668.経営を強くする BSを読みこなす⑥

2024年7月26日

 さて、ここまで

   1.手元資金の読み方

   2.流動負債支払の能力の読み方

   3.銀行借入金の借入状況の読み方

   4.設備投資資金の読み方

   5.要調達運転資金の読み方

について説明して来たが、それらを整理すると次のようになる。

 

1.手元資金の読み方

 「手元資金の読み方」の基本は、企業の1カ月間の生活費ともいえる『平均月商』と比較する。

そうすれば、手元資金有高の十分性を読むことができる。

少なくとも、向こう3カ月分ぐらいの生活費は手元資金としてとっておける経営を目指したい。

仮に平均月商が400万であれば、1200万程度の手元資金を持つ経営をするということだ。

 

2.流動負債支払能力の読み方

 『流動負債』とは、再三言うように近々に取引先や金融機関などに返済する債務の総額のことを示している。

 その「支払能力の読み方」は、流動負債と手元資金・当座資産・流動資産などの近々資金化できる資産と比較する。

流動資産と比較するのであれば、安全な経営をするためには、流動資産は流動負債の3~4倍程度あるようにしたいものだ。

当座資産と比較するのであれば、安全な経営をするためには、当座資産は流動負債の2~3倍程度あるようにしたいものだ。

手元資金と比較するのであれば、安全な経営をするためには、手元資金は流動負債の1~2倍程度あるようにしたいものだ。

 たとえば、流動負債が200万あるのなら、流動資産は600万~800万程度はあるようにしたい。

当座資産なら、400万~600万程度はあるようにしたい。

手元資金なら、200万~400万程度はあるようにしたい。

 但し、手元資金は「設備投資資金」という側面もあるので、実際はこれ以上あるようにしたい。

 

3.銀行借入金の借入状況の読み方

 「銀行借入金の借入状況の読み方」は、平均月商や営業利益などと比較することが基本だ。

銀行借入額と平均月商を比較することで、『借入金総額の適正度』が判断できる。

銀行借入金は多くとも、平均月商の6倍程度には抑えたいものだ。

それ以上の銀行借入金があると、支払利息や毎月の返済などに無理が生じ、負のスパイラルに陥る危険性がある。

 また、銀行借入額と営業利益を比較することで、『最短の返済完了期間』が予測できる。

しかし、月次営業利益はその月々によって大きく変動するので、年間営業利益で読むのが良い。

そして長くとも、5年以内に返済できる見込みが持てる営業利益を稼ぎ出したいものだ。

5年間以上の期間がかかると、追加融資を受けることが難しくなるからだ。

 さらに、他人資本と自己資本を比較すれば、『総合的な債務に対する依存体質度』が判断できる。

他人資本は多くとも、自己資本の3倍程度には抑えたいところだ。つまり、それは自己資本比率25%となる。

もちろん、少ない自己資本で、大きなビジネスをやりたいならば、もっと大きくなってもいいわけだが、

それはそれだけ大きなリスクを背負っていることを認識し、しっかり経営管理することが求められることは言うまでもない。

 

4.設備投資資金の読み方

 おかしなもので、業績が悪い企業ほど、設備投資をしたがる。

その根底には、業績不振を技術や設備などが古いせいにすることにある。

「こういう設備があれば、もっといいものが作れて売れる」というように・・。

 しかし、業績不振で設備投資をするということは、多くの場合、自己資金が無いので銀行借入に頼ることが多い。

これではビジネスという仮面をかぶった、一か八かのギャンブルと同じだ。

なぜなら、業績の立て直しと同時に、借金返済という二重苦を背負うことになるので、ほとんどの場合はうまくいかない。

というのは業績不振の原因は商品にあるわけではなく、経営者を含めた”人”そのものに問題があるのであり、

設備を一新しても、それらの問題が解決されるわけではないからだ。

 その「設備投資資金の読み方」は、固定資産とまずは自己資本と比べて見ることだ。

そうすると、設備資金に対する自己資本の割合がわかり、その比率は200%以下であってほしい。

200%とは、自己資本の2倍近くの設備投資をしていることになり、それだけ設備投資のための借入金や支払利息が多くなる。

 さらに固定資産を自己資本に長期借入金を加えた固定性資金で比べてみる。

そうすると、金利も低い長期借入金だけを加えて設備投資ができているかどうかがわかる。

この比率が仮に100%を超えている場合は、固定性資金だけで設備投資が出来ていないことになり、その資金調達と資金運用の

バランスが悪いこと示している。早急にその財源を調べ、固定性資金へ組み込むようにすることが重要だ。

もし、それが出来ないのなら、いまの資金繰り状況では過剰設備ということが判断できる。

 

5.要調達運転資金の読み方

 要調達運転資金とは、売買活動だけに限った資金調達と資金運用で、資金調達が不足している資金額のことを言う。

売買活動だけに限った資金調達とは、「買入債務」のことだ。

売買活動だけに限った資金運用とは、「売上債権」と「棚卸資産」のことだ。

この両者を比べることによって、売買活動に関する運転資金状況がわかる。

 売上債権と棚卸資産の資金運用が、買入債務だけの資金調達で出来ていれば、バランスはとれている。

しかし、現実は仕入をしてから、そのあとで販売するので、どうしても運転資金が必要となる。

したがって、売上債権と棚卸資産から買入債務を引き算すると、それが調達しなければならない運転資金となる。

もし、これが逆にマイナスであれば、運転資金が余っていることになる。

そして要調達運転資金と手元資金を比べれば、売買活動に関する運転資金の資金繰り状況がわかってくる。

 また、売上が増加すると、どのくらいの運転資金を調達しなければならないのかについては、『運転資金要調達率』を計算する

ことでわかる。

運転資金要調達率は、要調達運転資金を年換算した売上高で割り算すれば、計算できる。

仮に、運転資金要調達率が25%だったなら、売上が年間1000万増えれば、250万の新たな運転資金が必要なことを示す。

 よく「現金商売は資金繰りが楽だ」と言われる理由は、資金運用は売上債権が無く『棚卸資産だけ』なので、要調達運転資金が

少なくて済むからだ。

 

 

資金繰りは事業の生命線、入念に確認しよう!