51.セグメント情報⑥業績予測
2010年5月18日
財務分析解説コラム(35)
セグメント情報 -業績予測表-
月次試算表を見て「この勘定科目には何が入っていたのか」とか「期首からのトレンドを見てみたい」などと思ったことはありませんか?
決算書ではそこまで表示することは求められていません。求められていないという意味は、法的に求められていないということです。つまり『外部報告書』として、そこまで報告する義務はないということです。中小企業の場合『外部』とは税務署であり金融機関です。そのような法的要求に準じて作成する会計のことを『制度会計』とか『財務会計』といいます。
他方、内部管理的には細部まで分かるようにしたいものです。そのような考え方で作成する会計のことを『管理会計』といいます。わかりやすく言えば『経営会計』と言っても良いかと思います。
今回はそのような細目情報『セグメント情報』の最終第6回になりますが、『業績予測表』についてご紹介します。
1.先行き不透明な時代にあって業績予測はしりたい
経営環境の変化が激しい昨今ですが皆様の会社環境はいかがでしょうか。年末年始には「景気の二番底」が警戒されていましたが、いまやその心配は払拭された感があります。しかし、一方そう思えば、ギリシャの財政破綻を発端とした為替レートと株価の激しい変動やメキシコ沖油田の爆発で原油価格・環境への影響が心配されています。
これらの影響を直接受ける企業もあれば、直接影響を受けないなくともジワジワと津波が押し寄せてくるように間接的に意外と大きな影響を受けることも少なくはありません。
そのような環境の中で、事前に業績を予測し、それを確実に達成していくマネジメントはたいへん重要です。このようなマネジメント手法は少し以前であれば、中小企業において必要ではなかったかもわかりません。が、いま結果的に大きなダメージを受ける中小企業・零細企業ほど、次期業績あるいは期末業績予測をする手法
は大事です。
2.業績予測の手法
業績予想つまりシュミレーションの仕方はいろいろあります。しかしここで大切なことは、ブラックボックスに入ったコンピュータソフトを利用した複雑なシュミレーションをするより、シンプルなシミュレーションをするということです。
いくら念入りに予測計算したところで、所詮は予測です。未来がわかるわけではありません。予測計算の目的はおおよその着地点を明確にし、それに対してマネジメント(経営コントロール)する指標を得ることです。また状況が変われば、直ちに是正しなければいけません。複雑な予測計算ではそれをすることもできないので、結果的にはシンプルな予測計算に切り替えかければなりません。
これからの業績予測手法を分かり易くする理解していただくために事例を設営します。その事例が業績予測の考え方によって、予測業績がどのように変わっていくのかを確認してください。
[設例]
・12月決算 9月現在 前年実績 前年決算額
・売上高 1,890万円 1,800万円 前年伸率 5.0% 2,400万円
・売上原価 (変動費) 950万円 900万円 前年伸率 5.5% 1,200万円
*変動費比率 50.2%
・人件費 (固定費) 475万円 450万円 前年伸率 5.5% 600万円
・その他経費 (固定費) 450万円 500万円 前年伸率△10.0% 600万円
・経常利益 25万円 △50万円 0万円
(1)これまでの前年伸び率で業績予測をする
第1の業績予測の仕方は、これまでの「前年伸び率」で予測するということです。
たとえば、これまで売上は前年5%で伸びていたとします。すると、残りの期間も前年5%で伸びるとする考え方です。売上原価、人件費、経費なども、そういう考え方をします。
[予測結果]
・12月決算 9月現在 決算予測
・売上高 1890万円 2520万円 前年伸び率 5.0%
・売上原価 (変動費) 950万円 1266万円 前年伸び率 5.5%
・人件費 (固定費) 475万円 633万円 前年伸び率 5.5%
・その他経費(固定費) 450万円 540万円 前年伸び率△10.0%
・経常利益 25万円 81万円
(2)売上高は前年伸率、変動費は変動費比率、固定費は前年同額で業績予測する
第2の業績予測の考え方はもう少し緻密に考えます。
変動費は売上高の増減に比例する費用です。したがって、売上高は「前年伸び率」で予測し、変動費は「変動比率」で予測します。しかし固定費は影響受けませんので、残りは前年実績と同額と考えます。
[予測結果]
・12月決算 9月現在 決算予測
・売上高 1890万円 2520万円 前年伸び率 5.0%
・売上原価 (変動費) 950万円 1266万円 前年伸び率 5.5%
・人件費 (固定費) 475万円 625万円 前年伸び率 4.1%
・その他経費(固定費) 450万円 550万円 前年伸び率△ 8.4%
・経常利益 25万円 79万円
(3)経営計画をもとに予測する
第3の業績予測の考え方は経営計画を利用する方法です。
未経過月に関しては、経営計画数値を当てはめます。ただし多くの場合、経営計画数値とおりには実績はなりませんので、あまりお勧めはできません。
(4)実額入力で予測する
第4の業績予測の考え方は実額(予測値)を入力する方法です。
しかし一つ一つ入力していくのではなく、実際は第2法との組合せとなります。まず、売上高は前年伸び率、変動費は変動費比率、固定費は前年同額で入力し、そのうえで金額が決まっている人件費などを個別入力するという方法です。
3.業績予測の利点
では、先のことはわからないと言いながらも、業績予測のメリットは何でしょうか。それは事業年度当初設定した計画値に着地点を近づけることです。さらに近づけることが無理であれば、そのことにより生じる障害に手立てをあらかじめ講じることです。
この業績予測は期末3ヵ月前までに一度行うべきであり、PDCAマネジメントの節目となる大きなA(軌道修正行動)に当たります。
現在は時代の潮目、新しい時代を迎えようとしていると何度か申しあげてきましたが、換言すれば「企業は継続なり(going concern)」と言います。しかし生命にも限りがあるように、そもそも企業を永続させること自体が大変なことなのです。それに加えて、グローバル化やフラット化、国内においては少子高齢化、成熟社会化など、さまざまな因子がこれまでにないスピードで世の中を変革させていっています。
大変厳しい経営環境であることは間違いないことですが、大チャンスのときでもあります。つまり環境・ルールや背景が変わっているのですから、どの会社も新たなスタートラインに立っているということです。チャンスだといっても、すぐに自社のおかれている状況は変わるものではありませんが、強い意志を持って努力し続けることがいま大切なのだと思います。決算書や月次試算表はその羅針盤になります。
会計は決して決算・申告、税務署や銀行のためにあるのではありません。自社のためにあるのです。それを読みこなすことによって、自社診断と未来の判断ができ、さまざまな『KAIZEN』の方策を提示してくれます。中小企業も大企業と同様の経営心を持って経営に当たることが重要だと思います。
ぜひ、自社にちょっとした『チェンジ』というスパイスをふりかけましょう。