657.会計の基本知識 読み方の体系 2/4
2024年5月10日
前回に続き、『読み方の体系』第2回をお送りする。
第2回目の今回は、「分析体系各項目の具体的な読み方」だ。
1 『総資本利益率』は「利益率」と「回転率」の問題に収れんする
事業は利益を出していけないと存続ができず、いかなる事業目的も果たすことはできない。
したがって、事業目的や事業理念はいろいろあるとしても、そのためには「利益を出す」ということが前提目標になる。
その利益具合をチェックするにあたり、その根本は「事業に投資している資本に対してどのくらいの利益を出しているのか!?」
ということであり、そのことを『総資本利益率』と呼んでいる。
つまり、事業は投資した資本で「利益」を出すことが前提となっている!
その『総資本利益率』は、結局は『売上高利益率』と『総資産回転率』に収れんする。
それを算式で証明すると、次のようになる。
①『総資本利益率』とは、分子の「利益」を、分母の「総資本」で割り算したものだ。
②「利益」と「総資本」は、売上高利益率と総資本回転率の「売上高」を相殺した結果である。
③つまり『総資本利益率』は、『売上高利益率』と『総資本回転率』の問題だ。
④したがって、『売上高利益率』が高ければ「利益」が増え、さらに『総資本回転率』が高ければ「利益」をさらに増やす
原動力になっている。
したがって、「利益率」と「回転率」のバランスの良い事業が、収益率の高い事業になる。
『総資本利益率』は『売上高利益率』と『総資本回転率』の結果!
2 売上高利益率の詳細
ではその一方である、『売上高利益率』について詳しく見てみよう。
『売上高利益率』は、高ければ高いほど儲けが多くなるが、この利益率というものは業種や業態によって大体決まってくる。
一般的に、利益率が高い業種は回転率が低くくなり、利益率の低い業種は回転率が高くなるという傾向がある。
たとえば、高額商品は利益率が高いが、なかなか売れず、低額商品はよく売れるが、利益率は低いというように。
したがって、利益率も回転率も高いという事業はなかなかなく、そこが出来れば、優れたビジネスモデルとなる。
売上高利益率(%)=売上総利益(又は営業利益、経常利益)÷売上高×100
この計算式が示す通り、利益率とは、売上高に対する各段階の利益割合であり、
売上に対して原価が低くければ、売上総利益は高くなり、さらに販管費も低ければ営業利益も高くなり、経常利益も高くなる。
一方、現代社会は、従業員の賃金を上げることが求められている。
特に、中小企業は、人材確保の点からも強く求められている。
したがって、「いかに売上総利益率を高めるのか」「いかにして付加価値を上げるのか」ということが大きなテーマになっている。
そうでないと、賃金を上げることは出来ず、やがて事業は厳しくなっていく。
そんな利益率だが、その状況を詳しく見るにはどうすればよいのか。
それは「5段階の利益率」と、その費用の割合を見ればわかる。
(1)売上総利益率 (%)=売上総利益÷売上高×100
商品仕入比率 (%)=商品仕入 ÷売上高×100
材料費比率 (%)=材料費 ÷売上高×100
労務費比率 (%)=労務費 ÷売上高×100
外注加工費比率(%)=外注加工費÷売上高×100
製造経費比率 (%)=製造経費 ÷売上高×100
(2)売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
販売費比率 (%)=販売費 ÷売上高×100
一般管理費比率(%)=一般管理費÷売上高×100
販管人件費比率(%)=販管人件費÷売上高×100
(3)売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100
営業外収益比率(%)=営業外収益÷売上高×100
営業外費用比率(%)=営業外費用÷売上高×100
支払利息比率 (%)=支払利息 ÷売上高×100
このように、各段階の利益率とその費用割合を見れば、どこで利益率を落としているのか、その原因が突き止められる。
3 総資本回転率の詳細
次にもう一方の、『総資本回転率』について、詳しく見てみよう。
『総資本回転率』も高ければ高いほど良いが、やはり業種や業態によって大体決まってくる。
一般的に、回転率の高い業種は利益率が低く、回転率の低い業種は利益率が高いというように。
「どちらも高い」という事業はなかなかなく、そこに事業改善を行い続けなければならない理由がある。
総資本回転率(回)=売上高÷総資本
この計算式が示す通り、回転率とは「総資本(事業資金)を投下して、その何倍の売上を上げたか」を示す。
したがって、少ない資本で、多くの売上高を上げられれば回転率は上がり、「優れた事業」と言われる。
また、回転率もこれまでモノをベースした見方だけでよかったが、賃金を高めるにはヒトをベースにした見方も必要となる。
労働回転率(回)=売上高÷人件費 *人件費=役員報酬・賞与+従業員給与・賞与+法定福利費
現代は賃金を上げることが求められているので、賃金を上げても、ある一定の『労働回転率』が確保できることが重要となる。
賃金を上げて、労働回転率が下がれば、いうまでもなく、事業は厳しくなる。
さらに『労働回転率』を人件費合計だけで見るのではなく、役員や社員など雇用契約単位ごとに見ることが重要となっている。
そんな『総資本回転率』だが、その状況を詳しく読むにはどうすればよいのだろうか。
それは、総資本を構成している、それぞれの『資産』や『資本』の回転期間を見ればわかる。
総資本回転期間(日)=総資本÷(売上高÷365)=総資本÷売上高×365
これは、総資本を1日当りの平均売上高で割っていることになる。
回転期間とは、投下している総資本(事業資金)と同額となる売上高をあげるまでの期間を示している。
したがって、その期間は、短ければ短いほど良いということになる。
同じ論法で、主要な資産や負債、純資産をの回転期間を計算すると、『総資本回転率』が低くなっている問題箇所が掴める。
(1)流動資産回転期間(日)=流動資産÷(売上高÷365)=流動資産÷売上高×365
流動資産も回転期間は短ければ短いほど「良い」ことになる。
さらにその詳細を読むことも大切だ。
①現預金回転期間(日) =現預金÷(売上高÷365)=現預金÷売上高×365
現預金は、運用というより余剰資金的色彩が強いが、短いと手元資金が少ないことを示し、はやり長い方が良いし、安心だ。
一部にあまりに現預金が多いと「積極的に資産を事業に活用していない」と批判的な説明もあるが、
それは一般投資家が存在する上場企業・大企業の場合であり、一般投資家が存在しない中小企業は安全性が高いと評価される。
②売上債権回転期間(日) =売上債権÷(売上高÷365)=売上債権÷売上高×365
売上債権は多ければ安心している中小経営者を多く見かけるが、売上債権が多いということは、回収期間が長いことや
未回収債権があることを示しており、決して良いとは言えない。
売上債権に関して良いのは、約定に応じた回転期間が良い。
③棚卸資産回転期間(日) =棚卸資産÷(売上高÷365)=棚卸資産÷売上高×365
棚卸資産はあまり回転期間が短くて、品切れを起こすようでは問題だが、そうでない限りは短い方が良い。
優良企業と呼ばれれる中小企業の棚卸回転期間は総じて短い。
④その他流動資産回転期間(日)=その他流動資産÷(売上高÷365)=その他流動資産÷売上高×365
その他流動資産は、そのほとんどが事業に不要な運用資産であることが多いので、短いほど良いと考えられる。
(2)固定資産回転期間(日) =固定資産÷(売上高÷365)=固定資産÷売上高×365
固定資産は本来生産設備なので、稼働率から考えれば短い方が良いが、極端に短いと設備不足を示している場合もある。
特に、製造をしている事業にとって、有形固定資産の回転期間を読むことは必須だ。
①有形固定資産回転期間(日)=有形固定資産÷(売上高÷365)=有形固定資産÷売上高×365
有形固定資産は生産設備そのものなので短い方が良いが、あまりにも短いと設備不足ではないかと確認する必要がある。
(3)流動負債回転期間(日) =流動負債÷(売上高÷365)=流動負債÷売上高×365
負債はある程度長い方が返済金額が低いと考えられるので、少々長い方が事業にとっては有利だと考えられる。
特に、仕入時の負債である買入債務の回転期間はチェックしておきたい。
①買入債務回転期間(日) =買入債務÷(売上高÷365)=買入債務÷売上高×365
買入債務は運転資金に影響を及ぼすので、ある程度長い方が事業にとって有利だと考えられる。
②運転資金要調達高(円) =(売上債権+棚卸資産)ー買入債務
回転期間ではないが、売買活動の裏付けとして、これも確認しておきたい。
売上債権と棚卸資産は、売買活動で運用している資金を表す。
それに対して、買入債務は、売買活動で調達している資金を表す。
したがって、売買だけで資金バランスを保とうと考えると、売上債権+棚卸資産=買入債務でなければならない。
売上債権+棚卸資産の方が多ければ、その分だけ買入債務以外から資金調達しなければならず、それが出来なければ、
黒字倒産の引き金となる。
現金商売は売買活動で運用している資産がないから、資金繰りが比較的ラクと言われる所以だ。
(4)固定負債回転期間(日) =固定負債÷(売上高÷365)=固定負債÷売上高×365
固定負債は長期運用資産に対する調達資金なので、回転期間は長い方が望ましい。
しかし、あまりにも長い場合は経営にとって負担になるので、確認はしておきたいものだ。
特に、金融機関からの借入れである有利子負債については、入念に確認しておきたい。
①有利子負債回転期間(日) =有利子負債÷(売上高÷365)=有利子負債÷売上高×365
有利子負債である銀行等からの借入金は、返済期間が長いほど事業にとっては有利だが、あまりにも長すぎると。
「借入金依存体質」になっている恐れがあるので、改善が必要となる。
(5)自己資本回転期間(日) =自己資本÷(売上高÷365)=自己資本÷売上高×365
自己資本は基本的には長ければ長いほど良いが、あまりにも長いと自己資本を活かしていないという考え方もあるが、
それは事業を大きく成長させたい場合だけである。
以上のように『回転期間』とは、その資産や資本と同等額の売上高を上げるまでに要した期間を示すことになる。
つまり、総資本回転率が「3回」であれば、回転期間に置き刈れば、122日(≠365日÷3)だ。
したがって、単純に総括すれば、資産の回転期間は短ければ短いほど良く、資本の回転期間は長ければ長いほど良い傾向にある。
ただし一概にはそうとは言い切れないので、注意が必要だ。
総資本回転率が悪ければ、いずれかの回転期間に問題が潜んでいる!