33.事業収益力⑥経費率

2010年1月16日

財務分析解説コラム(17) 当社事業の収益性を検証する -売上高比率-
前回は『回転期間』を説明し、総資本(総資産)の効率性に関する原因分析ができることを紹介しました。今回は「当社事業の収益性を検証する第6回」として、事業業績(損益計算書)の改善分析ができる『売上高比率』について説明します。

売上高比率とは
『売上高比率』とは各利益あるいは各費用を売上高と比べることによって、それらが売上高の何%を占めるのかを表す指標です。利益には5つの利益がありましたね。売上総利益、営業利益、経常利益、税引き前当期純利益、当期純利益の5つです。金額だけで見れば利益を上げているように見えても、売上高と比べることによってずいぶん印象が違ってきます。例えば、経常利益が100万円あったとします。売上高が1,000万円であれば、経常利益率は10%となり、“高収益企業”と言えます。しかし、売上高が1億円であれば経常利益率は0.1%となり、1年定期預金の利率より低く、決して収益性が高い事業とは言えません。いずれの利益も大切ではありますが、現在のような経済環境においては売上総利益と営業利益が最も重要です。
費用についても同様です。金額だけでは使いすぎているのかどうかは判断できません。売上高と比べることによって、節減しなければならないという判断できます。利益率を除く、主な『売上高比率』には次のようなものがあげられます。
計算式:売上高材料費比率    =材料費÷売上高
売上高労務費比率    =労務費÷売上高
*労務費とは製造業で作成される製造原価明細書に記載される原価の一つ
であり、製造に携わる従業員にかかった費用の総額です。
具体的には、給与・賞与・法定福利費・福利厚生費が当てはまります。
売上高外注加工費比率  =外注加工費÷売上高
売上高製造経費比率   =製造経費÷売上高
*以上は製造原価がある業種だけです。
売上高販売費・管理費比率=販売費及び一般管理費÷売上高
*販売費とは販売員の給料や教育費・販売促進にかかる広告宣伝費などに
代表されるように、販売を目的としてかかる費用であり、売上高の推移
と関連性がある費用です。
*管理費とは会計部門や総務部門など社内管理業務にかかる費用であり、
売上高の推移に直接関連性のない費用です。
売上高販管人件費比率  =販管人件費÷売上高
*販管人件費とは販売員給与及び事務員給与・従業員賞与並びに法定福利
費・厚生費等の費用です。
売上高各費用比率    =各製造費用又は各経費÷売上高
*売上高各費用比率は製造費用、販売費及び一般管理費の勘定科目数だけ
あります。
売上高営業外収益率   =営業外収益÷売上高
売上高営業外費用率   =営業外費用÷売上高
売上高支払利息割引料比率=支払利息割引料÷売上高

売上高比率の見方
(1)比べる
利益率は高ければ高いほど良く、各費用比率は低ければ低いほど良いということになります。その判断基準は、各費用比率であれば自社の前年と比べて抑えられているかどうかがその基本的な見方です。ともかく、支障のない限り抑えることが重要です。また、計画上の各費用比率や同業他社の各費用比率と比べることも重要です。業種別の主な『売上高比率』は次のとおりです(中小企業庁「中小企業の財務指標」より)。
■売上高労務費比率
①建設業 10.1%  ②製造業  12.8%  ③運輸業21.5%
*情報通信業、卸売業、小売業、不動産業、飲食宿泊業、サービス業には製造原価が
ありませんので労務費は存在しません。
■売上高販売費・管理費比率
①建設業 23.7%  ②製造業  33.5%  ③情報通信業59.3%
④運輸業 40.1%  ⑤卸売業  22.6%  ⑥小売業   33.7%
⑦不動産業61.6% ⑧飲食宿泊業64.8%  ⑨サービス業63.1%

(2)売上高営業利益率・売上高経常利益率の原因分析として見る
もうひとつの見方は『売上高営業利益率』又は『売上高経常利益率』の原因分析として見る方法です。営業利益率・経常利益率が悪化した場合には必ず原因があります。
これらの計算式は次のとおりでしたね。
売上高営業利益率=営業利益÷売上高   売上高経常利益率=経常利益÷売上高
『損益計算書』を、売上高を基にした「百分比率損益計算書」に変換すると、『営業利益率』が減った場合には必ず、その過程のどこかで『売上高比率』が高くなっているはずです。それが原因で『営業利益率』が悪化したわけです。このように『損益計算書』を売上高を基にした「百分比率損益計算書」で見てみると、本業の収益構造がよくわかります。

売上高比率を改善するには
『売上高比率』を改善するとは、それが費用科目であれば、削減すると言うことです。ここでは、具体的な削減事例をいくつか紹介します。
①人件費
基本的にはいままでの給与支給額を下げることはできません。しかし、ここで申しあげたいことは、これまでのような定期昇給はよく考えてみようということです。デフレと言われて久しくなっていますが、今後を予測すれば、物価は円高や内外価格差是正に向かって、まだしばらくは下がり続けることが予測されます。さらに今の為替レートで換算すると、実感はともかく、いつのまにか日本は世界一の高人件費国家のひとつとなっています。「実感が伴わない」ということは、物価が高すぎるということになります。ということは、物価はまだ下がらなくてはならないと言えます。いずれにせよ、このような背景からは人件費は検討する必要があります。特に経営状況が逼迫している場合は、社員とよく相談し、理解させたうえで給与を下げるという決断も必要と言えます。
②旅費交通費
タクシーは利用していませんか。高速道路は安易に利用していませんか。少し時間はかかっても、一番安い経路で移動していますか。改善のポイントは2点。社長の率先垂範と社員別管理の実施です。これで、数10%の旅費交通費は削減可能です。
③広告宣伝費
定期的な情報提供を郵送している場合、それをPDF化してメールで送信することはできませんか。また会社案内は、ホームページが当たり前の時代にまだ必要ですか。あるいはFAX同報もメールに置換えられませんか。インターネットの活用によって広告宣伝費は劇的に削減可能です。
④車両
いまの台数だけ車両は必要ですか。もし車両が1台減らせれば、駐車場代やガソリン代、車検代、保険料など、車両関連費も併せて、かなりの金額が削減できます。
⑤事務消耗品費
いままで事務用品はすべて会社で支給していませんでしたか。封筒などはともかく、筆記用具などは個人負担にしてもおかしくありません。またコピーはどうですか。カラーコピーを頻繁にしていませんか。あるいは裏紙の有効利用はしていますか。もっと言えば、複合機をコピー機能付きのパソコンプリンタに変更できませんか。細部を検討すれば、事務消耗品費も数10%の削減が可能です。
⑥通信費
通信費の内容は電話代・FAX通信料・郵便などに分けられると思いますが、まず、電話回線を減らせませんか。さらにFAXと郵便はメールに変更できませんか。電話回線の見直し、FAX・郵便のメール化によって、通信費は数10%以上の削減が可能です。
⑦水道光熱費
特に電気代は削減可能です。不要な電気は消しましょう。コンセントのつけっぱなしも止めましょう。電気代の削減はECOにも繋がりますので、時代の要請です。
⑧管理諸費
ホームページの維持管理費は年間どのくらい支払っていますか。早くからホームページなどを開設された場合、以前からの維持管理費をそのまま支払い続けていませんか。もともとホームページの維持管理費はそんなにかかりません。ただ、当初はそれほど利用が一般的ではありませんでしたので、高い時代がありました。しかし今は違います。ぜひ一度、確認しましょう。

その他、ご自分で自分の会社のことを具体的に振り返れば、もっと削減できることがあると思います。わかっていただきたいことは、このような固定費の削減はその削減額がそのまま利益の増額となるということです。もし小さな会社で月額7~8万円削減できれば、年間100万円ほどとなり、100万円も利益が増えれば、一気に赤字解消になるかもしれません。ぜひ、検討しましょう。大企業は驚くほどの努力をしています。

時代は本当に変わり、もう中小企業だからという「甘え」は許されません。「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を自ら発見し、自らその処方箋・戦術を考え、会社全体にそのことを明らかにして実行していくことが大事です。中小企業も大企業と同様の「経営心」を持って、会社経営にあたることが重要です。「会計資料が読めない読まない」ということは、そこに経営の危機が迫っていることにすら気づくことができず、表面化したときには倒産という憂き目に会うことです。ぜひ、自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。