704.簿記の仕組み③ 資産

2025年4月26日

会計は何のためにあるのか?

「申告をするためにある」というのは確かに絶対条件だが、

しかしその前に「経営状況を把握するためにある」というのが本来条件だ。

その本来条件を満たすためには会計の基礎知識である『簿記』を理解する必要がある!

 

 前回は貸借対照表が示していること、その右側の構造である「負債と純資産」について説明した。

貸借対照表は事業を始めて以来の現在の財政状況を説明しており、それを読むことで経営の状況が掴める。

またその右側の「負債と純資産」は他人資本と自己資本に分けて、事業に投下している資金を表す。

その意味で「負債と純資産」は合わせて『総資本』とも呼ばれる。

 

 今回は、貸借対照表の左側『資産』について、わかりやすく見てみよう。

 

(4)資産の構造

 資産は『流動資産』と『固定資産』、そして「繰延資産」に分けて表示されているが、

理解しておきたいのは流動資産と固定資産である。

①資産とは、集めたおカネである総資本をどのような形で運用しているのかを示している。

 集めたおカネを現金として運用しているのか、預金として運用しているのか、売上債権として運用しているのか、

 これから売るための在庫(棚卸資産)として運用しているのか、機械や建物として運用しているのか、などのことだ。

②その資産は、負債と同じく「ワンイヤールール」に則って、1年以内に資金化できると思われる『流動資産』

 それ以上かけて資金化されていく『固定資産』に分けて表示されている。

そうすると、近々返済が求められる流動負債は、近々資金化できる流動資産で運用しておいた方が「安全である」ということに

 気づけることになる。

逆に、長い時間運用する機械や建物などの固定資産の財源は、返済する必要のない自己資本か、返済しなくてはならないけれど

 長い時間をかけて返済すればよい固定負債であることが「安全性のうえでは大事である」ということに気づける。

流動負債・固定負債と流動資産・固定資産に分類する理由は、

単に決められた会計のルールでそうしなければならないということではなく、

経営の安全性を知るために分ける行為であるを理解する!

このことが理解できると、実務上仕訳するときに「流動」と「固定」の分類は大変重要であるとわかる。

 

(5)流動資産の構造

 流動資産は、ワンイヤールールによって、1年以内に資金化できる形での運用であることは理解できた。

しかし、「1年以内に資金化できる」と一括りにしても、そのモノによっていろいろなグレードになる。

したがって、流動資産はさらに細かく分類するように誘導されている。

なお、何度も言うが、これはルール上の問題ではなく、自社の財政状況を正しく理解できるために、要請されているのだ。

①そのまま支払手段として使えるものは現金と預金であり、そのことを『手元資金とか、『キャッシュ』とか、『手元流動性資産』

 などと呼んだりする。

 たとえ資金管理などをして資金を計算しても、結局計算されるのは、現金と預金の合計だ。 これ以上の手元資金はない。

②その次に資金に近いものは『売上債権』だ。売上債権は受取手形と売掛金の合計のことを言う。

 なお、来年2026年から手形は廃止される方向であることは押さえておきたい。

 また、一般的に回収見込みがない売上債権をそのまま売上債権に計上している場合があるが、これは性分するか、分けておきたい

 ものだ。

③ここまでの現預金・売上債権を近く資金化できる資産という意味で、『当座資産』と呼ぶ。このことも覚えておきたい。

④3番目に資金化しやすい資産は『棚卸資産』だ。 いわゆる在庫だ。

 この棚卸資産は、売れさえすれば売上債権となり、そして現預金になっていくが、現預金と売上債権と比較すると、その道のりは

 遠い。

 それよりも売れ残ったり、毀損したりすることも多いので、むしろ在庫はいかに支障が出ない範疇で少なくするかということが

 大事だ。

⑤最後にそれ以外の『その他流動資産』がある。

 その他流動資産は客観的に見るとそのほとんどが商売に関係するものはなく、大事なことはその他流動資産は少なくすることだ。

現預金以外の流動資産の項目にはそれぞれあるべき金額は求められる

それ以外を現預金で持つことが経営の要諦だ!

 

(6)固定資産の構造

 固定資産は、ワンイヤールールによって、1年以内かけて資金化される形での運用であり、1年以上の長期間にわたって

 使用したり、保有したりする資産のことだ。

 ①原則として、取得金額が10万円以上の備品などを購入した場合は固定資産として扱うことになっているが、

  中小の場合は「少額減価償却資産損金算入」という特例があり、原則として30万円未満の什器や備品は固定資産とはせずに、

  購入金額を費用にすることができる。(ただし、1年間の総額が300万円まで)

固定資産にはいろいろな税制上の要件があり、注意が必要!

 

  その一つが「減価償却」だ。

  減価償却とは、資産ごとに税法で定められた使用可能期間(耐用年数)で、経費計上(減価償却)を行い、評価額を示さなくて

  ならない。

 ②固定資産は「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つに分類される。

 ③有形固定資産は、形を持ち、目に見える固定資産であり、土地や建物、車や工場における機械などだ。

  ただし、不動産業者が所有する土地は販売することが目的なので、商品扱いとなり、有形固定資産にはならない。

  さらに、有形固定資産は、「減価償却資産」と「非減価償却資産」に分けられ、

  車や機械は時間の経過によって価値が減るので「減価償却資産」、土地は価値が減らないので「非減価償却資産」となる。

 ④無形固定資産は、形のない固定資産のことで、特許権やのれん、ソフトウェアなどのことをいう。

  無形固定資産も「減価償却資産」と「非減価償却資産」に分けられ、ソフトウェアや特許権などは時間が経つごとに価値が

  減少するので「減価償却資産」、借地権などは価値が減少しないので「非減価償却資産」となる。

 ⑤投資その他の資産とは、有形にも無形にも当てはまらないもので、関連会社や子会社への株式、投資有価証券、長期貸付金、

  投資不動産、長期前払い費用等が挙げられる。

 ⑥なお、土地や建物などは、その年の1月1日時点で所有している場合は「固定資産税」を支払わなければならない。

 

(7)これらの知識が付くと理解できること

 以上のようなことが理解できてくると、資金の調達と資金の運用について、次のようなことが理解できてくる。

①流動負債で集めたおカネは、流動資産で運用する。長期間に渡って運用する固定資産で運用してはいけない。

流動負債は流動資産で運用することが鉄則で、固定資産で運用してはダメ!

②自己資本だけで固定資産を運用することがベスト。

③自己資本だけで固定資産が購入できない場合は、補助的に固定負債を充てる。

④一番安定した経営とは、自己資本だけですべての資産運用が出来ている経営となる。そのことを『無借金経営』という。

       流動負債は固定資産では使わない!

       純資産は固定資産を購入する際の財源としては一番適している!

       固定負債は純資産の補足資金だ!

 

 

簿記の仕組みをこの程度だけでも知るだけでも、

このように経営状況が計数的に理解できるようになり、ロジカルシンキングにつながる。

 

次回は貸借対照表を理解した上での貸借対照表の読み方を解説する。