40.ここだけ見ればよいB/S
2010年3月6日
財務分析解説コラム(24)
ホントに役立つ「会計資料のどこを見る」-貸借対照表(B/S)-
繰り返しになることも多いと思いますが、皆さんに会計資料をどうしても読みこなしてもらいたく、少し角度を変えて、会計資料の読み方「会計資料のどこを見る」というテーマで、今回から説明を試みます。
1.会計資料を読めない、読まないということは
何回もこのコラムのエピローグで話をしていることですが、会計資料を読めない、読まないということは、暗闇の中を手探りで歩いているようなものです。会計資料はこのたとえ話でたとえれば、前方、後方、左右を照らす「明かり」みたいなものです。「明かり」があるから先のことが分かり、蹴躓かずにあるいは転ばずに歩けるのです。真っ暗闇を「明かり」無しで歩くことは危なくてできません。それと同じで、会計資料を読まず、読めずに経営を続けるということはこの先何が起こるのかまったく分からずに経営していることであり、非常に危険なことなのです。
2.なぜ、いままで読まず・読めずで経営が続け来られてきたのか
では、なぜ、会計資料を見なくともいままで経営を続けてこられていたのかと言えばそれはいままで経営環境が拡大の時代だったからです。人口も増え、経済も発達し、私たちには欲しいものもたくさんあり、生活にもそれなりに余裕がありました。でもいまはもう充分に豊かになってしまったという事実があります。俗にいう成熟社会です。だから多くのモノはコモディティとなり、昔みたいに粗悪品もないので、ならば値段は安いほうが良いというこになります。ですから低価格化になっていくのであり、低価格化はまだ続きます。それに加えて人口が減っているのです。これは戦後60年余りを過ぎ初めて経験する環境なのです。いままでとまったく条件が違う社会を迎えつつあるのです。さらにグローバル時代なのです。
経営環境は激しく素早く変化し、しかも初めて経験することばかりがこれから続きます。だからこれまでと同じ経営手法では会社を続けることはできません。その一つの対処が会計資料をきっちり読みこなすことです。
3.貸借対照表(B/S)はどこを読む?
会計資料の中でもっとも大切な資料は「貸借対照表(B/S)」です。社長の手元には決算以外でも毎月B/Sが届いているはずです。さて、毎月どこを見ていますか? 現金残高? それとも預金残高を見て、ホッとされているのですか? あるいは売掛金ですか、売掛金がタップリあるので安心されていますか?
そんなことを見ても精神的なカルタシスにはなっているのかもわかりませんが、現実的にはあまり意味はありません。いまは先ほども言いましたように、激変の時代です。いま、一番大切な会社のマネジメントは「安全性」です。そこで次の程度のことはB/Sで毎月しっかりと確認しましょう。
チェックポイント1:万が一に備えて手元の資金量を確認する
手元資金のことを「手元流動性」と言います。すぐ現金化でいる資産のことです。分析計算式では現金・預金・有価証券といいますが、それ以外でもすぐに現金化できるものであればその合計金額のことを「手元流動性資金」といいます。多ければ多いに越したことはありませんが、良いか問題があるのか基準が欲しいところですね。そこで「取引の規模」で判断します。取引の規模とは「平均月商」です。月商に比例して、運転資金は違いますからね。だいたい月商の2ヵ月分の手元流動性資金は欲しいところです。
またこのことを「手元流動性比率」、キャッシュポジション・レシオとも言います。
チェックポイント2:短期の資金運用を確認する
資金(お金)には使い方があります。これは家計でも同じですよね。消費者金融を利用して、家を建てるなんてムチャですよね。ここまで極端でなくともやはりルールはあります。
つまり、短期間で返済しないといけない借金はいつでも返済可能のような形で使う、運用するということです。短期で返済しないといけない借金とは何でしたか? そうです、他人資本と呼ばれる負債の中の流動負債でしたね。例をあげれば、支払手形・買掛金・未払費用・未払金・短期借入金などです。
他方、いつでも返済可能な使い方、運用って何でしたか? 流動資産という考え方もありますが、もっと厳しく考えて当座資産です。当座資産とは現預金・売上債権・有価証券などです。この当座資産と流動負債を比べることによって短期の資金運用が確認できます。このことを「当座比率」と呼び、80%程度あれば良いですね。ちなみに厳しいと言いましたが、当座比率は「酸性比率」とも呼ばれます。
ただここで一度は必ず確認することがひとつあります。それは売上債権中身の確認です。帳簿上の受取手形や売掛金のなかに腐った債権がないかどうかと言うことです。もう回収見込みはないのに後生大事に帳簿に残していることがあります(これは会計処理違反で粉飾と同じ)。もしあればこれを除外して考えなくてはなりません。
チェックポイント3:長期の資金運用を確認する
今度は逆に長期の資金運用を見ます。端的に言えば、固定資産の財源は何ですかということです。設備・建物・土地などの長期に渡って使用する資産とその調達資金の関係を調べます。固定資産購入のための資金とは固定負債と自己資本です。その比較を「固定長期適合率」と呼びます。これが少なくとも100%以上(固定負債+自己資本>固定資産)あることが絶対条件です。これが100%に満たない(固定負債+自己資本<固定資産)ということは、ここが大切なところなのですが、固定資産の購入に短期に返済しなければならない借金である流動負債もあてがっているということです。家計で言えば、住宅購入資金の一部として消費者金融から充当していることになります。これは早々に対処していかねばなりません。
この固定長期適合率は早々変化するものではないので、一度確認すれば毎月確認する必要はありません。毎月しなければならないことは、固定長期適合率が低い場合に対処していかねばならないことをしっかりと実行しているかどうかということです。横文字で言えば、アクションプランの進捗管理です。
いま、時代の潮目です。環境やルールが変わろうとしているときですから、大変きびしい経営環境であることは確かなことです。それを右から見た姿だと言えば、左から見れば大チャンスのときでもあります。つまり、環境・ルールが変わるのですから、どの会社も同じスタートラインに立っているということです。これまでと同じ条件ではこれまでについているハンディキャップは遺憾ともしがたいものでしたが・・。
戦後60余年という時間をかけて今のような時代になりました。だから、チャンスだからといってすぐに変化するものではありませんが、『強い意志』を持って努力することが大切なのだと思います。会計資料はその羅針盤になります。決して、決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではなく、自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって、自社診断と判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様『経営心』を持って経営に当たることが重要です。
ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・