56.会計で資金運用を点検する
2010年7月7日
『会計で自社をマネジメントする』第3回目は「自社の資金運用を点検する」と題し、いま一番経営管理で大事な資金、お金の使い方に関してチェックする方法をご紹介します。
前回は資金状況について説明しました。資金状況とは会社を経営していくあたっての、当座の資金があるかないかということです。今回は資金の使い方です。
いくらお金があっても使い方が無茶苦茶では会社は潰れてしまいます。それは家計で考えても同様です。会社といえども、特に中小企業の場合は究極的には家計と同じです。規模が小さな中小企業ほど、ある意味では経営耐性はしぶといとも言えますが、逆にミクロ的に管理して運営しないとなかなか経営改善はできないと言えます。
では早速、見ていきましょう。
1.すぐ返さないといけない資金は、いつでも返せる形で運用する
前回、「資金の使い方にはルールがある」と説明しました。このことをよく覚えてください。
では、すぐ返さないといけない資金、調達資金(会計も徐々に理解されてきたと思いますので、徐々に専門用語を使います)には何があるのでしょうか。調達資金の源泉を表す『負債の部』を見ますと、上から支払手形・買掛金・短期借入金・未払金や未払費用などがあります。つまり、流動負債がすぐ返さないといけない資金にあたります。例えば買掛金、商品を仕入するときにツケで仕入するわけですが、翌月か翌々月には支払わなければなりません。もし支払が滞るとその仕入先から仕入ができなくなります。未払金や未払費用も同じです。
ちょっと横道にそれますが、仕入代金が支払えなければ仕入できなくなると言いましたが、それが道理だということはよく理解できると思います。自社がその逆の立場(支払を受ける側)になるのが、売掛金です。ということは、売掛金が約束とおり回収できないと取引を断らなくてはならないということです。ところで皆さんの会社はそうされていますか。支払を約束とおりにされない得意先には、残念だけれど取引を断らないといけないのです。お互いにそうすることによってケジメがある発展する経営ができるのです。意外とそうでない会社が多くあり、そういうことを続けているるとそのような会社同士だけで取引することになり、お互いに経営改善しないわけですから、1社欠け、2社欠けと倒産の道に近づいていくことになります。
話を元に戻します。そのような流動負債による資金は基本的にいつでも返せる形で運用しなければなりません。いつでも返せる形で運用する一番極端な形は現金と預金です。現預金で持っていれば、いつでも返済できます。つまり、いつでも返せる形の運用とは当座資産であり、もう少し広義に理解すれば流動資産です。
したがって、「すぐ返さないといけない資金を、いつでも返せる形で運用しているかどうか」は、当座資産又は流動資産と流動負債を比べることで確認することができます。確認することを経営分析と呼ぶわけです。
2.すぐ返さないといけない資金を、いつでも返せる形で運用しているかどうかを
確認する経営分析
当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100
流動負債を全部、当座資産で運用していれば、当座比率は100%以上となります。理想は100%以上ですが、現実的にはそうもいきませんから、最低でも50%超、できれば80%程度は欲しいところです。
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
そこまで現状運用できていない場合は、もう少し運用資産を広く捉え、流動比率を見ます。流動比率は理想は200%以上ですが、最悪でも100%超程度、できれば150%程度は欲しいところです。
3.当座比率は100%超、流動比率は200%超あれば、安心か
では、当座比率、流動比率それぞれ、100%超、200%超であれば、安心してよいのでしょうか?そう単純に判断できません。例えば、当座資産の中には受取手形・売掛金の売掛債権が含まれます。あなたの会社の平均月商はいくらですか?仮に月商500万として、もし受取手形が1000万円、売掛金が2000万円あれば多すぎるでしょ!?回収まで6ヵ月もかかっていることになり(3000万円÷600万円)、いくらなんでも回収にかかり過ぎでしょう。社長が「当社は3ヶ月で回収するはずだ」と思ってらっしゃる場合は、不良債権が1500万円あるか、それとも現場はなんらかの理由で回収努力を怠っているということになります。
流動比率の場合であれば、流動資産には棚卸資産が含まれているので、在庫が2000万円あって、流動比率が良いのかもわかりません。
したがって、当座比率・流動比率が良い場合は、何が良くしているのか確認し、場合によっては売上債権・棚卸資産の中身を確認する必要があります。
4.当座比率・流動比率の経営改善はどうする
経営で大事なのはここからです。当座比率も流動比率もわかった。課題も発見できたとしましょう。ここで終わっていては、経営は良くなりません。改善の打ち手を具体的に考え、実行しなければなりません。経営分析の素晴らしいところは、打ち手の考え方、つまり処方箋がわかることです。
当座比率、改善の処方箋
当座比率を改善するには、計算式から考えればわかるように、当座資産を増やすか、流動負債を減らすかということになります。当座資産を増やすとは、まず現預金を増やすという方向性です。それには売上債権を早期回収する必要があります。早期回収すれば現預金が増えることになり、同時に不良債権も自ずと減っていきます。それが成し得れば、流動負債中の買入債務もそれを原資に減らすことができ、減らすことができれば有利な形で仕入できることになり、仕入単価を引き下げたりできる可能性も高まります。またこのようなサイクルで取引をすると、優良な売上債権を増やせることにもなります。会計の数値はまさに生きており、どこかの数値が変化すれば、それだけが増減するのではなく、いろいろなところに波及効果を及ぼし、会社全体が良くも悪くもなります。
流動負債を減らすには、まず仕入を見直すということがあげられます。あるいは固定費の削減を行い、未払金などを少しでも減らすということも考えられます。そして何よりも短期借入金です。短期借入金を固定負債、つまり長期借入金にリスケすることができないかということです。金融機関の姿勢も変化していたり、公的制度融資もずいぶんあります。こういうものと置き換えることができないかということです。現状はできていないのですから、やりもしないで「そんなこと、できない」と思わないで、まずやってみることが大事です。
流動比率、改善の処方箋
流動比率を改善するには、計算式から考えればわかるように、流動資産を増やすか、流動負債を減らすかということになります。流動負債については同じですので、ここでは流動資産を増やす、あるいは流動資産以上に流動負債を減らすという方向で考えてみましょう。それには棚卸資産を確認する必要があります。倉庫に入り、デッドストックはありませんか。あるいは在庫量そのものが多すぎないか。あるいは種類が多すぎないか。いろいろチェックすることがあります。基本的には在庫を減らす、減らすことによって買入債務をそれ以上減らすとこが基本です。
現実の世界では、もっと具体的な、さまざまな処方箋を浮びあがらせますので、あとは、社長・会社で意思決定することです。どの打ち手を採用し、どう目標を置くか。さらにそれに止まらず、実行しなければなりません。
また、いま熱心に指導する、ごく一部の会計事務所では、課題を指摘し解決に向けた処方箋を積極的に提案し、会社が意思決定されたあと、定点観測までをします。あるいは日常的に金融機関に関与先に対する指導内容を説明し、間接的に関与先企業の信頼度を高める努力を行い、融資に対して積極的に取り組んでいます。そのような会計事務所と顧問契約することも、現実的な大きな解決方法のひとつです。
会社経営は諦めたら、そこでジ.エンドです。かと言って闇雲に走れば野つぼに嵌ります。経営には冷静な判断が必要です。そのツールが会計であり、判断は社長の冷静な意思決定です。
社長さん、毎月、月次試算表をご覧になっていますか?
いかがですか、あなたの会社でも会計を活かすことはできそうでしょ?会計を決算や税金のためだけにするなんて古い、古い。また会計事務所も決算や申告のためでけに活用するなんて、MOTTAINAI!
これからは経営環境は必ず良くなります。ただ以前と違うのは、「みんなで良くなる」のではなく(換言すれば「護送船団方式」の時代は終わったということです)、努力する会社が努力した分だけ良くなるという時代になるということです。会計はその基礎です。ぜひ、会計を経営に活かしましょう。
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