674.やる気を醸し出すマーケティング②

2024年9月6日

 事業を継続していくにしろ、これらから事業をやるにしろ、安定した経営の中で事業をやっていきたいものです。

そのためには、売上を少しは増やす、粗利益を増やしていく、社長も従業員も給料を増やす、経営は黒字を続けるなどを

指針として、経営して行かねばなりません。

そのためには経営者自身はもちろんのこと従業員も成長しなければならないが、そのヒントがマーケティングにはある。

それが前回の主旨でした。

 今回はその具体的なマーケティング手法のひとつである、『マズローの法則』と呼ばれるものを紹介します。

マズローは『自己実現』に関する理論を提唱し、5段階から成る『人間の欲求』を発表しました。

 

1 従業員の「やる気」と「成長」こそが企業成長のカギ

 今日の経営において事業規模の大小を問わず、経営者・従業員のやる気と成長に基づいた、高付加価値な経営と高効率な経営が

求められています。

 ご存知のとおり日本の人口は減少に転じており、それが実際に見えているか見えていないかは別にして、国内市場は確実に縮小

しています。

なた他方、事業者には賃金の引き上げも求められています。

この両方を克服するためには、如何にして市場を拡大するのか、でなければ如何にして効率を図るのか、さらには付加価値の高い

経営などが求められています。

 大企業は縮小する国内市場を補うために海外に市場を求めることも可能だし、また賃金を引き上げるだけの内部留保もあります。

しかし、小さな企業ではそう簡単に海外に市場に求めることもできず、また賃金を引き上げる内部留保の余裕もありません。

したがって、市場拡大を海外に求めることが難しい小さな企業にとってこそ、高付加価値な経営と高効率的な経営という経営課題が

一丁目一番地の経営課題となるのです。

 その解決の糸口が『マズローの法則』にあります。

それをヒントにして、前回言った「まずは取り組む!」というマインドで、チャレンジしてみる価値は大いにあると思われます。

如何でしょうか?

小さな企業にとってこそ高付加価値な経営と高効率的な経営が一丁目一番地の経営課題!

 

 

2 高付加価値な経営も効率的な経営も「主役は従業員」

 そもそも、高付加価値な経営の実現も高効率な生産性の向上も、従業員抜きには考えることはできません。

社長一人では成し遂げられないものです。

何故なら、経営は経営者と従業員両者のやる気と成長があって、初めて高付加価値な経営と高効率的な経営を実現できるからです。

仮に、そこに手を着けず、人員を増員したり設備投資を行ったりして生産性の向上を図ったとしも、それは同時にコストアップが

伴いますので、解決策には至りません。

むしろ、ますます首を絞めることになります。

 逆にいまの状況のままで何とか精神的な鼓舞だけでやる気や生産性を上げようとしたら、それは経営者の独りよがりとなり、

これでは従業員もついてきてくれません。

従業員の前向きな姿勢なくして、経営の付加価値化は図れないのです。

そこで『マズローの法則』を活かし、従業員のやる気と成長をもって、生産性と付加価値を向上させる経営がいま必要なのです。

マズローの法則で従業員のやる気と成長で生産性と付加価値を向上させる経営がいま重要!

 

 

3 マズローの法則とは

 『マズローの法則』には背景があります。

それは米国の経営学者ダグラス・マグレガーが提唱した『X理論・Y理論』です。

マグレガーは下図のように、『Y理論』といわれる『性善説』で人間の自主性を尊重する経営管理さえすれば、どの企業にも無限の

可能性があり、飛躍的に発展すると説きました。

 マズローはそのことに注目し、「人間は自己実現に向かって成長するのでは?」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で

説明しました。 それが『自己実現理論』と呼ばれるものです。

マズローは「人間は自己実現に向かって成長する」と看破し『自己実現理論』を提唱!

 

 

(1)ベースの基本的な欲求、『生理的欲求』

 『生理的欲求』とは、生きていくための欲求と説明できます。

生きていくため、生活していくための最低限の欲求を『生理的欲求』と定義し、企業としてこれを満たすことができなければ、

従業員の成長意欲をもたらせないことはもちろんのこと、離反さえ招くことになります。

実は小さな企業では経営者はいろいろ弁明しますが、このことを繰り返しており、なかなかこの段階をクリアできていません。

経営が苦しいから、これ以上の賃金は支払えない、がまんしてくれという論法です。

 しかし、この状況から脱出するには、まずその姿勢を従業員に宣言し、そのうえで着実に是正して行き、従業員にその姿勢を

現実的に見せることが大切となります。

だから前回言ったとおり、その姿勢を一番示すことになる、『昇給』から始めなくてはならないわけです。

 こう説明すると「うちはできてるよ」という声も聞こえてきそうですが、大事なことはこのジャッチは経営者がするのでなく、

従業員がするということです。

したがって、主観的な経営者目線ではなく、客観的な従業員目線でジャッチしなければなりません。

従業員がそう思えていないのなら、それはできていることにはなりません。

ジャッチは主観的な経営者目線ではなく客観的な従業員目線で行うことが肝要!

 

(2)第2段階の欲求、『安全の欲求』

 『安全の欲求』とは、経済的に安定した中で暮らしたいという欲求と説明できます。

そのためには、ある程度の快適な職場環境や、ある程度の納得できる給与水準などが求められます。

自社を振り返ってどうでしょうか?

 いま、道路工事の現場などで守衛する高齢者を多く見かけますが、多くの現場で一般道路などにその人の持ち物と思われる

荷物などをよく見かけますが、その光景をどう思いますか?

 飲食店やサービス業などで、客が来ていなくても立ちっぱなし店員さんをよく見かけますが、その光景をどう思いますか?

 サービス業などで、明らかに無理を言っているのはお客なのに、常に低姿勢で応対する店員さんの姿を見て、どう思いますか?

「仕事とはそんなもんだよ」と言ってしまえば、それでまでですが、本当にそうなのでしょうか?

自分がもしその立場であれば、どう思っているのでしょうか?

自分をその立場において問い直してみると、給料のほかにも雑然とした職場、汚れたトイレ、男女混同のトイレ、居場所もない職場

など、改善したほうが良いと思うことが、多く目に付くのではないのでしょうか。

 給与面も大半が大企業と大きく見劣るのが、小さな企業の実情です。

同じにはできないかもわかりませんが、「そういうことを目指して経営をしている。だからまだ少ないかもわからないが、

少しでも昇給させて行きます」と従業員に説明していますか?

 大事なことは、何も大企業と同じ職場環境や同じ給与水準を実現することだけではなく、まず、その姿勢を従業員に示したり、

見せたりすることです。

お客様や社会のために貢献するなどという外ばかりに目を向けた、中身が伴わない経営姿勢でなく、まだ満足はできないと思うが、

現状の待遇を改善していく、だからこの方向でこうして行こう!という経営者の真摯な姿勢が大事なのです。

企業は対外的な経営方針は掲げるが、従業員に向けた経営方針を掲げることが少ない!

 

 

(3)第3段階の欲求、『社会的欲求』

 社会的欲求とは、この会社に勤めていて安心だという欲求と説明できます。

たとえば、安定的な経営状況であったり、従業員のことを考えた職場環境であったり、将来を見据えた給与体系であったり、

責任と権限移譲がされたり、それに加えて給料による『プライド』が持てることなどです。

 これが満たされてくると、そこに働く人たちには、他の従業員や顧客に能動的な働き掛けをするという『モチベーション』が

芽生えて来ます。

そうすると、従業員に精神的な芽生えや視野が広くなるなど、自ら成長しようする兆しが見られてくるようになります。

 いくら職場環境や給与水準が改善されても、このような安心感が伴わないと、『社会的欲求』は芽生えません。

なぜなら、現代社会は他人のことより自分の現在や将来のことが心配でたまらないからです。

物的満足だけでなく自分を任せられる親密な社会・職場環境の存在が重要!

 

 

(4)第4段階の欲求、『承認欲求』

 承認欲求とは、自分が所属する組織の中で、高く評価されている自分の能力が認められているという実感と説明できます。

具体的には褒められる、認められる、課長や部長などという役職や上級ポジションということです。

 誰でも、褒められればやる気が出ます。名刺や肩書に役職が付けば、それなりの自覚が芽生えてくるものです。

環境が人を育てるともいいます。

 承認欲求の段階に入ると従業員は職場依存的な評価軸から自立して、あくまで自分で立てた基準や目標・使命に従った欲求に

従うようになり、さらに成長を見せ始めます。

 ただ注意しなければならないのは、陶酔するあまり、自己路陶酔となって思い違いの行動を示す場合があるということです。

それが、パワハラやセクハラなどのハラスメント行為であったり、横領など不正行為につながって行きこともあります。

また組織として注意しなければならないことは、自立という出る杭を打ってしまうということです。

承認欲求は能動的な活動を誘発すると同時に思い違いも誘発することもある!

 

 

(5)第5段階の欲求、『自己実現欲求』

 最後の自己実現欲求とは、自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きたいという欲求と説明できます。

経営者あるいはそれに準じる役員層や支店長・店長など、高次の責任管理者層ということになります。

 もっとも最近ではそんな気概を持った従業員も少なくなったと述べる著名な創業オーナーもいるようですが、

それはその企業固有の問題であり、またオーナー自身の資質や人柄の問題と思われます。

自己実現の段階になると経営者の右腕となり、後継問題も解消する!

 

 

(6)第5段階を超えた欲求、『自己超越欲求』

 マズローは晩年、もう一段階の高次元な欲求を付け加えました。

それは第6段階の欲求ともいわれる「自己超越欲求」です。

自己超越欲求とは、社会をより良いものにしたい、世界の貧困問題をなくしたいなど、一般的にはオーナー経営者によく見られる、

自分自身の自我を超えたレベルでの、理念を実現したいという欲求です。

 自己実現欲求と似ているようですが、その両者は根本的に異なります。

自己実現欲求は「理想的な自分になりたい」と自分にベクトルが向いています。

自己超越欲求は「社会など自分の外にあるものに対する貢献」にベクトルが向かいます。

 しかし、そこまで従業員に求めても仕方ありません。何故なら、オーナーと従業員では立ち位置が違うからです。

立ち位置が違うのに従業員に同じことを求めるオーナー経営者が実は多い!

 

 

4 マズローの法則を経営に活かすには

 最後に、『マズローの法則』を経営に活かすにはどうすればよいのでしょうか。

それは人事戦略に埋め込むとということです。

平たく言えば、5つの段階と社内の役職とを結びつければ、次のように言えます。

第1段階:生理的欲求   → 新入社員レベルの欲求

第2段階:安全の欲求   → 一般社員レベルの欲求

第3段階:社会的欲求   → 課長レベルの欲求 

第4段階:承認欲求    → 部長レベルの欲求

第5段階:自己実現欲求  → 役員レベルの欲求

 これらを自社なりに具体化したものを人事考課規定等に埋め込み、従業員の成長戦略と結びつけるということです。

そうすることで、ただ営業成績の良い人や成果を挙げた人を昇進させるなどの成果と昇進を混同した人事戦略を是正することも

できます。

一般的には成果と昇進を混同した人事を行う場合が多い!

 

 こうすることで資質的に問題がある従業員を役職者にしてしまう問題が是正でき、人を育成する上司がリーダーとなり、

健全な社内風土を作っていけることになります。

 

 

現代の経営は『高付加価値化』と『生産性の向上』を図らなけばならない時代です。

そのためには安心できる職場環境を与えるとともに、従業員のやる気を上げることが先決です。

そのためのヒントがマズローの法則にはあり、それを自社の人事戦略に埋め込み、従業員が成長する仕組みを作ることが重要です。

必ず、自社なりの素晴らしい方法があります。