671.経営を強くする BSを読みこなす⑨
2024年8月16日
ここまで「経営を強くするのためにBSを読みこなす」というテーマで掲載し続けているが、今回はその最後として『純資産』に
ついての読み方を紹介したい。
純資産は”自己資本”を表すが、その内は『資本金』『繰越利益剰余金』『当期純利益』などから成っている。
一般的に「自己資本は返済の必要がない資本」と説明されているが、その説明については「その割合は多いほど、経営の安全性が
高い」と説明されるだけで、それ以上あまり説明されることはない。
また実際、それ以上見られることも、検証されることも、あまりないように思う。
しかし、純資産は、事業を起こしてからの『果実』であり、もう少し詳しく理解し、読みこなしたいものである。
純資産とは、事業を起こしてからの『果実』を示す!
1 「総資産=負債+純資産」の真実
総資産合計と負債・純資産合計は必ず一致しており、だから「バランスシートと呼ばれる」と説明されるが、本当は少し違う。
「総資産=負債+純資産」であることは事実だが、本当は「総資産-負債=純資産」と、純資産は総資産と負債の差額計算によって
計算されるので、常に『総資産=負債+純資産』となるのだ。
したがって、純資産には他の科目とは違い、仕訳に因らずに自動的に計算される科目がある。
総資産合計は負債・純資産の合計と常に一致している正体は
総資産と負債の差額を純資産としているからだ!
『資本金』は、起業当初、創業者が事業を起こすために事業に投資した自己資本のことなので、仕訳で計上される。
しかし、その外の『繰越利益剰余金』と『当期純利益』は、すべて仕訳に因らず、自動計算されている科目なのだ。
繰越利益剰余金は前期末までに累積された利益を表わし、当期純利益は当期に得た利益を表している。
そして、翌期になると、前期の繰越利益剰余金と前期の当期純利益を合算して、翌期の繰越利益剰余金となるようになっている。
したがって、繰越利益剰余金の大小は「起業以来の経営の成功度合い」を示し、当期純利益は「今期の経営の成功度合い」を示す
と説明できる。
常に、そのように理解していれば、繰越利益剰余金が少ない場合は、これまでの経営に対して警告を発していると気づける。
また、当期純利益が少ない場合は、今期の経営に対して警告を発していると気づける。
いずれにせよ、「利益が少ない」「赤字だ」ということは、市場から評価されていないことを示しているのであり、
「今年は赤字だったな」とのんびり構えていないので、事業継続の危機が訪れていることを示していると理解しなくてはならない。
したがって、『純資産』をもっと重要視した経営をすれば、容易に経営の危機管理ができることになる。
純資産は、経営の『危機度合い』と『市場からの評価』を示している!
2 純資産の読み方
そのようなことを前提に、『純資産』の読み方を考えてみよう。
(1)自己資本の割合
まずは、事業で調達している資金の中の自己資本の割合だ。
そのことを『自己資本比率』と呼ぶが、自己資本である純資産を総資本で割れば求められる。
自己資本比率(%)=純資産÷総資本又は総資産×100
一般的に、中小企業は事業資金が少ないので、自己資本比率は低い。
資本金1千万円未満の中小企業の平均自己資本比率は15~20%程度と言われている。(中小企業庁調べ)
だからといって、自己資本比率が20%以上であれば平均を上回っているので「大丈夫」かといえば、そういうことにはならない。
考えても見てほしい、仮に事業資本が3,000万円で、そのうち自己資本が600万円だったなら・・?
誰が考えても、「安全な経営をしている」なんて思えない。
自己資本比率20%程度という数値は、その程度の数値なのである。
少なくとも自己資本比率は50%程度にはしたいし、経営の環境に強く左右される中小企業は80%程度は目指したいものである。
自己資本比率は最低でも50%、できれば80%超を目指す!
(2)設備投資に対する自己資本割合
次に設備投資について見てみる。
製造業の中小企業は、設備を資するにあたって他人資本にその多くを頼っているため、請負額をたたかれても請負ざる得ない状況に
追い込まれてしまう。
このような状況を改善するためには、長い時間を要するが(だからこそ若い中小企業は初めから)、そうならないように意識をする
必要がある。
その指標を『固定比率』と呼ぶが、設備である固定資産を自己資本で割れば求められる。
固定比率(%)=固定資産÷純資産×100
固定比率は100%以下であれば、固定資産投資が自己資本だけで行われていることを示す。
しかし、一般的に中小企業は自己資本が少ないので、したがって固定比率は非常に高い。
少し古いデータではあるが、中小企業庁から、1999年度の従業員規模別固定比率が紹介されているので紹介しよう。
平 均 1~20人 21~50人 51~100人 101人以上 欠損企業
148.2 138.8 146.7 158.9 151。5 170.2
平均で148.2%と、自己資本の1.5倍の設備投資を行い、固定資産購入にあたって、7割程度しか自己資本で賄えていない。
一番厳しいのは100人前後の中小企業で、固定比率は158.9%となり、6割程度しか自己資本で賄えていないことになる。
経済産業省では次のようなコメントを掲載している。
固定資産比率とは、有形固定資産を自己資本で除して、自己資本に対する有形固定資産の百分比として測定している。
この比率は100%以内とされており、この比率が100%を超える場合、超過部分は他人資本(長期借入金や社債等の固定負債)
で賄われていることを意味する。
製造企業における固定資産比率は、中小企業が148.7%、大企業が75.3%となった。
この結果、中小企業が大企業を大きく上回り、規模間格差は73.4ポイントとなった。
バランスシート上からみると、中小企業では設備資金の3割強を金融機関などからの借入(有利子負債)によって賄っているのに
対し、大企業では自己資本で賄っていることを示している。
固定比率は「100%以内が基本」ということを強く認識しよう!
(3)自己資本に対する手元資金の割合
最後に、自己資本に対する手元資金の割合を考えてみる。
まったく顧みられていないが、自己資本に対する手元資金割合が経営実務において、一番重要なことだ。
自己資本が多いことが、経営において重要だと言われるが、いくら自己資本割合が高くとも、手元資金が少なければ経営は苦しい。
自己資本割合が高く、かつ手元資金が多いことが、安心した経営をもたらす!
考えても見てほしい、仮に自己資本割合が高くとも、手元資金が少なくても、安心した経営ができるのかどうか。
たとえ自己資本割合が高くとも、手元資金が少なければ、その自己資本の多くはすでに何某らかの資産に運用していることになる
ので、運転資金とはしては非常に厳しい。
したがって、自己資本に対する、一定したある程度の手元資金を保有していることが、安定した経営をもたらす。
手元資金対自己資本割合(%)=手元資金÷自己資本×100
この割合がどの程度あれば安定した経営ができるのかは自己資本の大きさにもよるので、一概には言えないが、
少なくとも自己資本の5割以上は手元資金として残しておきたいものだ。
この額が余剰資金ともなり、万が一の場合にも対応がとれる余裕度ともなる。
たとえば、総資本が2000万円の場合、仮に自己資本比率が50%とすれば、自己資本は1000万円となり、
その5割を手元資金として保有するように考えれば、手元資金は500万円程度なります。
そう考えると、手元資金対自己資本割合50%の実現というのは、よほど意識して経営をしなければ実現できない数値といえる。
ここまで、9回に分けて「経営を強くする、BSを読みこなす」をテーマに紹介してきたが、
BSを読みこなし、経営に取り入れると、経営環境の変化にも強い会社にできることが理解できたかと思う。
強い会社にして行くためには、BSを読みこなして経営をしてくことが大事!