654.会計の基本知識 事業の流れと読み方

2024年4月12日

 前回は「読み方のヒント」を説明したが、今回は「事業の流れ」に沿った読み方を理解し、さらに会計の読解力を高めよう。

 

1 事業の流れ

 毎日行っている事業だが、一体事業とはどのような流れで成立しているのか、振り返ってみよう。

            《事業の流れ》

資金調達→資金運用→販売活動→内部留保(資本の充実)

(1)資金調達

 まず、事業を始めるにあたってやることは、資金を準備することだ。そのことを「調達」という。

準備した資金のことを『資本』と呼び、その資本は『自己資本』と『他人資本』から成る。

自己資本は『純資産』に表示され、他人資本は『負債』に表示される。さらに負債は『流動負債』と『固定負債』に分けられる。

 ・流動負債は基本的に「運転資金」として運用する資金調達のことをいう。

 ・固定負債は基本的に「設備資金」として運用する資金調達のことをいう。

この理解が会計の読む力を促す。

そして、それらを総称して『総資本』という。

 

(2)資金運用

 資金が集められれば、その次に販売するための準備を行う。

たとえば、事務所を構えたり、設備を導入したり、材料や商品を準備する。

このモノを『資産』と呼び、資産は『流動資産』と『固定資産』に分けられる。

それらを総称として『総資産』と呼ぶ。

 ・流動資産は比較的、資金化しやすい資産である。

 ・固定資産は直接、資金化されず、減価償却や販売を通じて資金化され、長く運用される資産である。

この理解が、やはり会計を読む力を促す。

 

(3)販売活動

 資本と資産の準備ができれば、いよいよ販売の開始となる。

販売の結果は『売上高』として集計し、さらに『売上総利益』『営業利益』『経常利益』『税引前当期純利益』『当期純利益』と

集計される。

それらを集計するために費用を『売上原価』『販売費及び一般管理費(販管費)』『営業外損益』『特別損失』『法人税等』に

区分けし、それぞれの段階の利益を計算する。

 《売上高と段階別の利益概念》

  売上高ー売上原価=売上総利益

            ー販管費  =営業利益

                   ±営業外損益=経常利益

                          ±特別損失=税引前当期純利益

                                   ー法人税等=当期純利益

この損益の構造を理解することが、やはり会計を読む力を促す。

 

(4)内部留保(次期資金調達)

 そして、当期純利益が総資本の『繰越利益剰余金』に貯えられ、総資本が大きくなる。

総資本が大きくなれば総資産も大きくなり、総資産が大きくなれば売上高も大きくなり、売上高が大きくなれば当期純利益が

さらに大きくなり、その大きくなった当期純利益が総資本の繰越利益剰余金にまた貯えられ、このことを繰り返して事業はどんどん

成長する。これが本来あるべき姿の「事業の流れ」である。

事業は繰越利益剰余金を蓄えることで成長する!

 

 このような理解できてくると、次のことが理解できるようになる。

①総資本は事業資金であり、事業資金には自己資本と他人資本があるので、常に健全性や安全性を確認しておく必要がある。

②総資産は販売活動をするための資金運用であるので、その効率性や生産性を確認しておく必要がある。

③販売は最終的に当期純利益を確保し、次期の事業資金を獲得する活動であるので、その収益性を確認しておく必要がある。

 この3つの観点からの読み方が、「会計の見方」となる。

 

2 3つの観点からの読み方

 この4つの観点からの読み方は、前回に説明したとおりだが、いま一度、復習しておこう。

(1)事業資金の健全性、安全性の読み方

 ①流動負債の返済能力、安全性を読む  :流動比率、当座比率、手元資金比率

  ポイント:返済期間が短い他人資本はいつでも返済に応じられる形で運用しているか

 ②固定資産投資の健全性を読む     :固定比率、固定長期適合率

  ポイント:長く運用する固定資産は極力自己資本で調達しているか、または返済期間の長い他人資本を加えて調達できているか

 ③負債の健全性            :負債比率、借入金月商倍率、固定長期適合率

  ポイント:過剰に事業資金を他人資本に頼り過ぎていないか、融資額は適度か

 

(2)事業資産の効率性、生産性の読み方

 ①資産の効率性を読む        :売上債権回転率、棚卸資産回転率

  ポイント:債権はきちんと回収されているか、在庫は適正か

 ②資産の生産性を読み        :総資産利益率、総資産回転率、固定資産回転率

  ポイント:資産をしっかり活かしているか

 ③資産運用の健全性         :手元流動性比率、運転資金要調達高、運転資金要調達率

  ポイント:日々の運転資金は十分に備えられているか

 

(3)販売活動の収益性の読み方

 ①販売活動の成長性         :前年売上高比率

  ポイント:事業資金は年月とともに多く必要となるが、その源泉としての成長性は大丈夫か

 ②販売活動の利益率         :売上総利益率、営業利益率、経常利益率、当期純利益率

  ポイント:売上至上主義に陥っていないか、各段階で適正な利益が確保できているか

 ③販売活動のコスト率        :売上原価率、売上販管率

  ポイント:利益率を改善するための余地はないのかどうか

 ④販売活動の原動力         :売上高従業員人件費率

  ポイント:良質な販売活動の原動力は従業員の士気、その士気に応えられているか

 ⑤販売活動の収益性、安全性     :損益分岐点比率、経営安全率

  ポイント:将来どのような環境の変化が起ころうと持ち応えられるか

 

(4)内部留保の読み方

 ①自己資本の割合          :自己資本比率

  ポイント:調達している事業資金のうち、自己資本はどのくらいか

 ②内部留保のフリーキャッシュ割合  :手元資金繰越利益剰余金比率

  ポイント:いくら繰越利益剰余金があっても全て運用してれば資金繰りは厳しく、キャッシュ割合が大事!

 

読み方にこれだけ!ということはない、自社に適した読み方を考えることが大切!

 

 

これらのように自社の読み方ができるようになれば、自ずとマネジメントができ、

自社の安定性と成長性はさらに加速できる。