662.経営を強くする BSを読みこなす①

2024年6月14日

 コロナ危機も過去の出来事となり、経営環境は”通常”に戻りつつある。

「通常に戻る」ということは、潮の満ち引きによって海面が盛り上がり溺れる危険性が高まるように、

企業経営も通常の経営環境に戻ることによって倒産などの危険性が高まるということだ。

通常に戻るということは「危険性」が高まるということ!

 

 たとえば、中小企業に対する金融政策も元に戻り、経済の復調とともにコストも上がり出した。

そこに円安が加わってコストはそれ以上に上がるようになり、これだけコストが上がれば物価も上がり、

物価が上がれば人件費も上げざるを得ないということになっており、経営環境はますます難しくなっている。

この数年間、ぬるま湯に慣れってしまっていただけに、元に戻ることは一層厳しいことのように思えてくる。

そのような経営環境の中で、事実、中小企業の倒産件数も増え出している。

 

 そこで、そのようなときにこそ心掛けたいことが『B/S重視の経営』だ。

会計資料と言えばP/Lがもてはやされがちだが、P/Lは営業成績を示しているだけに過ぎず、

どちらかと言えば、P/Lは平時に重宝する資料と言える。

それに対してB/Sは会社の経営状態を示し、経営環境が困難なときにそれが示す状況を理解することができれば、

その難局を乗り越えられる道筋が見えてくる。そういう意味では、B/Sは非常時に重宝する資料なのだ。

P/L重視は平時の経営、B/S重視は非常時の経営!

 

 航海で喩えると、穏やかな大海原の中で航海しているときはP/Lだけを見ていて航海していても差し支えはないが、

雲行きが怪しくなり海が荒れ出したとき、あるいは難しい海域に入ったときなどにはB/Sが示すインジケーターを理解して、

舵をとることが大事となる。

B/Sは”分析”というインジケーターを理解して経営の舵をとることが大事!

 

 そこで今回から、『経営を強くするB/Sを読みこなす』と題し、そんなB/Sの理解の仕方をわかりやすく説明しよう。

 

 

1 B/S(貸借対照表)を読みこなすことは大事である

 B/Sは事業の財政状況を知るうえで、非常に重要な会計資料である。まずこのことを理解したい。

しかしながら、P/Lに比べると、見られる頻度が圧倒的に少ない。

その理由は、P/Lは身近に感じられる「売上と利益および費用に関する計算書」なので、非常に親しみやすいことが挙げられる。

また、売上から費用を引いて利益を示しているだけなので、わかりやすいということも挙げられよう。

 

 しかしP/Lは、営業の実態は知らせてくれるが、会社が危険な状況にあることについては知らせてくれない。

そこで経営の最終責任を担う経営者としては、B/Sが読めないと羅針盤なしで航海しているようなものだと言える。

だからB/Sを理解し、毎日の経営に役立てなければならないのだ。

 

2 貸借対照表と損益計算書が示すこと

 B/SとP/Lは、会計における中核を成す資料であることは、あらためて言うまでもない。

事業の財政状態と営業状態を理解するために両者は不可欠なものであり、それぞれ異なる情報を発信している。

 

 B/Sは月末や決算日における、これまで事業の財政状態を示している。

自社の資産・負債・純資産の有り高を示し、調達している資金(負債と純資産)が資産としてどのように運用されているのか、

「左(資産の増加)」と「右(負債・純資産の増加)」に分けて表示をしている。

 1.資産とは、自社が所有している資源のことである。

 2.負債とは、自社が第三者(従業員・仕入先・金融機関など)から負っている債務のことである。

 3.純資産とは、株主(社長自身)からの投資と累積した利益(繰越利益剰余金)である自己資本のことである。

B/Sは自社の財務の健全性、資本構成、流動性などを分析するのに役立つ!

 

 一方、P/Lは、月次・四半期・決算日などの期間における事業の営業成績を示している。

一定期間(月次や年間)に得た売上高と発生した費用を示し、最終的に利益が出ているのか出てないのか、明らかにしている。

そのP/Lの主な構成要素には、次のようなものがある。

 1.売上高   2.売上原価   3.売上総利益   4.販売費及び一般管理費   5.営業利益   6.営業外損益

 7.経常利益  8.特別損益   9.税引前当期純利益   10.税金(法人税・事業税など)    11.当期純利益

P/Lは自社事業の収益構造やその期間における営業の成果を理解するのに役立つ!

 

3 貸借対照表と損益計算書の相違

 そんなB/SとP/Lだが、次のような違いがある。

(1)目的と明らかにしていること

 B/Sは、事業の財政状態を示すことが目的であり、経営状況の健全性を明らかにしている。

 P/Lは、事業の営業成績を示すことが目的であり、事業の収益性を明らかにしている。

(2)表示期間

 B/Sは、月末・決算時点の財政状況を提供し、設立時からその時点までの資産・負債・純資産のバランスを示している。

 P/Lは、月間・年間の期間にわたる営業状況を提供し、その期間の利益又は損失を示している。

(3)取扱い情報

 B/Sは、資金調達源である「負債・純資産」とその運用の姿である「資産」に関する情報を扱っている。

 P/Lは、「収益」と「費用」に関する情報を扱っている。

B/Sは設立から現在に至る財政状況を示し、P/Lは年間の営業成績を示す!

 

 

 

 そんなB/SとP/Lとは互いに補完し合っており、中小企業においては上場企業のように株主やアナリストに対してではなく、

 経営者自身に、社長に事業の全貌を提供しているのだ。

 また大企業のように中小企業には経営幹部はいないので、中小企業経営者は大企業経営者以上に、B/S・P/Lを自分自身で

 詳細に読めなくてはならないのだ。

 そしてB/SとP/Lを組み合せることによって自社の経営状況の理解がさらに深まり、包括的な自社の経営判断が可能となる。