35.損益分岐点力②BEP
2010年1月29日
財務分析解説コラム(19) 当社の損益分岐点を検証する-損益分岐点比率-
第2回の今回は『損益分岐点比率』です。
1.損益分岐点比率とは
前回説明した『損益分岐点売上高』とは、「収支トントンとなる売上高」でした。今回説明する『損益分岐点比率』とは、「損益分岐点売上高が現在の売上高実績の何%にあたるのか」という比率です。仮に、売上高実績1000万円の会社の損益分岐点売上高が800万円であれば、『損益分岐点比率』は80%になります。計算式は次のとおりとなります。
計算式:損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷売上高実績
残念ながら『損益分岐点比率』に関する業種別の指標は公開されていませんが、全般的に概観すれば、中小企業は90~95%ぐらいが平均です。これに対し、大企業では80~85%ぐらいが平均だと言われています。中小企業の『損益分岐点比率』が90~95%ということは、売上が1割落ちると赤字転落になるということです。リーマンショック以降の厳しい経営環境の中で、いかに中小企業が厳しい局面におかれているのかよく分かります。国税庁の発表によれば赤字企業割合が70%を超したということですが、うなずける数値です。
なお、業種別の『損益分岐点比率』は、お近くのTKC全国会所属の会計事務所に問い合わせればわかります。
2.損益分岐点比率の見方
(1)損益分岐点比率は不確実な時代においては大変重要な指標
中小企業における『損益分岐点比率』は90~95%程度を推移していると説明しました。仮に90%として、このことはあと10%売上が落ちれば収支トントンになる、それ以上落ちれば赤字に転落することを示しています。巷では売上高が3割落ちた、4割落ちたという経営者のお話をよく耳にしますが、それだけ落ちるとすべての企業は赤字転落となります。今回の経済環境の厳しさを示しています。従って、現在はこの『損益分岐点比率』の管理が非常に重要になっています。いかに落とさないマネジメントを行うか、さらには上げるマネジメントを行うか、大変重要なことです。大企業においてはそういうことに注視し、『損益分岐点比率』引下げを実現している会社は多く見られますが、中小企業においてもできる筈です。がんばりましょう。
(2)損益分岐点比率の見方
『損益分岐点比率』はまず時系列に見ることです。今月の『損益分岐点比率』が前年同月と比べてどうなのか。低くなっていれば改善傾向にあり、高くなっていれば悪化傾向にあるということです。さらに同業他社と比較して業界における自社ポジションを確認することも大切です。
TKC全国会所属の会計事務所に関与を依頼されている場合は「月次試算表」の「月例経営分析表」の中で、『損益分岐点売上高(月)』ですが報告されています。これを平均月商で割れば、『損益分岐点比率』が求められます。
3.損益分岐点比率を改善するには
『損益分岐点比率』を改善する、すなわち下げるとは『損益分岐点売上高』をいかに下げるかということです。
(1)固定費を削減する
まず、すぐ着手でき、容易に改善できることは「固定費を削減する」ことです。固定費を削減しただけで、大きく『損益分岐点比率』を下げることができます。ただ上げた成果でさらに大きな成果(シナジー効果)を上げるためには、目標を掲げ、全員に明示することが大切です。そして達成したことを全員に知らしめる・・、そうすることによってさらに冗費節減はできる筈です。またトップ自らの率先垂範も大事です。社員には強いるだけで、社長は別世界・・、これでは社員は着いてきません。
具体論は前々回の説明とダブりますが、参考までに再度記載しておきます。
①人件費
基本的にはいままでの給与支給額を下げることはできません。しかし、ここで申しあげたいことは、これまでのような定期昇給はよく考えてみようということです。デフレと言われて久しくなっていますが、今後を予測すれば、物価は円高や内外価格差是正に向かって、まだしばらくは下がり続けることが予測されます。さらに今の為替レートで換算すると、実感はともかく、いつのまにか日本は世界一の高人件費国家のひとつとなっています。「実感が伴わない」ということは、物価が高すぎるということになります。ということは、物価はまだ下がらなくてはならないと言えます。いずれにせよ、このような背景からは人件費は検討する必要があります。特に経営状況が逼迫している場合は、社員とよく相談し、理解させたうえで給与を下げるという決断も必要と言えます。
②旅費交通費
タクシーは利用していませんか。高速道路は安易に利用していませんか。少し時間はかかっても、一番安い経路で移動していますか。改善のポイントは2点。社長の率先垂範と社員別管理の実施です。これで、数10%の旅費交通費は削減可能です。
③広告宣伝費
定期的な情報提供を郵送している場合、それをPDF化してメールで送信することはできませんか。また会社案内は、ホームページが当たり前の時代にまだ必要ですか。あるいはFAX同報もメールに置換えられませんか。インターネットの活用によって広告宣伝費は劇的に削減可能です。
④車両
いまの台数だけ車両は必要ですか。もし車両が1台減らせれば、駐車場代やガソリン代、車検代、保険料など、車両関連費も併せて、かなりの金額が削減できます。
⑤事務消耗品費
いままで事務用品はすべて会社で支給していませんでしたか。封筒などはともかく、筆記用具などは個人負担にしてもおかしくありません。またコピーはどうですか。カラーコピーを頻繁にしていませんか。あるいは裏紙の有効利用はしていますか。もっと言えば、複合機をコピー機能付きのパソコンプリンタに変更できませんか。細部を検討すれば、事務消耗品費も数10%の削減が可能です。
⑥通信費
通信費の内容は電話代・FAX通信料・郵便などに分けられると思いますが、まず、電話回線を減らせませんか。さらにFAXと郵便はメールに変更できませんか。電話回線の見直し、FAX・郵便のメール化によって、通信費は数10%以上の削減が可能です。
⑦水道光熱費
特に電気代は削減可能です。不要な電気は消しましょう。コンセントのつけっぱなしも止めましょう。電気代の削減はECOにも繋がりますので、時代の要請です。
⑧管理諸費
ホームページの維持管理費は年間どのくらい支払っていますか。早くからホームページなどを開設された場合、以前からの維持管理費をそのまま支払い続けていませんか。もともとホームページの維持管理費はそんなにかかりません。ただ、当初はそれほど利用が一般的ではありませんでしたので、高い時代がありました。しかし今は違います。ぜひ一度、確認しましょう。
その他、ご自分で自分の会社のことを具体的に振り返れば、もっと削減できることがあると思います。わかっていただきたいことは、このような固定費の削減はその削減額がそのまま利益の増額となるということです。もし小さな会社で月額7~8万円削減できれば、年間100万円ほどとなり、100万円も利益が増えれば、一気に赤字解消になるかもしれません。ぜひ、検討しましょう。大企業は驚くほどの努力をしています。
(2)限界利益率を改善する
『限界利益率』の改善とは、『変動費比率』の改善と言い換えられます。具体的には仕入数量の見直しや仕入単価の見直し、ロス率の低減などが考えられます。多くの大手企業では、中国や東南アジアで生産しているのはご存知のとおりです。ここで大事なことは2点。ひとつは、海外生産はもう大企業だけのものではなく、いまや中小企業でも対応可能であると考えることです。もうひとつは、たとえ0.1%程度の変動費比率の改善であっても、非常に効果としては大きいということです。これまでの既成概念や固定観念に囚われずに考えることが重要です。
時代は変わり、中小企業だからという「甘え」はもう許されなくなってきました。中小企業は弱者だという考え方ではなく、「少数精鋭企業だ」とでもいうような気概をもった考え方が必要となっています。その一環として「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を自ら発見し自らその処方箋・戦術を考え、会社全体にそのことを明らかにして実行していくことが大事だと思います。中小企業も大企業と同等の「経営心」を持って会社経営にあたることが重要だと思います。
「会計資料が読めない、読まない」ということは、そこに経営危機が迫っているのに気づくことができず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うということでもあります。ぜひ、自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・