658.会計の基本知識 読み方の体系 3/4

2024年5月17日

 前回に続き『読み方の体系』の第3回をお送りする。

第3回の今回は、利益率と回転率の読み方に続き、「生産性」と「安全性」の読み方だ。

 

 

1 利益率と回転率以外の状況を知る「生産性」

 「生産性」とは、人材と設備を有効に活かしているのか、ということだ。

人材と設備は、生産性が高いと有効活用しているということになる。

その主な生産性を知る方法は、次のとおりだ。

 

①一人当り売上高    (千円)=売上高÷従業員数

 一人当たりの売上高は高いことに越したことはない。前年や業界平均などと比べて、自社の状況を読むことが大切だ。

 

②粗利益率        (%) =売上総利益÷売上高×100

 一人当たりの売上高が高いからと言って、必ずしも粗利益率が高いとは言えない。

 事業の最終目的は売上を通じて「利益」を確保することだ。

 それ確認するためには、粗利益率も前年や業界平均などと比べることが大切だ。

 

③一人当り粗利益    (千円)=売上総利益÷従業員数

 最近は成熟した経営環境なので、なかなか粗利益率を向上させることは難しい。

 そこで粗利益率は別にして、粗利益の実額がどうなっているのか、確認することが大切だ。

 

④労働分配率       (%) =人件費÷売上総利益×100

 『労働分配率』とは、あまり馴染みのない用語だが、粗利益や売上高に占める人件費の割合のことをいう。

 昨今は給料の引き上げが求められているので、全体で労働分配率だけでなく、社員や契約社員(パート・アルバイト)など

 雇用契約ごとに労働分配率を認識し、人材育成マネジメントに活かしていく姿勢が大事だ。

 従業員の士気高揚のために経営理念などの浸透に力を入れる企業も多いが、従業員の立場として理念だけでは

 豊かな生活を送ることはできない。併せて、給料はできるだけ引き上げる姿勢が社員のやる気を起こす。 

 

⑤一人当り総資本    (千円)=総資本÷従業員数

 やや焦点がボケる帰来はあるが、突き詰めていくと、社員一人当たりの総資本(=総資産)も生産性向上には不可欠だ。

 時には、一人当たり総資本(=総資産)を確認して見ることも有益なことだ。

 

⑥一人当り有形固定資産 (千円)=有形固定資産÷従業員数

 人はモノを活用して生産性を上げる。そのためには、一人当たりの設備装備率とも言い換えられる一人当たり有形固定資産を

 チェックすることも大切だ。それによって、設備投資なども考える必要がある。

 

⑦有形固定資産回転率   (回) =売上高÷有形固定資産

 設備である有形固定資産は飾りではないので、ただいたずらに設備投資をすればよいというものではない。

 現在の設備稼働状況を確認することは、特に製造にかかわる企業にとっては大変重要なことだ。

 

⑧一人当り営業(又は経常)利益(千円)=営業(又は経常)利益÷売上高×100

 企業の本業による儲けは「営業利益」であり、最終利益は「経常利益」である。

 自社の営業利益あるいは経常利益が、一人当りどの程度あるのかは、常に認識しておく必要がある。

 もしそれが低ければ、そのプロセスに、問題なり課題が潜んでいるので、試行錯誤しながらも経営改善に取り組む必要がある。

 

 その他にも生産性を読む方法はいろいろと考えられるが、

生産性とは、人材やモノあるいは資金など、単位当たりの自社の状況を読むことに他ならない。

よく、「経営資源はヒト・モノ・カネ・情報」と言われるが、資源は活かすものである。

したがって、単位当たりの売上や利益が上げられれば上げられるほど、経営資源を活かしていることになる。

その観点から自社の状況を読もうとするのが、『生産性分析』である。

人材・モノ・カネ・情報は活かすもの、それが生産性分析で読み取れる!

 

 

2 経営状況の安定性を知る「安全性」

 安全性とは、経営状況の安定さのことをいう。

事業はよく「ゴーイングコンサーン(going concern)」と言われる。

つまり、事業の継続性のことだが、正確な意味は別にして、事業には多くの人が携わっている。

たとえ、従業員が2~3名の中小零細企業であっても、その家族あるいは関係者などを含めて考えると、

多くの人の人生を預かっていると考えられる。

そのことに対する責任から、事業を健全に継続させることが肝心であり、経営者の最大の役割だ。

 その自社の状況を読む方法が、この安全性だ。その主な安全性を読む方法は、次のとおりだ。

 

①手元流動性比率    (月)=手元資金÷平均月商

 事業にとって、平均月商とは家計で言えば生活費のようなものだ。

 毎月の売上の下で必要な費用や経費あるいは返済を行っている。

 そんな企業にとっての生活費ともいえる平均月商の何カ月分の手元資金があるのかを示すのが手元流動性比率だ。

  よく、「手元流動性が高すぎると、企業が営業活動から得られた資金を再投資せず、手元の資金 を寝かせていると

 捉えることもできます」なんて説明されることが多いが、中小企業にとってはそんなことはない。

 手元流動性が高いことは、安全性が高く、良い中小企業である。

 

②流動比率    (%)=流動資産÷流動負債×100

 流動負債は近い将来返済しなければならない他人資本だ。

 したがって、それは近い将来資金化できる資産に運用していることが望ましい。

 流動比率はそんな状況を伝えてくれる。

 

③当座比率     (%)=当座資産÷流動負債×100

 流動資産にはまだ売れもしていない棚卸資産を始め、不透明な運用であるその他流動資産も含まれている。

 したがって、流動負債の返済の当てにするには少しクエスチョンが混在している。

 そこで純度を上げて、返済原資として当座資産だけで流動負債の返済能力を計ったものが当座比率だ。

 これが100%以上であれば、安全性は高い。

 

④手元資金比率   (%)=手元資金÷流動負債×100

 当座資産には売上債権が混じっているが、中小零細企業の売上債権には不良債権が混在している場合が多い。

 そこで厳しく流動負債の返済能力を読む方法が、この手元資金比率だ。

 返済原資を手元資金(現預金)だけに絞っているので、これが100%であれば、返済能力は間違いない。

 

⑤預金対借入金比率 (%) =預金÷有利子負債×100

 借入金は当初、預金に入ってくるので、当初の預金対借入金比率は100%以上あることも珍しくはない。

 しかし、返済を重ねるごとに、預金は減少し、どんどんドンドン預金対借入金比率は落ちてくることになる。

 しかしそうは言っても、最低でも借入金の3割以上の預金残高は持っておきたいものである。

 

⑥借入金対月商倍率 (月)=有利子負債÷平均月商

 家計でも事業でも、借りれるならいくら借りてもよいというものではない。当たり前のことだ。

 通常は月商の3カ月分が借入金の限度額だと言われている。

 中小零細企業ではこれを大幅に上回っている企業が多くあるが、もうコロナ禍ではないので、

 50歩譲っても、6カ月分ぐらいが限度だ。

 それを上回っている場合はリスケを行い、1回あたりの返済額を抑えるなどの交渉が必要だ。

 

⑦固定比率    (%)=固定資産÷自己資本×100

 設備投資は銀行融資を受けて行うのが常識だと考えている経営者が多いが、優良中小零細企業の経営者はそうでない。

 すべて、100%自己資本で設備投資を行っている。 その状態は、固定比率100%か、それ以下だ。

 普通の企業でも、固定比率は200%以内(つまり、半分は自己資本で賄っている)には抑えておきたい。

 

⑧固定長期適合率 (%) =固定資産÷(自己資本+固定負債)×100

 固定長期適合率とは、固定資産の投資が長期的に見れば適合しているという意味の比率だ。

 つまり、自己資本と固定負債(長期借入金)で、固定資産の投資を賄っているという意味だ。

 したがって、この固定長期適合率は最大で100%、できればそれ以下でないと固定資産投資不適合になる。

 

⑨自己資本比率  (%)=自己資本÷総資本×100

 中小企業の自己資本比率は『20%前後』と言われている。

 つまり、事業資金の内、自己資本は2割で、他人資本は8割ということだ。

 これでは大変財務力が弱いと言わざるを得ず、そのためにそれ相当の金利負担を強いられることとになり、

 損益にも悪影響を与え、悪循環に陥っていると言わざるを得ない。

 やはり1年2年は苦労をするかもわからないが、なんとか自己資本比率は50%近くまで持っていきたいものだ。

 

 「守りの経営」としては安全性を高めることが大切だ。

 特に、手元資金比率、借入金対月商倍率、固定比率がキーファクターになるかと思われる。

 そのうえで「攻めの経営」の骨格である、一人当り売上高、一人当り粗利益、労働分配率、一人当り営業利益など

 管理していけば、強い経営に変革できる。

 

「守りを固めて、攻めに転ず」これが強い経営へ変革する道!