50.セグメント情報⑤利益増減
2010年5月14日
財務分析解説コラム(34)
セグメント情報 -利益増減分析表-
月次試算表を見て「この勘定科目には何が入っていたのか」とか、「期首からのトレンドを見てみたい」などと思ったことはありませんか?
決算書ではそこまで表示することは求められていません。求められていないという意味は、法的に求められていないということです。つまり『外部報告書』として、そこまで報告する義務はないということです。中小企業の場合『外部』とは税務署であり金融機関です。そのような法的要求に準じて作成する会計のことを『制度会計』とか『財務会計』といいます。
他方、内部管理的には細部まで分かるようにしたいものです。そのような考え方で作成する会計のことを『管理会計』といいます。わかりやすく言えば『経営会計』と言っても良いかと思います。
そのような細目情報『セグメント情報』の5回目は、『利益増減分析表』をご紹介します。
1.利益増減分析表とは
企業の目的は、ある意味では「利益」を稼ぎ出すことです。この利益が翌年度以降の投資等の原資となり、企業の永続性は維持されることになります。『利益増減分析表』とは聴きなれない用語ですが、まさしく、この「利益」に焦点を当てたセグメント情報です。
損益計算書には「売上高」から始まり、原価が表示されて「売上総利益」、人件費・経費のあとに「営業利益」、営業外損益のあとに「経常利益」、さらに特別損益のあとに「税引き前当期純利益」、最後は法人税
等のあとに「当期純利益」が表示されています。この並びで「利益」に対する増減要素を表示したものが、『利益増減分析表』になります。
2.利益増減分析表の種類
利益増減分析表を作成する場合、どの利益を基準に増減分析表を作成するのか、決める必要があります。どんな企業でも作成できるのは前年同月に対してと前月に対してという利益増減分析表です。
しかし、本来基準とすべき利益は『利益計画』です。
なぜならば、利益計画は企業の永続性を前提として作成しているからです。多くの中小企業において『利益計画』は作成されていませんが、『利益計画』は難しいものではありません。3月26日付『インプルリポート』で「かんたん経営計画①」を掲示してありますので、利益計画についてはそちらを参照してください。
(1)前年同月比較利益増減分析表
では、『前年同月比較利益増減分析表』を紹介します。表示方式は累計表示となります。一部は割愛しますが、例示すると次のようなイメージになります。
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| |前期 | | | |当期 | | |
|勘定科目名|5月累計|構成比|利益増加|利益減少|5月累計|構成比|伸び率|
---------------------------------------
|売上高A | 50,000| 66.7%| 3,000| | 53,000| 75.7%|106.0%|
---------------------------------------
|売上高B | 25,000| 33.3%| | 8,000| 17,000| 24.3%| 68.0%|
---------------------------------------
|総売上高 | 75,000|100.0%| | 5,000| 70,000|100.0%| 93.3%|
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|仕入高 | 40,000| 53.3%| 4,000| | 36,000| 51.4%| 90.0%|
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| | | | | | | | |
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|売上総利益| 30,000| 40.0%| 800| | 30,800| 44.0%|102.7%|
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|人件費 | 15,000| 20.0%| 1,000| | 14,000| 20.0%| 93.3%|
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|旅費交通費| 3,000| 4.0%| 1,000| | 2,000| 2.9%| 66.7%|
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| | | | | | | | |
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|営業利益 | -2,500| -3.3%| 500| | -2,000| -2.9|125.0%|
どうですか、こうすれば前年同期と比べ『利益』に対してどこが貢献し、どこに改善の余地があるか見えて来ますね。構成比をつけることによって、収益構造の違いも見えてきます。
なお、このような管理資料は円単位で作成するのではなく、万円単位あるいは10万円単位で作成することも重要です。
(2)前月比較利益増減分析表
二つめは『前月比較利益増減分析表』です。これは前例で「前期5月累計」のところを下図のように「当期前月累計」に変えて作成します。
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| |前月 | | | |当期 | | |
|勘定科目名|4月累計|構成比|利益増加|利益減少|5月累計|構成比|伸び率|
---------------------------------------
|売上高A | 50,000| 66.7%| 3,000| | 53,000| 75.7%|106.0%|
---------------------------------------
|売上高B | 25,000| 33.3%| | 8,000| 17,000| 24.3%| 68.0%|
(3)利益計画比較利益増減分析表
三つめは『利益計画比較利益増減分析表』です。これは「前期5月累計」のところを下図のように「利益計画同月累計」に変えて作成します。またこの場合は「伸び率」に変えて「達成率」とします。
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| |利益計画| | | |当期 | | |
|勘定科目名|5月累計|構成比|利益増加|利益減少|5月累計|構成比|達成率|
---------------------------------------
|売上高A | 55,000| 73.3%| 3,000| | 53,000| 75.7%| 96.4%|
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|売上高B | 20,000| 26.7%| | 8,000| 17,000| 24.3%| 85.0%|
この場合は当事業年度に入る前に考えた「あるべき姿」(羅針盤ともいえます。)と比べて現状がよくわかります。経営計画である利益計画は今期の航海図とも言い換えられますので、航海図からずれて来た分、どのような打ち手で修正すべきかよくわかります。
3.利益増減分析表の活かし方
(1)3種類の利益増減分析表の使い分け
基本的な利益増減分析表は「前年同月比較利益増減分析表」であり「利益計画比較利益増減分析表」です。火急的に業績を回復する必要がある場合は、「前月比較利益増減分析表」を活用し、毎月毎月、利益を増加させるようにマネジメントします。
「経営」は打ち手によって自社を有利に導けます。天気には「天気予報」という言葉はありますが、「天気計画」という言葉はありません。なぜですか。お分かりのとおり、天気は私たちにはどうすることもでき
ないからです。ところが「経営」は違います。社長のマネジメントで変えることが可能なのです。そのために「経営計画」を立て、その道すじとその方法を考えるわけです。
いま中小企業にはそのような経営が求められています。
(2)経費削減に活用する
いずれの利益増減分析表もその中心は、「売上総利益」の「伸び率(達成率)」です。まず売上総利益の伸び率に着目し、売上総利益の伸び率を上回っている経費科目を探します。売上総利益の伸び率以上に伸びている経費は原則、削減します。具体的な方策と具体的な削減額を提示して、全員で削減しましょう。経費削減は社内の問題であり、人件費とは関わりない費用ですので、削減は必ずできます。
(3)売上原価削減に活用する
次に売上高の増減に対して、「売上原価」の動きを見ます。売上原価は必ず売上高増減の内数となるようにコントロールします。内数とは、売上高が伸びている場合でも、その伸び率以下に売上原価の伸び率を抑えるということです。売上高が減少している場合は、その減少率よりも大きく減少させるということです。
売上原価を抑えるためには仕入単価など仕入先との調整も必要ですが、まずその前に社内でできることを考えます。それは在庫です。過剰在庫になっていませんか。デッドストックになっていませんか。それらを是正するためには倉庫の整理整頓が、そのまた前提条件となります。それによって仕入数量を押さえることもできてきます。
(4)売上構成の見直し
「売上高」は前年と比べてあるいは利益計画と比べて見ます。どうも計画とは売れ筋がちがうとか、計画した利益率がちがうとか、いろいろあろうかと思います。売上を見直すためには、商品や製品あるいはサービス別の売上状況を掴む必要があります。
税金のための帳簿であれば売上高ひとつの勘定科目で良いわけですが、会計を経営に活かそうと思えば、そのような考え方から変化が生じてきます。それこそが『管理会計』とか『経営会計』とかと言われている領域なのです。経営に会計を活かすためには、少なくとも商品グループ別ごとに売上や粗利益を掴む必要があります。それが以前説明した、「部門別」というセグメント情報です。そこまでの基盤があれば、プロダクツミックスとか、マーケティングミックスという考え方が可能となってきます。
いま日本は成熟社会と言われ、モノがあふれている状況です。過去のように、作れば何とか売れるという時代ではありません。それは皆さん一人ひとりも、「生活者」という立場で振り返ればよくお分かりになると思います。ならば、その感覚を自社の経営にも持ち込むべきではないのでしょうか。
現在は時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、換言すれば「企業は継続なり(going concern)」と言います。しかし生命にも限りがあるように、そもそも企業を永続させること自体が大変なことなのです。それに加えて、グローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化など、さまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、大チャンスのときでもあります。つまり環境・ルールや背景が変わっているのですから、どの会社も新たなスタートラインに立っているということです。チャンスだといっても、すぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが、強い意志を持って努力し続けることがいま大切なのだと思います。決算書や月次試算表はその羅針盤になります。
会計は決して決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって自社診断と未来の判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の経営心を持って経営に当たることが重要だと思います。ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。
次回もお楽しみに・・