41.ここだけ見ればよいP/L

2010年3月12日

財務分析解説コラム(25)
ホントに役立つ「会計資料のどこを見る」-損益計算書-

今回は、会計資料の読み方「会計資料のどこを見る」第2回目、損益計算書です。

1.会計資料を読めない、読まないということは(再掲載)
何回もこのコラムのエピローグで話していたことですが「会計資料を読めない、読まない」ということは、暗闇の中を手探りで歩いているようなものです。会計資料はこの話でたとえれば前方、後方、左右を照らす明かりです。明かりがあるから先のことが分かり、蹴躓かずにあるいは転ばずに歩けるのです。真っ暗闇を明かり無しで歩くことは危なくてできません。それと同じで、会計資料を読まずに又読めずに経営を続ける
ということは、この先何が起こるのかまったく分からずに経営していることであり、非常に危険なことなのです。

2.なぜ、いままで読まず読めずで経営が続けられてきたのか(再掲載)
では、なぜいままでそのような状況でも経営が続けてられきたのでしょうか?それは、いままで私たちの経営環境が「膨張の時代」だったからです。人口も増加し、経済成長も著しく、欲しいものもたくさんあり、またそれなりに生活にも余裕がありました。
でもいまはもうその時代と比べれば充分に豊かになってしまった感があります。俗にいう成熟社会です。だから多くのモノはコモディティ化され、品質も昔みたいに粗悪なもモノはありませんので、ならば値段は安いほうが良いというこになります。ですから「低価格化」になっていくのです。加えて、人口減少です。これは戦後60年余りを過ぎ、初めて経験する事態なのです。いままでとはまったく条件が違う社会を迎えつつあるのです。さらグローバル時代の到来です。
経営環境はこのように激しく素早く変化し、しかも初めて経験することばかりがこれから続きます。だからこれまでと同じ経営手法で会社を続けることはできません。その一つの対応策が会計資料をきっちり読みこなすということです。

3.損益計算書(P/L)はどこを読む?
会計資料の中でもっとも身近に感じられている資料は「損益計算書(P/L)」です。損益計算書を見て、売上が増えてればちょっと安心し、横ばい・減少していればため息をつくって感じですかね。さらに利益はどうかなって思い、やっぱり赤字か・・、きびしいなと感じる。
これでは会社経営に対する情報収集という観点から見れば、少し乏しいですね。損益計算書は当期の営業活動状況並びに収益状況を表すものです。先ほども言いましたように今は「激変の時代」です。一番大切なことは営業の「収益性」です。確実に収益性を高めている方向で会社の営業活動はなされているのかということです。そこで次の程度のことは毎月チェックしましょう。

チェックポイント1:利益を確認する
会社の利益には「5つある」ということを覚えておられますか。売上総利益と営業利益、経常利益それと税引き前当期純利益と当期純利益です。この中で特に重要なのは売上総利益と営業利益です。売上総利益は経費(販売費及び一般管理費)支払の源泉です。これが増えるようにマネジメントするのが「経営」です。
金額として「前年比」で伸びているのか否か。売上高に対する「構成比」で上がっているのか否か。この2つのアングルで検証します。するとつぎの4パターンに分かれます。
①前年比↑・構成比↑
利益も増えて利益率も上がって一番よい状況ですよね。ただそれで「バンザイバンザイ」では困ります。強み分析、さらにより強くなる分析をする必要があります。何がよく売れて利益が増えたのか。どうして利益率が向上できたのか。さらに利益を増やす、利益率を上げることは出来ないのか。そのなかで利益が減っている、あるいは利益率が悪くなっているものはないのか。それらはまだ取扱う必要があるのか。意思決定すべきことはいろいろあります。
②前年比↑・構成比↓
利益は増えたが、利益率が悪くなったパターンです。いわゆる薄利多売の戦術を取った場合です。利益が増えているので悪くはありません。いい状態です。ただ検証すべきことは、そのような戦術を取った結果 そうなったのかあるいは成行きでそうなったのかではずいぶん判断が変わります。さらに薄利多売の戦術を取ったとしても、この成果が予定とおりであったのかそうでないのかでも判断は変わります。またこの成果を続けさせるための連続技をどうするか、これも大変重要な意思決定事項です。
③前年比↓・構成比↑
利益率は上がったが、利益自体は減ったという状況で、決して好ましい結果ではありません。なぜなら、経費支払の源泉は利益率ではなく利益額だからです。よく「利益率が重要だ」というアドバイスを受けることもあるかと思いますが、それは所定の利益があってでの話です。大事なのは利益額です。このことをお忘れなく。そこでこの原因と対策を考えます。多くの場合は、販売価格がお客様にとっての納得価格になってないことが上げられますが、もう一つ考えられるのが訴求の仕方の問題です。特長をお客様目線で説明できているのか、あるいは説明に説得力があるのかなどです。ともかく「お客様目線」がキーワードです。
④前年比↓・構成比↓
利益も落ち、利益率も下がっている・・最悪の状況ですね。しかしこれもこれまでの話です。これからは別です。これからはこの事実をもとにマーケティングを練り直し、販売戦略や売上原価の改善に取り組めば良いわけです。ただ、早くにこの兆候に気づけばこのとおりですが、切羽詰った状況ではそうも行きません。だから会計資料を見る、読むことが大事なわけです。

チェックポイント2:経費の削減
チェックポイント1の話は、主に売上総利益の改善についての説明でした。経費の削減とは、営業利益の改善です。考え方はシンプルです。
まず第一に、売上総利益の前年比より高い伸びを示している経費を削減するということです。経費は必ず売上総利益の前年伸び率より抑えるということです。問題は具体的にどうやって抑えるかということです。
第1の原則は、削減する人に「例外なし」ということです。社員の方はもちろんのこと、社長以下役職者も削減に努めなければなりません。第2の原則は、成果の「見える化」です。各人別の削減目標がどのように進んでいるのか、みんなで共有化できるようにし、雰囲気を盛り上げたり、ゲーム化します。
第二は、経費削減に聖域なしです。既得権もありません。また固定資産もいま不要なものは処分します。在庫も過剰在庫含めて同様です。
第三は、インターネットの活用です。郵便はメールに置換えられないか。広報誌はメールマガジンなどに置換えられないか。パンフレットはホームページで代用できないか。インターネットの活用は、経費削減に
大きな力を発揮します。

チェックポイント3:売上高の検証
利益のおおもとは売上高です。その意味では売上高は一番大事です。しかし、一朝一夕で改善できるものではありません。そこで毎月チェックすべき売上高というものは総額ではなく、もっとミクロというべきか今月予定していた売上高が売上できたのかどうかということです。その意味では損益計算書でチェックするのではなく、別途「販売計画」とでもいうべき計画があってそれとチェックすべきものです。従って、規模はどうであれ「販売計画」とでもいうべきものがなくてはなりません。
それともう一つ大事なことは売上は最終目標ではなくプロセスだということです。最終目標は利益です。そのために経営をマネジメントしなければなりません。売上高はお客様との関係もありますが、極論いえば
コントロール(統制)できません。しかし原価や経費はコントロールでき、最終的な利益もある程度、管理可能なものです。そこにマネジメントスキルが左右する余地があります。
従って売上高が思うように達成できなかったという場合、そこにはその方策の問題もあったといえますが、さらに第2・第3の補完策がなかったともいえます。売上高の検証で大切なことは何故という仮説に基づき
次の方策、次善の策を考えるということです。

時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、別な言い方をすれば継続企業(going concern)とよく言いますが、生命にも限りがあるように経営環境のことを除いても、そもそも
企業を永続させること自体が大変なことなんだと思います。
その上に現代はグローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化などさまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、しかし大チャンスのときでもあります。つまり環境・ルールが変わるのですから、どの会社も再スタートラインに立っているということです。チャンスだからといってすぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが、『強い意志』を持って努力することがいま大切なのだと思います。会計資料はその羅針盤になります。決して決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって、自社診断と未来判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の経営心を持って経営に当たることが重要だと思います。
ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・