655.会計の基本知識 部署別業績責任会計
2024年4月19日
前々回・前回と、決算書や月次試算表の読み方を説明してきた。
それによって経営を管理することで、自社の財政状態と収益構造の改善が可能となる。
今回は、さらに会計によって社内意欲と士気を高め、より生産性を高める組織作りを紹介する。
それが『部署別 業績 責任 会計制度』と言われるものだ。
この仕組みによって、より活力ある組織作りと人材育成が可能となる。
この制度の要諦はどこになるかと言えば、「業績責任」とその反面の「権限移譲」だ。
多くの場合、責任は持たせるが、権限を持たせない・明らかにしないことが多い。
これでは責任をもってやることはできない。
責任をもってやらせるには、各責任者が達成すべき業績責任目標を明確にすることとともに、そのための権限も明確にすることだ。
それによって各責任者は創意工夫した活動が行え、それに関する意思決定も行える仕組みにするという考え方だ。
これによって人材不足も解消していく。なぜなら社員が辞めなくなるからだ。
よく「自分の会社には人材がいない」と嘆くセリフを耳にするが、決して自社に人材がいないのではないと思われる。
それなりの人材はいるのに、発掘できていない、気づかないだけの話だ。どんな企業にもそれなりの人材は必ずいる。
なぜなら特別な知識や技術が必要な職務である場合なら別だが、組織運営をするのに特別な知識や技術は要らないからだ。
誰でも「やる気」と「経験」と「気づき」などさえ積めば、必ず組織を運営できるようになる。
貴方は事業を行うにあたって特別な教育を受けましたか?
あるいは特別な知識を得ていましたか?
そう自問自答すれば、その解答は明らかだと思う。
そのための仕組み作りが『部署別業績責任会計制度』である。
1 部署別業績責任会計制度とは
なかなか困難なネーミングだが、文字面に捕らわれないで、冷静に単語を見てみよう。
1.「部署別」
部署別とは、利益責任単位(プロフィットセンター)を明確にするということだ。部門、セクション、グループと考えてもよい。
2.「業績」
業績とは、利益責任単位における「目標利益」を明確にするということだ。大事なことは「売上」ではなく、「利益」だ。
3.「責任」
責任とは、目標を達成するにあっての「権限」のことであり、換言すれば、経費に対する裁量権などのことだ。
この経費に関してはここまでであれば、判断を仰がないで自分で決めることが出来るということだ。
4.「会計制度」
会計制度とは、集計するにあたっての、会計処理基準のことだ。つまり、集計していくルールのことだ。
たとえば、共通費の配賦基準であったり、内部振替のルールなどが該当する。
※本来は共通費の配賦はしない方がよいと考える。
なぜならば、そこにはどうしても恣意性が働き、かえって目標達成がぼやけてくるからだ。
であれば、共通費は共通部門の責任目標にして、それ以下にすれば業績評価する制度にした方が、内部けん制も働き、
より目標利益達成が向上する可能性を秘める。
5.「成果配分」
部署別業績責任会計制度の文字面にはないが、最後に大事なことは「成果配分」の明確化である。
give and takeという言葉があるが、部署別業績がテイクであれば、これはギブの部分になる。
人は、ただ「やれ」だけでは動かない。ギブアンドテイクがあって初めて人は動く。至極当然のことだ。
具体的には、達成状況に応じた報酬規程などがある。
多くの経営者は、無意識のうちに求めることばかり言っている場合が多い。
経営理念や経営方針などで、経営者の経験等から社員にやることだけを求め、社員に与えることは一切言わない。
これではテイクばかりで、それで社員とすれば自分たちはどうなるの?ということになる。ギブが全くない。
社員がそのことを言わないのは、社員はそんなことは考えていないのではなく、社長を忖度しているだけの話だ。
ここに、根本的に人が動かいない、育たないという大きな原因がある。
したがって『部署別業績責任会計+成果配分』によって組織を活性化させ、やる気に満ちた組織にすることが大切だ。
話が横道にそれたが、『部署別業績責任会計制度』とは、責任目標(評価項目)と権限(自分で判断できる範囲)を明確にし、
その結果に対しては成果配分(賞与や人事評価等)で応える制度のことをいう。
その意味ではただのセグメント情報を得るための会計制度『部門別損益計算書』とは違いを大きくするので、理解してほしい。
2 部署別業績責任会計制度の目的
目的は二つある。
1.営業状況の問題を発見する
2.社員士気を向上させる
この2つだ。そのためにも、成果配分規定は部署別業績責任制度を活かすために必須のものとなるということだ。
多くの企業は企業理念を始め、従業員に求めるばかりであり、従業員に与えることは明確にしない場合が圧倒的に多い。
経営者はつい、従業員を自分と同じだと思い違いをするが、報酬を始めとして、経営者と従業員とはまったく違うわけである。
そんな状況で自分はこうだったといくら口を酸っぱく言っても、従業員が経営者と同じに動くはずがないことは当たり前のことだ。
また、利益責任単位とは、利益を上げていくために戦略上の意思決定を行う最小事業単位のことをいうことも留意しておきたい。
利益責任単位(プロフィットセンター)は利益を上げていくために戦略上の意思決定を行う最小事業単位である。
3 経費の区分と裁量権
この部署別業績責任会計制度を機能させるためには、経費区分と裁量権の設定が重要である。
具体的には、経費は、部門(プロフィットセンター)経費と本社(コストセンター)経費に大別される。
さらに部門経費は、個別経費と共通経費に分けられる。
個別経費とは、部門単位に計上できる経費ことをいい、さらに部門責任者に裁量権があるものとないものに分けられる。
共通経費とは、部門経費であることに間違いないが、個別部門単位に分けて計上することができない経費のことをいう。
そのほかに、本社経費がある。
この共通経費と本社経費を個別部門に配賦するのかしないのか、配賦するのであればどういう風に配賦するのかを決めなければ
ならない。
そこで個別経費だけはプロフィットセンターに計上し、共通経費と本社経費はコストセンターに計上し
プロフィットセンターは業績管理を、コストセンターは経費予算管理を行って業績を高める考え方もある。
4 5つの責任利益
部署別業績責任会計制度には、次のような「5つの責任利益」がある。
1.限界利益 =売上高ー変動費
2.達成利益 =限界利益ー裁量権のある個別経費
3.貢献利益 =達成利益ー裁量権のない個別経費
4.部門利益 =貢献利益ー配賦部門共通経費
5.経常利益 =部門利益ー配賦本社経費
※部門共通経費、本社経費を配賦しない場合は、貢献利益が最後になる。
5 評価の方法
これらの部署別業績責任会計制度を活かすためには「成果配分」が必須であることは、すでに述べたとおりである。
その成果配分の考え方の1例を紹介する。
1.部門社員は限界利益と部門利益で評価する。
2.部門管理職は達成利益と貢献利益で評価する。
3.部門責任者には貢献利益と部門利益で評価する。
4.本社スタッフは部門利益と経常利益で評価する。
つまり、部門責任者は部門共通経費までを責任範疇とするということであり、本社スタッフは本社経費の削減に努力するという
ことである。
また、部門社員・管理職の評価のポイントは、職責に応じた目標での評価と共通目標でも評価するということだ。
つまり、自分さえよければ良いという考え方にならないように、チームワークでも評価するということだ。
上記の場合でいえば、部門利益がチームワーク評価になる。
この考え方は一例であり、何もこの通りする必要はない。しかし繰り返しなるが、経営環境は新しい時代を迎えている。
その中にいるわれわれはそのことをなかなか肌感覚で感じることは難しいが、世の中は変わって行っているのだ。
もう戦後復興型の高度成長に戻ることはなく、現代は成熟社会の中でそれぞれの努力に応じて成果が変わる時代となっている。
大事なことは、人がいないと嘆くことより、いまの人材を信用し、みんなでやりがいのある仕組みを実行することである。