37.損益分岐点力④限界利益率
2010年2月12日
財務分析解説コラム(21) 当社の損益分岐点を検証する-限界利益・限界利益率-
第4回の今回は、『限界利益』です。
1.限界利益・限界利益率とは
『限界利益』とは売上高から変動費を差し引いた利益です。変動費とは売上高、つまり操業度に比例して増減する費用であり、操業度とは関係なく発生する費用は固定費と呼ばれます。『限界利益率』とは売上高に占める限界利益の割合です。限界とは、売上高が生じたときに最大限、獲得できる利益という意味でそう呼ばれています。この限界利益は固定費を回収するパワーとなり、限界利益で固定費のすべてを賄えた点、つまり「限界利益=固定費」となる売上高のことを前々回で説明した『損益分岐点売上高』と言います。これらの計算式は次のとおりです。
計算式: 限界利益=売上高-変動費=経常利益+固定費
限界利益率=限界利益÷売上高=(売上高-変動費)÷売上高
=1-変動費率
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
この計算式から『限界利益』を上げるためには ①売上単価を上げる(同じ変動費で商品を高く売る) ②変動費を下げる(ロスをなくす、仕入単価を下げる)ことが有効であることが分かります。さらに ③固定費の削減が損益分岐点を下げることに有効である ことがわかります。『限界利益』が大きい商品が売れれば売れるほど大きな利益を生み出し、固定費を回収するパワーが大きくなり、損益分岐点を下げます。
業種別に、黒字企業の限界利益率はおおよそ次のとおりです。
①建設業40% ②製造業45% ③卸売業25% ④小売業40%
⑤飲食・宿泊業50% ⑥サービス70%
なお、業種コード単位の具体的な限界利益率については、メールにてお問い合わせいただければ、お答えいたします。
2.限界利益・限界利益率の見方
(1)製造業における限界利益
一般に仕入販売業では売上原価が変動費ですから、粗利益が限界利益に相当します。ときどき「限界利益=粗利益」という方がされますが、正確に言えば、それは仕入販売業に限ってのお話です。製造業は労務費が期末在庫に計上されるのでそうはなりません。製造業における限界利益は売上高から直接原価(材料費や外注加工費)を差し引きしたものととなります。
(2)限界利益の額と率、どちらが大事か
一般的に限界利益率の高い商品はあまり売れないので限界利益額は多くありません。逆に限界利益率の低い商品は数多く売れるので限界利益額は多い場合があります。さて、どちらが大事なのでしょうか。皆さんはどう考えますか?答えはバランスが大切であり、どちらも大事であるというのが、近視眼的な回答となります。しかし、経営を強くしていくという意味においては、限界利益率の高い商品・製品・サービスを開発するということの方に軍配は上がります。長期的視点においては限界利益率の高い商品を開発することが大事になります。売れる限界利益率が高い商品を持っていると言うことは、他社と差別が成功しているオンリーワンの商品を持っていると言うことに他なりません。オンリーワンの商品を持つと言うことは大変難しいことのように思いますが、あくまでも各社が立脚する商圏においてのオンリーワンと言うことですから、それほどハードルが高い話ではありません。当たり前のことを当たり前に、さらに期待以上の期待に応えていけば手に入るものではないのでしょうか。
3.限界利益・限界利益率の活かし方
(1)限界利益・限界利益率を把握して販売目標を立てる
商品別の販売単価や売上原価は把握しやすいので、商品別の単位当たり限界利益を調べることで、採算性の判断に利用できます。
A商品売上単価-A商品変動費単価=A商品限界利益(単位限界利益)
⇒固定費を回収する力
単位限界利益÷売上単価=限界利益率
⇒小売なら商品別の粗利率
例えば、A商品1個当たりの限界利益が50円とすれば、A商品が1個売れるたびに固定費を50円分だけ回収する力があるわけです。単一商品だけのビジネスならば、何個売れば総固定費を回収できるかが分かります。ただ現実の企業活動は限界利益が異なる多くの種類の商品を取り扱っているわけですから、そう簡単には計算できません。そこで商品グループという考え方を導入し、グループごとの単位限界利益と限界利益率を設定し、販売目標を立てます。
(2)商品特性を大別して販売促進活動をする
「限界利益の高い商品をたくさん売り、低い商品はあまり売らない」と言う経営指導を受ける場合がありますが、(それは理想ですが)机上の空論に近い話です。多くの場合、限界利益の高い商品はあまり販売数が出ません。販売数が多く期待できる商品は、たいがいが限界利益の薄いあまり儲からない商品です。あらゆる新商品、差別化された商品は、最初、限界利益が高いのですが、だんだんと値崩れして、コモディティ化になってしまいます。だからと言って、そんなことで暗くなる必要も、諦める必要も、悲観する必要もありません。これがふつうの現実なのです。大事なことはこのふつうの現実を前提にどういう工夫をして、それコントロールしながら経営していくかと言うことです。収益性と回転率という両面から考えると、限界利益の高い商品を販売することは収益性の向上であり、売上高利益率の向上です。限界利益の少ない商品は、たくさん売れば良いわけです。それは回転率の向上です。商売における「薄利多売」とはこのことを意味します。ディスカウントショップはここで勝負しているわけです。また「たくさん売る」という意味は、「早く売る」という意味でもあります。もちろん合わせて固定費の削減も非常に大切です。
ここで例題を・・。
1台売ると5万円儲かる冷蔵庫がありました。しかし1週間に1台しか売れませんでした。次に値段を下げて利益を2万円にしたら、1週間で3台売れるようになりました。前者は高い単価限界利益でがんばって、1週間で限界利益が5万円。後者はこれが安くしたけれど、1週間で限界利益は6万円。
これが「高く売るより、早く売れ」という商売の格言です。
(3)固定費はできるだけ削減する
先ほど変動費と固定費というふたつの費用を説明しましたが、現実には経営に固定的な費用はありません。売上高が減少していくことが分かっていれば、その減少した売上高で経営が継続できるように固定費を減らしていかねばなりません。社長から見ればコントロールできない費用(固定費)はありません。経営管理的に説明すれば、人件費も含めて固定費の前年比率は限界利益の前年比率以下に抑制しなければなりません。
時代は変わり、中小企業だからという「甘え」はもう許されなくなってきました。中小企業は弱者だという考え方ではなく、「少数精鋭企業だ」とでもいうような気概をもった考え方が必要となっています。その一環として「会計資料」という自社の診断書を読みこなし、自社の症状を自ら発見し自らその処方箋・戦術を考え、会社全体にそのことを明らかにして実行していくことが大事だと思います。中小企業も大企業と同等の「経営心」を持って会社経営にあたることが重要だと思います。
「会計資料が読めない、読まない」ということは、そこに経営危機が迫っているのに気づくことができず、表面化したときには「倒産」という憂き目に会うということでもあります。ぜひ、自社にちょっとした「チェンジ」というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・