49.セグメント情報④時系列
2010年5月8日
財務分析解説コラム(33) セグメント情報
-経営実績一覧表-
月次試算表を見て「この勘定科目には何を入れていたのか」とか「期首からのトレンドを見てみたい」などと思ったことはありませんか?
決算書ではそこまで表示することは求められていません。「求められていない」とは、法的に求められていないということです。つまり『外部報告書』として、そこまで報告する義務はないということです。中小企業の場合『外部』とは税務署であり金融機関です。そのような法的要求に準じて作成する会計のことを『制度会計』とか『財務会計』といいます。
他方、内部管理的には細部まで分かるようにしたいものです。そのような考え方で作成する会計のことを『管理会計』といいます。わかりやすく言えば『経営会計』と言っても良いかと思います。
そのような細目情報『セグメント情報』4回目は『経営実績一覧表』をご紹介します。
1.月次試算表は当月のスナップショット
月次試算表は貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)から成り立っています。B/Sは会社の財政状況をストック(月次締日)で示し、P/Lは会社の営業成績をフロー(期首から月次締日現在)で示しています。しかしP/Lに関しては、期首からのトレンド(流れ)で見たいということがあります。逆にいえば直近だけ見ていると、直近の状況だけがデフォルメされることになり、営業成績をともすれば誤解しかねません。そこで必要となるのが『経営実績一覧表』です。
2.経営実績一覧表の種類
経営実績には3種類の表示方式があります。
(1)月別内訳表示方式
ひとつは月別内訳表示方式です。月次表示のP/Lを期首から並べます。さらにその横に前年同月実績と予算表示があればベストです。これは基本的な表示方式で、項目だけを図示すると次のようになります。
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|勘定科目名|期首第1月|構成比|前年同月値|前年対比|同月予算値|達成率|
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|売上高 | 9,999,999|100.0%| 9,999,999| 999.9%| 9,999,999|999.9%|
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(2)累計内訳表示方式
ふたつめは累計内訳表示方式です。累計表示のP/Lを期首から並べます。その他は上記と同様で、これも基本的な表示方式です。累計ですから、期首第2月の数値は、期首第1月+期首第2月となります。
(3)移動合計表示方式
最後に移動合計表示方式です。移動合計とは、常に過去1年間の数値を表示させます。たとえば、期首第1月の数値は、前期第2月から期首第1月までの累計値を表示させることになります。この場合は前年同月実績と予算は表示しても無意味ですので、表示させません。
この移動合計表示方式はトレンドを見るには最適な表示方式であり、売上高が伸びている企業であれば、必ず移動合計値は毎月大きくなっていきます。毎月、経費を節約している場合は、移動合計値は毎月小さくなっていきます。項目だけを図示すると次のようになります。
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|勘定科目名|平成22年4月|伸び率|平成22年5月|伸び率|平成22年0月|伸び率|
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|売上高 |999,999,999|101.0%|999,999,999|101.5%|999,999,999|103.0%|
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|水道光熱費| 999,999| 99.0%| 999,999| 99.5%| 999,999| 98.0%|
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(4)Zチャート
この移動合計表示方式の応用グラフとして、以前ご紹介した「Zチャート」いうグラフがあります。これは、前年同月比較折れ線グラフ、前年同期比較折れ線グラフ、移動合計比較折れ線グラフを組み合わせるとアルファベットの「Z」が描けることになります。例えば、毎月100万円ずつ売上があがる会社があったとします。月次の売上は毎月100万円ですから、折れ線グラフで描けば、横一直線になります。累計売上は、1ヶ月目100万円、2ヶ月目200万円と100万円ずつ増えていけば、右上がり直線となります。さらに、移動合計はずっと毎月100万円ですから、どの月の年間売上高も1200万円となり、上方で横一直線のグラフとなります。この3つをつなげば「Z」の文字が描けます。
売上横ばいの企業は「Z」の文字に、売上が増加している企業は「右上がりZ」に、売上が落ちている企業は「左上がりZ」の文字を描きます。これによって経営業績のトレンドが上り調子なのか、下降気味なのか、判定ができます。
3.B/Sの経営実績一覧表は
ここまでの『経営実績一覧表』はあらためて断ることはしませんでしたが、P/Lに関する『経営実績一覧表』でした。では、B/Sはどうすれば良いのでしょうか。B/Sに関しても『経営実績一覧表』は必要ですが、但し毎月変動するようなダイナミック性はありませんから、月表示する必要はありません。年間表示、つまり決算額の一覧表で十分です。ただ期間は10年間ほどの超長期スパンのものがほしいですね。また変化を表示されせるためには、「伸び率」ではなく「増減高」が必要です。図示すれば、次のようになります。
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|勘定科目名|平成12年決算額|増減高|~|平成22年決算額|増減高|
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|現金 | 999,999|10,000|~| 999,999|-9,000|
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| | | |~| | |
時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、換言すれば「企業は継続なり(going concern)」と言いますが、生命にも限りがあるように、そもそも企業を永続させること自体が大変なことなのです。それに加え、現代はグローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化などさまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、大チャンスのときでもあります。つまり環境・ルールが変わっているのですから、どの会社も新たなスタートラインに立っているということです。
チャンスだからといってすぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが、『強い意志』を持って努力することがいま大切なのだと思います。決算書や月次試算表はその羅針盤になります。決して、決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって自社診断と未来判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の経営心を持って経営に当たることが重要だと思います。
ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・