694.事業の方向を探る 5フォース(Forces)

2025年2月14日

 今回の事業の方向性を探る考え方は、自社の事業にとっての『脅威』を徹底的に分析する方法です。

そんな分析手法を『ファイブフォース(Five Forces)』と呼びます。

 

ーファイブフォースのイメージ図ー

 

 

1 ファイブフォースとは

 SWOT分析は、経営環境ををまず「外部環境」と「内部環境」に分け、外部環境については「機会」と「脅威」から、

内部環境については自社の「強み」と「弱み」から分析する手法でした。

しかし、外部環境についてもう少し詳細に分析したい場合は、このファイブフォースで分析すると良いと思われます。

ファイブフォース分析は、外部環境をもれなく分析できるからです。

 

 ファイブフォース分析は次の5つから外部環境を分析するように誘導してくれます。

①属する業界内の競争度合い

②業界に新規参入する容易さ

③代替できる商品・サービスの状況

④買い手である顧客の強さ

⑤売り手である仕入先の強さ

この5つの影響力から「ファイブフォース(5つのちから)」と呼ばれます。

これらの観点から自社にとっての「機会」と「脅威」を分析すれば、戦略も立てやすくなります。

それぞれについて、以下で詳しく見ていきましょう。

 

 

2 一つめの5フォース:業界内の競争

 一般的に同業者が多い業界は競争が激しくなりますので「脅威」が存在します。

逆に競争が少なければ「機会」が存在することになります。

 しかし、同業者が少なくても、寡占状況になっている場合は大きな脅威が存在がすることになります。

また、業界の成長率が低い状態であっても、やはり脅威が存在することになります。

逆に、業界成長率が著しく高ければ、機会が大いにあることになります。

 さらに固定費の高い業界や在庫を多く持たねばならない業界であれば、毎月のコストがかかりますので、やはり脅威が存在する

ことになります。しかし、その分、新規参入することを難しくしているのであれば、機会が存在すると考えられます。

 

 たとえば、日本で一番小売業が多いと言われている「パン小売業」は最盛期の昭和47年には19万軒もあったそうです。

しかし、現在では8万軒に減っています。

このように、一時は同業者も多く競争も激しく、また消費のパン離れも一時あり、固定費や在庫もかかり、一見、機会がなさそうに

見えたパンの小売業界も、最近ではそれらの脅威を分析し、逆手にとって機会を創造し、さまざまなベーカリー店が現れて成長率を

上げています。かつ、新規参入も多くなっています。

 

 

3 二つめの5フォース:新規参入の脅威

 新規参入者の多い業界は競争も激しくなるので、やはり脅威と言えます。

しかし、まったくなくとも、それはそれで将来的なことを想像すれば、衰退業界ということでそれも脅威と言えます。

新規参入者が多いということはそれだけ業界に魅力があるわけなので、その魅力を捕らえることができれば、機会となる。

ところで、新規参入は参入障壁の高さによって決まる。

具体的には、大きな設備投資が必要だとか、経験(経験曲線効果)がものをいうとか、法的な規制があるとか、などである。

そこを捕まえることが、機会創出につながる。

 

 たとえば、米穀店は昔、食管法の関係で許認可制もあり、新規参入が少なく、非常に良き時代がありました。

しかし現在は食管法による規制もなくなり、非常に激しい競争時代に突入し、それに対処できない米穀店の多くが倒産・廃業を

してきたという経緯があります。

しかしその一方で、その危機を領域拡大の機会と捉えられた事業者などは、いまも大きく繁栄しています。

 

 

4 三つめの5フォース:代替品の脅威

 代替品の脅威とは、自社の商品と本来は異なる商品ですが、機能的に同等又はそれ以上の価値を提供する商品のことをいいます。

代替品が多くあればあるほど、その業界の脅威は高まることになります。

しかしながら「代替」は自社も採れる戦略でもあります。

自社の経営資源を捉え直すことで事業領域を拡げることにもなり、そう考えれば代替品も機会に変化させることができます。

 

 たとえば、日本酒とビール、ビールと焼酎、鉄道とバス、砂糖とシロップなど、意外に代替品が多いことに気づきます。

もちろん淘汰された事業者もあるでしょうが、逆に事業領域やマーケティングを変化させて業績拡大している事業者もあることは

事実です。

 

 

5 4つめの5フォース:買い手の交渉力

 買い手とは、お客様であり、得意先のことです。

お客様や得意先の意見があまりに強いと、やはり脅威に感じます。

日本社会は成熟化していますので、多くの業界において「買い手の交渉力」が強くなっていると言われています。

そうなると、人員の増加や生産性が悪くなるので、脅威となります。

 

 たとえば、住宅メーカーの場合、住まいというものはお客様にとって、一生に一度の高額な買い物ですから、当然のことながら

お客側に主導権がありますので、厳しい業界といえます。

しかし、付加価値が付けられれば、お客の納得感も高まり、かつ顧客単価も上げられるということも可能となってきます。

また、買い手の意思決定者を把握することが非常に重要で、その意思決定者を掴むことができれば、自社の機会を増やせることに

なります。

 また、買い手が片寄っている場合にも脅威となります。

売上高の多くを占めるお客様は本当にありがたい存在ではありますが、一方、見方を変えると脅威になりうる存在でもあります。

なぜなら、上得意先が事業方針を変えたので取引が無くなることや、主導権を握られていて足元を見られることなどが考えられる

からです。

しかし、常に新しい付加価値を提供し続け、自社から離れることができない状況にしてしまうと、逆に最高の機会となります。

したがって、よく言われることですが「新しい付加価値の創造」が言葉だけでなく、実行し続けることが非常に重要となります。

 

 

6 5つめのファイブフォース:売り手の交渉力

  売り手とは、仕入先のことです。この仕入先の力が強いと脅威となります。

具体的には、仕入れできる事業者が少ない場合や仕入先にとって自社があまり重要でない場合に起こりえます。

 

 たとえば、原材料を仕入できるところが限られていれば、仕入先の交渉力が強くなります。

また、仕入先にとって自社が立場が弱いと、いつどんな事情で取引停止や値上げなどを求められるかもわかりません。

 

 

 

このように、自社を取り巻く外部環境を分析して、対策を講じることは、自社の競争力や存在感を高めることにつながります。

中小企業は大企業とは違い、大変弱い存在であり、これからの数年間のあいだに、大淘汰時代がやってくると言われています。

そのような荒海に遭遇することなく、穏やかな内海で経営をしていくためにも、

中小企業であればあるほど、このような外部環境分析を行い、できる限り事前の対策を講じることが大切になります。

そのことが結果的に『環境適応適応戦略』といわれるものにつながっていきます。