664.経営を強くする BSを読みこなす③

2024年6月28日

 前回は「資金の読み方」について紹介した。

資金の読み方は、単に資金が増えた・減ったではなく、「将来に必要な資金を想定して、現在の資金有り高がどうなのか」という

ことを読むことが大切であると説明した。

資金の読み方はこれから必要な資金に対していまの資金残高はどうなのかを読む!

 

 今回は「では、どのようにしてこれから必要な資金有り高にすればよいのか?」その改善方法を考えてみる。

 しかし、まず言っておきたいことがある。

 

1.究極的には自社の改善方法は自社で考えるしかない

 たとえ業種が同じでも、経営の仕方も違えば、人員も違い、人材も違い、そして経営者も違う。

企業は100社あれば100通りなので、他社の真似をしても参考にはなるかもしれないが、解決に至らない。

だから解決策は、各企業が、自らの智慧を絞って、自らの方法で行うということが、改善方法の解答なのだ。

 

2.改善には必ず自分自身あるいは従業員に多くの抵抗感が生じる

 改善とは、ある意味、これまでのやり方などを改める、否定することになる。

これは至極当然のことであって、これまでのやり方でこの結果に至ったのだから、これまでのやり方を変えるしかない。

しかし、その認識に立場や利害関係が違ってくるので、必ず、抵抗感がつきまとってくることになる。

 それは決して従業員だけはない、経営者自身の中にも芽生えてくる。

また、たとえ一人二人の少人数であっても、その人たちにも抵抗感は芽生えてくる。

だから改善や改革は難しいといわれるのであり、経営者自身のリーダーシップが問われるのだ。

 

 

1 改善策は算式の中にあり!

 前置きはこの程度にしておいて、改善策を考えるにあたって、前回の手元資金の読み方を振り返ってみる。

その算式は以下のとおりであった。

 1.手元流動性比率  (月)=手元資金÷平均月商

 2.手元資金比率   (%)=流動負債÷手元資金×100

 3.当座比率     (%)=流動負債÷当座資産×100

 4.流動比率     (%)=流動負債÷流動資産×100

 5.借入金月商倍率  (月)=銀行借入金÷平均月商

 6.債務償還年数   (年)=銀行借入金÷年間営業利益

 7.ギアリング比率  (%)=負債÷純資産×100

 8.固定比率     (%)=固定資産÷純資産×100

 9.固定長期適合率  (%)=固定資産÷(固定負債+純資産)×100

10.運転資金要調達高(千円)=(売上債権+棚卸資産)ー買入債務

11.運転資金要調達率 (%)=運転資金要調達高÷年換算売上高×100

経営改善策はこの算式の中にある!

 

 

2 算式が示す経営改善策をシンプルに考えてみる

 では、各算式が示す、経営改善策をシンプルに考えてみよう。

1.手元流動性比率(月)    =手元資金÷平均月商

 手元流動比率の算式は、分子の「手元資金を増やす」ことと分母の「平均月商を減らす」ことで改善できることを示している。

 しかし、平均月商を減らすことには問題も生じるので、改善策は「手元資金を増やすこと」になる。

2.手元資金比率(%)    =流動負債÷手元資金×100

 手元資金比率の算式は、「流動負債を減らす」ことと「手元資金を増やす」ことで改善できることを示している。

 したがって、改善策は「流動負債を減らすこと」と「手元資金を増やすこと」になる。

3.当座比率(%)      =流動負債÷当座資産×100

 当座比率の算式は、「流動負債を減らす」ことと「当座資産を増やす」ことで改善できることを示している。

 したがって、改善策は「流動負債を減らすこと」と「当座資産を増やすこと」になる。

4.流動比率(%)      =流動負債÷流動資産×100

 流動比率の算式は、「流動負債を減らす」ことと、「流動資産を増やす」ことで改善できることを示している。

 したがって、改善策は「流動負債を減らす」と「流動資産を増やす」になる。

5.借入金月商倍率(月)   =銀行借入金÷平均月商

 借入金月商倍率の算式は、「銀行借入金を減らす」ことと「平均月商を増やす」ことで改善できることを示している。

 したがって、改善策は「銀行借入金を減らす」と「平均月商を増やす」になる。

6.債務償還年数(年)    =銀行借入金÷年間営業利益

 債務償還年数の算式は、「銀行借入金を減らす」ことと「年間営業利益を増やす」ことで改善できることを示している。

 したがって、改善策は「銀行借入金を減らす」と「年間営業利益を増やす」になる。

7.ギアリング比率(%)   =負債÷純資産×100

 ギアリング比率の算式は、「負債を減らす」ことと「純資産を増やす」ことで改善できることを示している。

 したがって、改善策は「負債を減らす」と「純資産を増やす」になる。

8.固定比率(%)      =固定資産÷純資産×100

 固定比率の算式は、「固定資産を減らす」ことと「純資産を増やす」ことで改善できることを示している。

 したがって、改善策は「固定資産を減らす」と「純資産を増やす」になる。

9.固定長期適合率(%)   =固定資産÷(固定負債+純資産)×100

 固定長期適合率の算式は、「固定資産を減らす」ことと「固定性資金を増やす」ことで改善できることを示している。

 したがって、改善策は「固定資産を減らす」と「固定性資金を増やす」になる。

10.運転資金要調達高(千円)=(売上債権+棚卸資産)ー買入債務

 運転資金要調達高の算式は、「債権と棚卸を減らす」ことと「買入債務を増やす」ことで改善できることを示している。

 しかし、買入債務を増やすことには問題も生じるので、改善策は「売上債権と棚卸資産を減らす」となるが、

 同じ減らすでも、売上債権と棚卸資産とでは少しニュアンスが違う。

 売上債権は正常債権は増えてよいのだが、安易に回収期間を長くしたり、未回収を増やさないことで「抑える」という意味だ。

 棚卸資産は必要以上の在庫は抱えないで、文字通り「減らす」という意味だ。そのためには商品別販売計画が必要となる。

 コロナ禍のマスクや除菌剤を思い出すと、多くの小売業では最後に多くの在庫を抱えることになり、たたき売りしている状況だ。

 それはなぜか?それはマスクや除菌剤などでどれだけ儲けるという販売計画がなかったから、欲望のままに仕入をした結果だ。

 

11.運転資金要調達率(%) =運転資金要調達高÷年換算売上高×100

 運転資金要調達率の算式は、「運転資金要調達高を減らす」ことと「売上高を増やす」ことで改善できることを示している。

 したがって、改善策は「売上債権と棚卸資産を減らす」と「売上高を増やす」になる。

 

 

3 算式が示す改善策をまとめる

これらの改善策の重複を無くすと、次のようになる。

1.手元資金を増やす

2.流動負債を減らす

3.当座資産を増やす

4.流動資産を増やす

5.銀行借入金を減らす

6.売上高を増やす

7.営業利益を増やす

8.負債を減らす

9.純資産を増やす

10.固定資産を減らす

11.固定性資金を増やす

12.売上債権と棚卸資産を減らす

 この中で、「流動資産を増やす」とは、当座資産を増やしかつ売上債権と棚卸資産は減らして流動資産を増やすということに

他ならないので、「流動資産を増やす」は重複するのでは消えることになる。

「当座資産を増やす」ということも手元資金を増やしかつ売上債権を減らして当座資産を増やすということに他ならないので、

「当座資産を増やす」は重複するので消えることになる。

また「負債を減らす」も、その具体策が流動負債を減らすことと銀行借入金を減らすことになるので、「負債を減らす」は重複する

ので消えることになる。

 そうすると、これから必要な資金有り高にする改善策は、最終的に次の10項目となる。

1.手元資金を増やす

2.流動負債を減らす

3.銀行借入金を減らす

4.売上高を増やす

5.営業利益を増やす

6.純資産を増やす

7.固定資産を減らす

8.固定性資金を増やす

9.売上債権を減らす

10.棚卸資産を減らす

 

 

3 算式が示す改善策のカテゴライズとその施策

 9項目にわたる改善策をカテゴライズし直すと、次のようになり、同時に施策を考えてみよう。

1.資産に関する改善施策

 ①手元資金を増やす

  1.節約する

   現預金を増やす(あるいは残す)には、普通に考えれば、「節約」ということが最初に頭に浮かぶ。

   経費を節約すれば、その節約した分だけ、手元資金として残ることになる。

  2.売上債権の回収する

   売上債権の回収を期日通り回収すれば、意外と手元資金は増える。

   それだけ、中小企業は請求するだけで、売上債権と期日通り回収する努力を怠っている。

  3.売上を伸ばす

   売上を伸ばせば、売掛金がその分増えて、それを回収すれば手元資金は増える。

   しかし、最終的に利益が出てないと、手元資金は増えることにはならないことを気づくべきだ。

  4.黒字にする

   黒字になっていれば、すべての債務・債権を精算すると、その黒字分だけは手元資金として増えることになる。

  5.余計な流動資産を持たない

   余計な流動資産とは、安易に貸したり、立て替えたり、前払いをすることだ。

   これらはまったく経営にプラスになることはほとんどなく、ただいたずらに手元資金を減らすだけだ。

  6.融資を受ける

   たとえ赤字であっても、金融機関から融資を受けられれば、その分、手元資金は増やせる。

   しかし、赤字の状況で、運転資金を目的に融資をする金融機関はほとんどない。

 ②売上債権を減らす

   売上債権を減らすとは、ただ売掛金を減らすということではなく、しっかり回収をすることであり、

   さらには相手に言われるままにいたずらに回収期間を延ばさないという意味だ。

   期日通りに売上債権を回収すれば、手元資金は増えることになる。それだけ期日通りに回収していない中小企業が多い。

   なお、売掛金自体が単純に減ってくることは、経営において大問題であることは言うまでもない。

 ③棚卸資産を減らす

   棚卸資産を減らすとは、文字通り、在庫を少なくするという意味だ。

   在庫切れを恐れて常に多くの在庫を持つということは、最終的にはデッドストックに持つようになるので、

   手元資金を減らすことになる。よくあることは、売れるのでどんどん仕入をすることだ。

   しかし、いずれはそのブームも去るので、波が引けば在庫の山が現れ、最終的に大損するというパターンだ。

   そこで学ぶことは、販売計画に基づく販売だ。計画以上に売れたなら「売切れにする」という覚悟が重要だ。

   計画通りに販売すれば、計画通り儲かり、大損することはない。

 ④固定資産を減らす

  1.遊休固定資産は処分する

   固定資産は稼働してこそ資金に化ける。動いていない固定資産は粗大ゴミと同じになる。

   したがって、動いていないと判断できる固定資産は処分し、少しでも資金化する。

  2.設備投資採算計画でPDCAマネジメントをする

   新規に固定資産を入れる時は設備投資採算計画を策定し、採算チェックをしながら設備投資をする。

   そんなことをしたことがない中小企業は多いので、多くの中小企業は抵抗感を示す。

   そこが、優良企業と並みの企業の違いとなる。

2.他人資本を改善する施策

 ⑤流動負債を減らす

  1.仕入等を調整する

   流動負債で減らせるものは、買入債務と未払費用だ。

   在庫を減らせば、買入債務は減る。経費節約すれば未払費用は減る。

 ⑥銀行借入金を減らす

  1.毎月の返済額を減らす

   手元資金がないのに、直接、銀行借入金を減らすことなどはできない。

   ここでいう、銀行借入金を減らすとは、月々の返済額を減らすということだ。

   つまり、リスケジュ―リングである。

3.自己資本・固定性資本を改善する施策

 ⑦固定性資金を増やす

  固定性資金とは長期借入金と純資産のことをいう。

  1.長期借入金を増やす

   長期借入金を増やすということは新規に借入を起こすという意味ではなく、短期借入金を長期借入金にリスケし、

   長期借入金として、月々の返済額と月々の支払利息を抑えるということだ。

   そうすることによって資金繰りは少しは楽になる。

 ⑧純資産を増やす

  1.黒字経営

   純資産を増やすには、黒字経営を続けるしかない。

   黒字経営を続けて、コツコツと繰越利益剰余金を増やしていくことが経営の王道だ。

  2.無理のない節税

   その王道の脇道として節税がある。

   節税とは、将来必要な費用を前払い的に購入し、税額効果を考えて純資産を増やすということだ。

   だから脱税とは違う。

   しかし、一般的には節税は無駄使いに通じることが多く、節税は余ほど必要な将来費用の前払いでなくてはならない。

4.損益を改善する施策

 ⑨売上高を増やす

  売上至上主義を推奨するわけではないが、経営が順調になればなるほど、それに合わせて売上も増えて行かないと、

  身体だけが大きくなって、エネルギーが足りないという状況に陥る。

  だから毎年の増収は、経営にとって重要なことだ。

  1.新規売上高の目標設定とPDCAをしっかり行う

   売上を増やしていくためには、必ず新規売上を獲得していかなければならない。

   新規売上とは、新規顧客からの売上と既存顧客からの新しい売上のこともいう。

   これをしっかり計画し、PDCAマネジメントを実行していくことが増収のポイントだ。

 ⑩営業利益を増やす

  売上を上げる目的は利益の獲得にある。つまり、増収増益ということだ。

  営業利益が増えてこそ、繰越利益が増え、次期のキャッシュにつながる。

  1.売上総利益を増やす

   営業利益を増やすその入り口は、売上総利益の最大化である。

   売上総利益の最大化の基本は売上原価の抑制だ。

   これは品質を落として抑制するということではなく、無駄を無くしていまより原価を抑えるという意味だ。

   したがって、限界はある。

   そこで合わせて考えなくてはならないことは高付加価値化だ。これは値上げとは似て非なるものだ。

   高付加価値化とは、あくまでも価値を上げて、適正な値付けをするという意味である。

  2.営業利益を増やす

   そして営業利益も最大化する。

   それには経費をこれまで以上に節減することが大事だ。

   経費を抑えるには全員が参加して抑えなくてはならない。その率先垂範者が社長だ。

 

 

こうして施策を考えてみると、当たり前のことばかりだ。

これは発想が貧困なのではなく、経営には魔法はないということを示している。

V時回復とか、奇跡の経営とか、これだけやれば儲かるなんて話はない。

そんな話はすべてまやかしであることを知ろう。

誠実に経営を行う。これが従業員からも顧客からも信頼を得る秘訣だ!