670.経営を強くする BSを読みこなす⑧
2024年8月9日
事業を経営して行くには”資金”が必要だ。
その資金は会計上、”他人資本”と”自己資本”に分けるようにルール化されており、負債は他人資本を、純資産は自己資本を示す。
他人資本は、当然、返済しなければならないので、その返済管理が重要だ。
なお、他人資本はさらに”流動負債”と”固定負債”に分けるようにルール化されており、流動負債は近々に返済しなければならない
他人資本を表し、固定負債は返済に猶予がある他人資本を表す。
さらに、他人資本の中心的存在である『銀行借入金』は、”短期借入金”と”1年以内返済長期借入金”および”長期借入金”に分けて
表示するように会計では求められており、企業の安定した経営に資するように設計されている。
負債は借金でもあるが、その活用の仕方次第で、企業経営に大きな力を与えてくれる。
1 経営が安定している企業は自己資本が多い
まず、安定した経営をしている強い会社は『自己資本』が多いという事実がある。
つまり、事業で調達している資金である『総資本』のうち、自己資本である純資産が占める割合が高いということだ。
なぜなら、自己資本は返済する必要がなく、安定した経営を続けられるからだ。
その資金調達に占める自己資本の割合を示す指標のことを”自己資本比率”といい、
安定した経営をしている企業は「自己資本比率50%」を超えている。
したがって、企業経営を司る経営者としては、自社の自己資本比率が常に50%を超えるように、経営の舵取りをしなくては
ならない。
自己資本比率は50%を超えることを経営指針とする!
2 返済が伴う負債の管理
(1)流動負債と固定負債をきちんと分ける
負債を管理するためには、まず、流動負債と固定負債をきちんと分けなければならない。
そうしないと、的確な管理であるマネジメントが出来ない。
例えば、長期借入金は1年以上の期間をかけて返済できる銀行融資だが、そのなかでも1年以内に返済する部分と
それ以外の部分が必ずある。
そして、1年以内に返済する部分は『1年以内返済長期借入金』として別分類し、流動負債に計上しておかないと、
的確な返済マネジメントが出来なくなる。
税理士事務所の中には、顧客に迎合してしまう性癖とその指導が面倒なこと、さらには税務にはことさら関係がないことから、
「別に分けなくてもいい」というところが多いようだが、経営に会計を活かすためには、必ず分けなければならない。
また、未払金の中身もいろいろあり、役員からの借入金を計上している場合などは、普通の未払金と分けて『長期未払金』とし、
固定負債に計上するようにしなければならない。
返済が伴う負債のマネジメントは流動負債と固定負債をきちんと分けることがその第一歩!
(2)流動負債のマネジメント
流動負債と固定負債がしっかり分けられるようになれば、初めて流動負債のマネジメントに取り掛かれるようになる。
しかし、流動負債と一口に言っても、いろいろある。
1.仕入に伴う流動負債
つまり、支払手形や買掛金などの『買入債務』のことだ。
2.経費に伴う流動負債
つまり、『未払金』や『未払費用』などのことだ。
3.社会保険など従事員自己負担に伴う流動負債
つまり、本人負担の預り社会保険料や源泉徴収税、住民税などの『預り金』のことだ。
4.融資に伴う流動負債
つまり、金融機関へ毎月返済する『短期借入金』や『1年以内返済長期借入金』のことだ。
5.その他の流動負債
『前受金』や『仮受消費税』などのことだ。
これらの中で毎月支払うものは、買入債務・未払金・未払費用・預り金・短期借入金の月額返済額・1年以内返済長期借入金の
月額返済額などがあげられるが、これらを『月次支払流動負債』と呼ぶことにする。
月次支払流動負債=買入債務+未払金+未払費用・預り金
+短期借入金月額返済額+1年以内返済長期借入金月額返済額
流動負債マネジメントのポイントは、これら毎月支払うものに対して、ある程度余裕をもって支払うことができるかどうか
ということだ。
ここで注意すべきことは「決算書の読み方」等というタイトルの書籍で書かれている読み方は、あくまでも決算書ベースであり、
表現を変えれば年間ベースでの読み方であるということだ。
書籍の決算書の読み方はあくまでも決算(年次)ベースでの読み方である!
しかし、年間ベースで大丈夫であっても、月次ベースでは資金が不足することもある。
したがって、年次ベースで読む読み方と、月次ベースで読む読み方とは違うことがあるので、注意が必要だ。
実務では月次で読めないと意味がない。途中で道路が寸断されていれば、目的地には付けないからだ。
経営実務はあくまでも「月次ベースでの読み方」が基本である!
(2)流動負債の読み方
流動負債の読み方で大事なことは「毎月、滞りなく支払うことができるのか」ということだ。
毎月の支払額はすでに説明したとおりだが、余裕をもって読みたい場合は『流動負債』というグロスで読んでも構わない。
但し、短期借入金と1年以内返済長期借入金だけは1年間の返済額なので、そこは考慮した方が良い。
それに対する支払原資は『資産』に表示されている。
一番アバウトな読み方は、支払原資を『流動資産』と捉える考え方だ。
しかしそれをもって「月次支払が大丈夫」と読むには、あまりにもアバウトすぎると言えよう。
次にもう少し支払原資をきびしく考え、『当座資産』と捉えることが考えられる。
しかし、当座資産の中には『売上債権』が含まれているので、何かの拍子で売上債権が未回収となったり、
そもそも回収不能な売上債権が含まれていることもままある。
したがって、これでも「確実な読み方」とは、言い切れない。
一番確実な読み方は支払原資を『手元資金』と捉える読み方だ。
手元資金であれば、すでに現金や預金という形で手元にキャッシュであるので、これであれば支払原資としてまず間違いがない。
これらをまとめると次のようになる。
1.流動負債の支払原資として流動資産を考える読み方
流動比率(%)=月次支払流動負債又は流動負債÷流動資産×100
流動資産の中には支払原資にならないものが多々含まれている可能性があるので、400%程度は確保しておきたいものだ。
2.流動負債の支払原資として当座資産を考える読み方
当座比率(%)=月次支払流動負債又は流動負債÷当座資産×100
当座資産の中にも当月回収できない売上債権も含まれている場合があるので、300%程度は確保しておきたいものだ。
3.流動負債の支払原資として手元資金を考える読み方
手元資金比率(%)=月次支払流動負債又は流動負債÷手元資金×100
手元資金であればすべて支払原資になるので確実だが、月次に支払うものは月次支払流動負債のほかに、給料等人件費がある。
したがって、この手元資金比率もできれば、200%程度は確保したいものだ。
流動比率は400%、当座比率は300%、手元資金比率は200%を基準とする!
(3)固定負債のマネジメント
固定負債とは、長期に渡って返済すればよい他人資本だ。
主な科目としては、金融機関からの長期借入金と役員等から借り入れた役員借入金や長期未払金などがあげられる。
長期借入金は短期借入金と比較すると、返済期間が長いこと、返済期間が長いので支払金利は短期借入金より低いことが特徴だ。
また、長期借入金を借入れる際には、使用使途の制限を受けることも多い。
そのようなことから、固定負債は設備投資資金として最適と考えられだ。
これらのことから、固定負債のマネジメントは、使途や借入総額あるいは返済期間などに関するものとなる。
1.固定負債の使途をマネジメントする
固定長期適合率(%)=固定資産÷(固定負債+純資産)×100
固定長期適合率とは、長期資金運用(固定資産)と長期資金調達(固定負債+純資産)のバランスがとれているかを示す。
この適合率は、必ず100%以下であることが必須だ。
100%超であれば、長期資金運用を短期資金調達も加えて行っていることになるので、資金調達と資金運用に問題がある。
これからの設備投資も考えるならば、50%前後にはしておきたいものだ。
固定長期適合率は50%前後であるように経営する!
2.銀行借入総額をマネジメントする
借入金月商倍率(月)=(短期借入金+長期借入金)÷平均月商
この借入金月商倍率は、甘く見ても平均月商の6カ月分程度には抑えておきたいものだ。
平均月商6カ月分の借入金ということは、仮に営業利益が10%あるとしても、それを全額返済に注ぎ込んでも60カ月かかる
ことを意味している。
でも、考えてもらいたい、実際に毎月の営業利益率が10%もある中小企業は、一体どのくらいあるのかを。
仮に5%と考えれば、営業利益をぜんぶ返済に回しても、120カ月、10年はかかる計算になる。
それ以下であれば、もっとかかることになる。
したがって、平均月商6カ月分程度の借入の中で、事業は回していきたいものだ。
借入金月商倍率は6カ月程度の中で経営する!
3.銀行借入の返済期間をマネジメントする
債務償還年数(年)=(短期借入金+長期借入金)÷年間営業利益
債務償還年数とは、債務である借金を、完済できる年数のことだ。
度々説明するが、借入金の返済は、利益の中からするものだ。
もし、それでは不足して、手元資金も加えて返済しているようでは、いずれ資金不足が起こることを意味している。
この返済期間を予測するうえでの条件は、営業利益を全額、返済に充てるということだ。
そんなことは現実的にできないが、最短の返済期間を試算するために、そう考えている。
したがって、最長でも5年間程度で返済できるように経営をしていきたいものだ。
これも何度も言うが、一般的に、経営者は借りることに必死となり、借りてしまえばひと安心することが多い。
しかし、これは大きな間違いである。
融資が下りれば、そこからさらに気持ちを引き締めて、事業に邁進する覚悟をしなければならいのだ。
債務償還年数は最長でも5年間程度の中で経営する!
3 負債を改善するマネジメント
最後に、これら負債を改善するためにはいろいろな方法があると思われるが、そのいくつかを紹介する。
(1)経営は『利益率10%』を指標とする黒字経営を続ける
大前提は黒字経営であり、その利益率も数%ではなく、基準は最低でも『10%』ということだ。
無借金経営の中小企業であれば別だが、借金のある中小企業はそれを目標に経営をして行かねばならない。
この利益率10%を前提とした経営計画を策定し、PDCAを回すことが肝心だ。
大前提は利益率10%超の実現!
(2)返済等に困ったときは早めに金融機関へ相談する
金融機関の姿勢もずいぶん変わって来ている。
困ったときには、早め早めに金融機関に相談し、自社の実情をよく知ってもらい、良き応援団になってもらうことが大切だ。
数値のほかに、金融機関は経営者の姿勢も評価してくれる。
金融機関へ早め早めに相談し、良き理解者にならせる!
(3)在庫管理を行い無駄な仕入をしない
無駄な仕入をしないということが買入債務を抑え、資金繰りを少しでも改善する方策のひとつとなる。
その無駄な仕入をしないための前提条件は、適切な在庫管理だ。
在庫管理なくして買入債務は抑えられない!
(4)冗費節減
未払金や未払費用を抑えるためには、毎日の「冗費節減」が大切だ。
小さな金額でも冗費を抑えること、この積み重ねが資金繰りを改善し、利益率も高めてくれる。
毎日の小さな冗費節減が大切!
(5)業績不振を理由にした設備投資はしない
よく、業績が良くないので、奮起して設備を一新するとかという話を聞く。
一見、経営者の大英断のような話に聞こえるが、多くの場合は成功しない。
またこのような決意を周囲(知人・税理士・銀行マン)に相談しても、誰一人「よく決断されましたね」と理解を示すだけで、
本当のところのことを言ってくれない。
本当のところを言ってくれるのは、日常生活の経験によって感覚が鋭い奥さんぐらいのものであろう。
また、大概の場合、業績不振の原因は設備にあることも少ない。
そのことに手を着けずに設備を投資することは、多くの場合負のスパイラルに陥り、一層経営が立ち行かなくなるさせる。
業績不振の打開を理由にした設備投資はまず成功しない!
(6)設備の稼働状況を管理し不要な設備は除却する
業績不振な企業ほど、不要な設備を多く持つ。
確かに、その設備を処分しても、大したおカネにならないことが多いと思われる。
しかし、処分をすれば、少なくともスペースが空き、整理整頓できる。
整理整頓ができれば、気分も変わる。 このことが意外と大事なのかもしれない。
何かで決意を表すことが大事!
このようにBSの構造を理解し、判断したい期間をハッキリさせれば
常識でBSは読めるようになる!