693.事業の方向を探る ペスト(PEST)分析
2025年2月7日
これまで「やる気」「信頼」そして「経営力」のマーケティング理論を紹介してきましたが、次は「事業の方向性」です。
「事業の方向性」とは、マクロ的な外部環境を分析することになります。
前回のSWOTマトリクスの前段階であるSWOT分析も「外部環境」と「内部環境」から分析する方法でしたが、
そのほかにもマーケティングにはいろいろな分析方法があります。
今回はそんな中から『ペスト(PEST)分析』を紹介します。
1 ペスト(PEST)分析とは
ペスト分析とは、Politicsである政治的要因と、Economicsである経済的要因、さらにSocietyである社会的要因、Tecnologyで
ある技術的要因の4つ側面から、事業環境をマクロ的に分析し、事業の方向性を探る手法です。
なお、Politics・Economics・Society・Tecnologyの4つの頭文字から『PEST分析』と呼ばれています。
ペスト分析はマクロ的な環境分析なので、働きかけや努力ではどうすることもできない要因ですが、しかし業界団体などを通じて
政治へ働きかけることで規制緩和などの法律変更を促したり、あるいは自社努力で流行の喚起を促したり、けっして働きかけや努力
がまったくできないわけではありません。
ただいずれの場合も、短期的な施策にはならない、長期的な経営戦略として対策を練らなくてはならないものです。
2 ペスト分析の各因子を詳しく
(1)Politics(政治的要因)
政治的要因とは、規制や税制あるいは補助金などの法律関係、政府政治の動向、貿易や関税あるいは政情不安などの国際政治関係
などが挙げられます。
最近ではロシアによるウクライナ侵攻の長期化や、米国トランプ大統領再就任よる関税などのアメリカンファーストの影響、さらに
身近なところではハラスメントと企業モラルの問題などが気になるところです。
それらの中で事業にとって良い影響と悪い影響を考えることが政治的要因です。
(2)Economics(経済的要因)
経済的要因とは、産業構造の変化やGDPの動向、景気・物価・地価などの動向、さらには金利・為替動向、個人所得・消費動向
などが挙げられます。
最近ではデフレ脱却という名のもとの物価上昇やそれに伴う人件費の異常な増大化、あるいは人手不足や高齢者人材の活用の問題、
さらにはアメリカと中国の貿易摩擦などが気になるところです。
それらの中で事業に影響を及ぼすものはなにかを考えることが経済的要因です。
(3)Society(社会的要因)
社会的要因とは、人口減少や人口構造の変化、外国人の移入増加、生活様式の変化、価値観の移り変わり、インフラの整備、社会
環境問題や社会問題などが挙げられます。
最近では世界人口は増えていますが、国内人口の急激な減少や少子化、急速な高齢化、女性や多様性あるいは組織内に対するハラス
メントの問題、そのほかインバウンドの急加やソーシャルメディアの問題、さらには健康志向や食品・環境安心志向、まだ影響とし
て残るコロナなど感染対応に対する敏感な反応などが気になるところです。
それらの中で事業に影響を及ぼすものはなにかを考えることが社会的要因です。
(4)Tecnology(技術的要因)
技術的要因とは、技術革新や特許動向、自社に影響する代替技術の動向などが挙げられます。
最近ではAI技術の進展、再生可能エネルギーの動向、EV自動車の普及や自動運転化、リニア新幹線の開通、宇宙開発などが気に
なるところであり、これらは間違いなくシンギュラリティと言われるものを到来させるものです。
それらの中で事業に影響を及ぼすものはなにかを考えることが儀実的要因です。
マクロ環境分析は『ペスト分析』によらなくてもいいかもわかりませんが、ペスト分析は環境分析を漏れなくできるという利点が
ありますので、事業継続(ゴーイングコンサーン)をめざすためには考えておきたいものです。
そうすることがたとえスモールビジネスといえども、そのような姿勢が自社の環境適応を促すことにつながり、継続的な事業を実現
させることになります。 社長は経営者ですので、マクロ環境に対するアンテナを立てることは大事だと思われます。
以上のようなことを図示化すると、下記のようなイメージになります。
3 PEST分析の必要性
では、事業経営において、なぜ、ペスト分析を行う必要があるのかについて考えます。
それは、事業というものは常に世の中の変化、つまりマクロ経営環境に大きく影響を受けていることに尽きます。
したがって、自社の事業環境や経営環境を考えるためには、中長期的な視点から自社を取り巻くマクロ環境を把握・推測することが
大切ということになります。
ペスト分析はマクロ的な環境要因を漏れなく(これをマーケティング用語で「ミッシー(MECE)」といいます)洗い出すことが
できる自社の環境分析手法なのです。
自社を取り巻く外部環境をマクロ的に分析して、対策を講じていくことは、自社の競争力や存在感を高めることにつながります。
中小企業は大企業とは違い、大変弱い存在であり、これから数年間のあいだに、大淘汰時代がやってくると言われています。
だからこそ、中小企業であるほど、このような環境分析を行い、できる限り事前に対策を講じることが大切になります。
そのことが結果的に『環境適応適応戦略』といわれるものにつながっていきます。