34.損益分岐点力①分岐点売上

2010年1月21日

財務分析解説コラム(18) 当社の損益分岐点を検証する-損益分岐点売上高-
今回からは『損益分岐点』について説明します。『損益分岐点』とは収支トントンの点、つまり、経常利益がゼロとなる売上高のことです。この考え方は売上目標などの経営計画を立てるときに大変役立ちます。第1回の今回は『損益分岐点売上高』です。

1.損益分岐点売上高の重要性
(1)低価格時代はしばらく続く
現在は低価格化の時代です。背景や要因はいろいろあるでしょうし、また低価格化に対する考え方や見解もいろいろあろうかと思います。しかしいずれにせよ、「低価格化時代」はいましばらく(3年程度)は続くと思われます。
(2)低価格戦略をとっている会社の実態
いま低価格を前面に押し出し、業績を伸ばしている会社・業界は多くあります。カジュアル医療のU社、餃子のO社、家具・インテリアのN社、イタリアンのS社、家電量販店のY社など、食品・一般消費財に多いようですが、それらの会社はただ単に価格を下げているのではありません。同時に『損益分岐点売上高』を下げる努力もし、低価格でも収益が出る営業体質にしています。
(3)損益分岐点売上高とは
では、『損益分岐点売上高』とはどういうものなのでしょうか。意味は冒頭でも説明しましたように「収支トントンの点、つまり、経常利益がゼロとなる売上高」です。損も得もしない売上高を『損益分岐点売上高』と言います。利益とは、売上高で、原価と経費そして営業外費用を賄った残りと言えます。足らなければ赤字、同じであれば利益ゼロということになります。
(4)変動費と固定費
『損益分岐点売上高』は、原価・経費・営業外費用をちょっと違った観点から見て、売上の増減に比例する費用を『変動費』、売上に関係なく発生する費用を『固定費』と捉えて計算します。
例えば、商品仕入や材料費、外注費などは売上が上がらなければ発注しません。売上がどんどん増えれば発注量も多くなります。ですから『変動費』です。
一方、人件費や電気代、電話代などは、あまり売上の増減に左右されません。極端に言えば、売上がゼロでも、それらの費用は支払わなくてはなりません。従って『固定費』となります。
このように考えれば、販売価格が変動費単価さえ上回っていれば、金額の多寡に関わらず『固定費』の支払へ回していけることになります。
(5)真性出血と擬似出血
販売価格が変動費単価より低いことを『真性出血』と言います。売れば売るほど赤字になるというわけです。次に原価計算した単価より安く、変動費単価より高い価格を設定した場合は『擬似出血』と言います。つまり一見、損しているように見えるけれど、変動費単価を上回っているので、実は『固定費』の回収へ回せ、販売数量によっては黒字を出せる価格です。低価格を前面に押し出している会社はそのような戦略、考え方で経営しているわけです。
(6)損益分岐点売上高の計算
『損益分岐点売上高』の計算式は次のとおりです。
計算式: 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
※限界利益率=100-変動費比率
残念ながら、中小企業庁「中小企業の財務指標」では収録されていませんので、ご参考までに「TKC経営指標平成16年度版(黒字企業平均)」をご紹介します。
■主要業種別の損益分岐点売上高
①全産業24,270千円/月  ②建設業    20,408千円/月
③製造業31,861千円/月  ④卸売業    44,379千円/月
⑤小売業25,404千円/月  ⑥飲食店・宿泊業13,577千円/月
⑦サービス業(他に分類されないもの)17,476千円/月

2.損益分岐点売上高の見方
(1)推移を見る
『損益分岐点売上高』は低ければ低いほど良く、利益が出やすい営業体質であると言えます。従って、四半期ごとに『損益分岐点売上高』の推移を確認することや決算期ごとに前期と比較することは重要です。
(2)同業他社、黒字企業と比較する
もうひとつの見方は外部比較するということです。但し、この『損益分岐点売上高』を収録している調査機関は少なく、TKC全国会に所属している会計事務所であれば、毎月、『損益分岐点売上高』について前年比較と同業他社の黒字企業平均・優良企業平均を報告してくれます。

3.損益分岐点売上高を改善するには
『損益分岐点売上高』を改善するとは『損益分岐点売上高』を低くするということです。具体的には固定費の削減と限界利益率の改善ということになります。
(1)固定費の削減策
これについては前回説明しましたように、
①人件費 ②旅費交通費 ③広告宣伝費 ④車両 ⑤事務消耗品費 ⑥通信費
⑦水道光熱費 ⑧管理諸費など、「聖域なき経費削減」と「金額多寡に関係ない経費削減の実行」が上げられます。詳しくは前回を参照してください。
(2)限界利益率の改善
『限界利益率』の改善とは、『変動費比率』の改善と言い換えられます。具体的には仕入数量の見直しや仕入単価の見直し、ロス率の低減などが考えられますが、多くの大手企業では、中国や東南アジアで生産しているのはご存知のとおりです。ここで大事なことは2点。ひとつは、海外生産はもう大企業だけのものではなく、いまや中小企業でも対応可能であると考えることです。もうひとつは、たとえ0.1%程度の変動費比率の改善であっても、非常に効果としては大きいということです。これまでの既成概念や固定観念に囚われずに考えることが重要です。

時代は変わり、中小企業だからという「甘え」はもう許されなくなってきました。中小企業は弱者だという考え方ではなく、「少数精鋭企業だ」とでもいう、気概をもった考え方が必要となっています。その一環として「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を自ら発見し、自らその処方箋・戦術を考え、会社全体にそのことを明らかにして実行していくことが大事だと思います。中小企業も大企業と同様の「経営心」を持って会社経営にあたることが重要です。
「会計資料が読めない、読まない」ということは、そこに経営危機が迫っているのに気づくことができず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うということです。
ぜひ、自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・