677.やる気を醸し出すマーケティング⑤
2024年9月27日
『やる気を醸し出すマーケティング』には数多くの理論がありますが、最後に『エンパワーメント』を紹介します。
1 エンパワーメント(=empowerment)とは
エンパワーメントという言葉はあまり聞きませんが、「力や権限を与える」という動詞のエンパワー(=empower)の
名詞形であり、「力や権限を与えること」と訳されます。
もともと、20世紀にアメリカで起きた公民権運動や女性運動などで使用されるようになった言葉だったそうですが、
マーケティングでは分野ごとに異なる意味で使用されています。
エンパワーメントはビジネス分野では『権限委譲』と訳される!
通常、上役が持つ権限を部下に委譲することで部下の裁量権が拡大し、仕事の遂行が自由になり、意思判断の幅が広がります。
そのため、自主的で自律的な行動をとれるようになり、個人の潜在能力を引き出し、パフォーマンスを高め、目標達成の可能性が
より高くなると言われています。
『エンパワーメント』によって意思決定が早くなり、目標達成の可能性をより高める!
2 エンパワーメントが注目される背景
エンパワーメントが注目されている背景には、以下の2つの社会情勢があります。
(1)VUCA(ブーカ)時代の到来
『VUCA』とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の
4つの単語の頭文字から取った造語であり、VUCA時代とは、変化が早く、先行きに不透明感があり、さまざまなことが複雑に
絡み合い、混沌とした現代のことをいいます。
もともとは米国での軍事用語でしたが、ビジネスや社会においても使われるようになり、未来予測が難しくなる状況を意味する
言葉としても使われるようになりました。
ビジネス分野ではIT技術の進化やビジネスの複雑化、価値観の多様性などから、経済環境が不透明で予測困難なVUCA時代が
到来していると言われます。
VUCA時代に入ると、従来のトップダウン経営では判断スピードが遅くて対応することができません。
迅速な意思決定がVUCA時代には重要であり、現場に権限を委ねることで機会損失を防ぎ、市場競争で優位が確保できると
言われています。
VUCA現代社会には迅速な意思決定がカギ!
(2)次世代リーダーの育成が急がれる
2点目は、次世代リーダーの育成が急務だということです。
わが国では少子高齢化が急速に進行し、多くの企業で人材不足が発生しています。
したがって、少ない人材を早く成長させることが必要で、そのためにはサポートを付けて教えるだけでなく、社員に責任を与えて、
さまざまな経験を積ませることが重要です。
VUCA時代は人材育成も急ぐ必要がある!
VUCA時代の意思決定の迅速化、人材育成の短期間化からも
『エンパワーメント』が重要となっている!
3 エンパワーメントのメリット
エンパワーメントには4つのメリットがあると言われています。
(1)エンパワーメントにより、コントロール感を高める
コントロール感とは、「環境への働きかけがうまくいく感覚」を指します。
”職場”という環境でのコントロール感を高めるための一つとして『エンパワーメント』が挙げられ、部下の働く意欲向上に
つながります。
また、コントロール感が高い人材は仕事へのストレス耐性も強いという特徴を持っているとも言われており、
『エンパワーメント』によりコントロール感を高めることは大事なことです。
エンパワーメントには職場への働きがけをうまく行かせる効果もある!
(2)社員の主体性を向上する
社員へ『エンパワーメント』を行っていくと、自ら考え、決断できる社員になるので、社員の主体性は向上します。
上役の指示を待って仕事をする場合はどうしても責任感が乏しくなり、仕事の質も低くなりがちになります。
『エンパワーメント』により、裁量権の範囲内のことは自分で判断しなければならなくなるので、責任感が生まれ、判断力も養われ
ていきます。
その経験を重ねれば、判断能力も鍛えられ、自律的に行動ができる社員に成長していきます。
上役の指示を待っていたときには発揮されていなかった能力が、開花する可能性も生じてきます。
エンパワーメントには社員の主体性向上と隠れていた能力開発をする効果もある!
(3)エンゲージメントを向上させる
エンゲージメントとは、会社に対する忠誠心や社員満足度のことを言いますが、
『エンパワーメント』によってそのエンゲージメントが向上します。
主体性や当事者意識、あるいは責任感などがエンパワーメントによって芽生えますので、仕事のモチベーションが上がります。
上役から指示命令を受けていたときには、指示内容に納得できないことや不満を抱えることもあったかもわかりません。
しかし、『エンパワーメント』によって自分の意思で業務の遂行の仕方を変えられることが増えてくるため、やりがいを感じやすく
なります。
その結果、仕事や会社に対するエンゲージメントが向上し、社員の定着率が高まる可能性も考えられます。
さらにエンゲージメントの向上は、生産性の向上にもつながりやすく、業績や生産性のアップも期待できます。
また、エンパワーメントで発掘される能力には、リーダーシップやマネジメントスキルなどがあります。
エンパワーメントには愛社精神と社員満足度を向上させる効果もある!
(4)次世代リーダーの育成が早くできる
さらに、『エンパワーメント』には、リーダーシップやマネジメント能力を発掘する効果があります。
『エンパワーメント』で責任を与えられることは、その仕事に対して、自分が上役と同じように責任を持つことになります。
業務遂行のプロセスを主体的に考えながら課題解決に取り組む中で、リーダーシップやマネジメントスキルが自然と身につきます。
業務を行っていくうちに、未発掘の能力が見つかり、次世代のリーダーになれる人材に育成する可能性は高まります。
エンパワーメントには次世代の人材育成ができる効果もある!
4 エンパワーメントのデメリット
では、エンパワーメントのデメリットは何でしょうか。
(1)全体を見て判断できないため判断ミスが起こる可能性
権限委譲は個人で判断して行動するため、社員によっての判断や意思決定に、バラツキが出る傾向が高くなります。
また、社員によっては業務全体まで見通していないこともあり、全体にとって適切な判断ができないこともあるかもわかりません。
組織の統一性を保ち、判断ミスを防ぐためには、守るべき事項や考え方などのルール作成をした上で権限委譲することが大切です。
その他にも、権限乱用されないように少しずつ権限委譲するとか、大きなミスが生じないように管理体制の強化することも大事に
なります。
(2)放任になってしまい社員のモチベーションが下がる場合も
人には向き不向きがありますので、権限委譲によってすべての社員が能力を発揮できるわけではありません。
上役からの指示に沿って動くことが得意な人もいるので、『エンパワーメント』を行う際には人材の見極めが重要となります。
また、権限委譲が放任につながってしまい、社員の不満が高まる恐れやモチベーションが低下する場合もあります。
それらを避けるために。適時なミーティングと面談などでコミュニケーションを保ち、適切にフォローすることが大切になります。
部下に権限は渡すものの、最終的な責任は上役が取る姿勢が大事です。
5 エンパワーメントの進め方
『エンパワーメント』を導入する手順は、次のようになります。
第1ステップ:情報の共有
権限だけを与えられても、必要な情報がなければ、意思決定はできません。
したがって、適切な判断ができるように、必要な情報やデータを公開して共有する必要があります。
共有する情報には、会社の方針や経営戦略、人事、経理情報など、経営層のみが知っている内容なども含まれますので、
情報漏洩には充分注意する必要があります。
情報を公開する対象者は、正社員・入社後何年経過した社員など、条件を定めるとよいと思われます。
情報を共有化することは、社員を信用している証にもなりますので、仕事の責任感が芽生えやすくもなります。
第2ステップ:エンパワーメントを実施する目標とゴールの明確化
次に、達成すべき目標を明確化し、社員と合意形成をします。
『エンパワーメント』を実施する必要性や意義、あるいは導入する流れなど十分に説明して、共通認識を持つことが大切です。
社内研修会などを実施し、心配な点や不明なことなどを確認し、『エンパワーメント』の理解を深めます。
研修では同業種企業での導入事例などを紹介すれば、『エンパワーメント』で具体的に一体何をしなければならないのか、
イメージは掴みやすくなります。
実際に『エンパワーメント』を導入している企業の存在を知ることで、安心感が生まれ、成功させたい気持ちも高まります。
第3ステップ:支援・フォロー
権限委譲だけを進めてフォローや支援をしないでは、責任の丸投げと同じになってしまいます。
したがって、『エンパワーメント』を行う際には上役や組織のフォローが欠かせません。
特に、初めて導入するときは、想定していなかったトラブルや判断ミスが起きる可能性も高いですので、失敗だけを責めず、
原因を探り、改善策や予防策を一緒に考えることが大切です。
社員が成長するには、試行錯誤は不可欠です。
あまり深く介入しすぎることなく、社員を信じて見守りことも大事です。
そのため、相談しやすい体制と雰囲気を作ることも大切なことです。
『エンパワーメント』を導入すると、従業員の自主性や判断力は向上しますが、導入に不安を感じる従業員もいます。
そのため、いきなり幅広い業務を任せるのではなく、『業務委譲』は少しずつ進めることが大切です。
また、人によっては『エンパワーメント』に向いていない可能性もあるため、人材選びは慎重に行う必要がある。
向いていない、あるいは誤解している従業員に『エンパワーメント』を与えると、権力を振り回すことになりかねません。
人材が不足し、働き方も多様化しており、『エンパワーメント』で社員の成長を促すことは急務です。
社員が成長すれば、企業の生産性も向上する可能性が高いため、『エンパワーメント』の重要性や意義をみんなが正しく
理解することは大切なことです。