定製造原価は期間原価として扱う

直接原価計算の損益計算書では、固定製造原価は『期間原価』扱いとなる。

『期間原価』とは、発生した期間で費用として計上する考え方だ。

直接原価計算の固定製造原価は、販売費及び一般管理費と同じように、『期間原価』で処理することになる。

直接原価計算では変動製造原価だけ製品原価とするため、変動製造原価だけで売上原価を計算し、変動売上原価として扱う。

売上高から変動売上原価を差し引きし『変動製造マージン(限界利益)』を算出し、変動製造マージンから変動販売費を引けば

『貢献利益』というものが算出できる。

『貢献利益』とは、事業に対して真に貢献する利益という意味で、これが「人件費」、管理費などの「経費」、「営業利益」に

分配する原資となる。

よって、貢献利益から固定製造原価や販売費及び一般管理費を差し引けば、『営業利益』が算出できる。

 

(4)固定費調整を行う必要がある

固定費調整とは、直接原価計算で算出した営業利益額を、全部原価計算の営業利益額に修正、戻すことをいう。

直接原価計算は企業がより正確な数値で原価管理を行うための計算方法である。

がしかし、現行の会計では、原則として外部報告用の財務諸表としては『全部原価計算』で作成することを求めている。

したがって、企業の正式な利益として、直接原価計算の営業利益額を採用することはできない。

そこで、全部原価計算による損益計算書を作り直す必要性が出てくる。

固定表調整をすることによって、直接原価計算の営業利益額を用いて全部原価計算による損益計算書が作成できる。

固定費調整のやり方は下記のとおりだ。

  直接原価計算の営業利益額+期末時点の在庫品の固定製造原価ー期首時点の固定製造原価

  ※在庫品は仕掛品+製品として固定製造原価を計算する。

この固定費調整をすることで、最初から損益計算書を作成し直すことなく、全部原価計算での営業利益を算出することができる。

 

 

6 直接原価計算のメリット

それは、何よりも「経営分析」や「意思決定」に役立つことだ。

直接原価計算で作成した損益計算書からは『損益分岐点』を計算できる。

損益分岐点(BEP : break-even point)とは、売上高と総費用がイコールとなり、損益がゼロとなる売上高のことだ。

損益分岐点を売上金の金額で表したものを『損益分岐点売上高』という。

実際の売上高が損益分岐点売上高を上回ると利益が出て「黒字」となり、下回ると「赤字」となる。

損益分岐点がわかると、目標利益を達成するための改善策として、次の意思決定ができる。

 ・損益分岐点を上回る販売量を達成する
 ・損益分岐点を下げる(販売価格を下げる、変動費率を下げる、固定費を下げる)

 

 

 

直接原価計算は、変動費のみを原価とするため、固定費の発生を把握しやすいことも特徴だ。

直接原価計算を活用することで経営状況を分析し、「経営環境に負けない経営」に役立てよう!