59.耐久力を知る②資金不足額

2010年8月16日

新聞報道によればインプルーブ研究所が指摘してきたように、どうやら下期に向けて、再度、不安定な経済環境が訪れることはほぼ間違いないようです。但し、何回も繰り返して言いますが、我が国においては『経済危機』ということではありません。日本の経済環境は、中長期的には必ず安定した経済成長期を迎えます。ただ、そこに至るまでに、もう一度、世界経済の影響を受け不安定な経済状況になるということ、それと国内事情の成熟社会化、市場縮小化、グローバル化の調整時期とが重なるということです。調整という意味では、政治の混迷とリーダーシップの不在は調整を遅れさせるかも分かりません。

そこで重要なことは、調整後の経済社会は以前のような「『戦後復興型モデル』ではない」ということです。これまでとは違うと認識した会社が、努力しただけ成長するという経済社会が訪れるということです。従って、自然淘汰は激しく進むことになります。

またインプルーブ研究所では、デフレ・デフレと言われていますが、「本当にデフレなのか」という疑問も持っています。確かに物価は下がっています。しかし、これは赤字覚悟の値下げ競争などではなく、グローバル化に伴う、内外価格差の是正ではないかと思っています。つまり、日本の物価や人件費が世界と比べて高すぎることに対する是正ではないのかと思います。企業収益が落ち、給料が減り、購買意欲が減り、さらに価格を下げ、さらに企業収益が落ちるというデフレスパイラル論ですが、そもそも給料以上に物価が下がれば実質所得は増えるわけです。また円高になれば貿易立国日本がダメになるという話もありますが、円高になれば原材料が安くなり、人件費も下がれば売価は下げられます。従って、為替後の販売価格はさほど変わらないのではないのでしょうか。逆に中国をはじめとする新興国は発展するればするほど人件費は高騰し、売価を上げざる得ません。

どうもマスコミの悲観論は、海外の変化要因は考慮せず、海外の状況は固定し、日本の状況だけが悪化するという考え方のうえで成り立たさせているように思うのですが、皆さんは如何思われますか。

話が大きく横道にそれましたが、本題に戻し、これからはこれまでと違う時代が訪れるという認識をした中小・小規模経営者が取るべき経営努力に話を戻します。それは前回に続き、来る調整期に備え、「会計で自社の耐久力」を知り、「問題を改善する」という話です。今回はその2回目、前回で見た結果の「資金不足額をどう補うか」です。

1.会社経営において必要な資金とは
(1) 当面、必要なのは「運転資金」
前回、当座比率・流動比率などを説明しましたが、会社にとって、当面必要なのは販売
活動を継続するための資金、つまり「運転資金」です。
運転資金の求め方はいろいろありますが、一般的には売上げた債権を回収するまでの
資産と仕入れた債務を支払するまでの負債を差引きして求めます。
つまり、要調達運転資金=(売上債権+棚卸資産)-買入債務です。
売上債権とは売掛金と受取手形です。棚卸資産とは在庫です。買入債務とは、買掛金と
支払手形です。一度計算してみてください。
(2) 事例で説明
1.仮に、売掛金が300万円、棚卸が200万円あったとします。
2.すると、この場合、販売活動していくための運転資金として500万円が必要です。
3.この運転資金500万円の一部を買入債務という購買活動の資金源泉が補っていること
になります。
4.仮に買入債務が200万円であれば300万円の運転資金が不足していることになります。
5.この不足分を、「要調達運転資金」といいます。

2.運転資金の不足額をどう補う
上記の事例では、300万円の運転資金を準備する必要があります。
さて、どうやって準備しますか?
(1) 手元の流動性資金で補う
まず考えられることは当たり前ですが、手元にある現金・預金で賄うことが思い浮かび
ます。その手元にある、すぐ換金できる資産を「手元流動性資産」といいます。
具体的には、現金、預金、それに売却してもよい有価証券(株券)を言います。
つまり、手元流動性資産=現金+預金+有価証券です。
(2) それでも足りない場合は資金手当をする
手元流動性資産で足りれば良いですが、足りない場合はどうするのでしょうか?
そうです、資金を工面しなければなりません。そのことを「資金手当」といいます。
一般的には次のような方法で工面します。
1.手元流動性資産を増やす
少額でも処分できる資産は処分します。例えば、株券、クルマ、遊休資産などです。
2.売上債権の回収を早める
取引条件などを見直して、回収期間を短縮する、あるいは前払いなどをお願いする。
3.支払条件を早めた新規取引先を開拓する
「そんなことできたら、もうやっているよ」と考えたら終わりです。ともかく過去に
囚われない、お客様の立場に立って、どう条件付けたら了解していただけるか考えて
実行する。
4.運転資金の借入
これは最後の手段です。金利以上に利益が上げられるか、返済計画の確認など、冷静
な判断が必要です。
(3) 資金手当のポイント
1.過去に囚われない
ともかく、考えたことは何でもトライする精神が重要です。
2.売上債権と棚卸を減らす
売上債権と在庫は必ず減らせます。逆に言えば、減らせないほど完璧な管理をされて
いる会社はありません。
3.資金手当は常に早めに
切羽詰ったら資金手当はますますできません。足元を見られたら交渉は難しいと知る
べきです。

3.これから先、不足しそうな運転資金の額をどう予測する
経営環境は常に変化しています。いま、運転資金に不足はないといっても、永遠にそうであるかどうかはわかりません。そこで運転資金の予想の仕方を説明します。
(1) 事業は拡張・拡大すればするほど、必要資金は増えてくる
そんなこと当たり前と思われますよね。しかし、当事者になって見ると見失うもので
す。商売が繁盛して大喜びな会社、行け行けドンドンの会社が、5~6年も経つと倒産
することが多いのもこのためです。
そこで次のような方法で必要な運転資金を予測します。
運転資金要調達率=運転資金の要調達高÷年間売上高
(2) 事例で説明
要調達運転資金(=売上債権+棚卸資産-買入債務)が300万円、年商6000万円の会社
の場合、運転資金要調達率は300万円÷6000万円となり、5%となります。つまり、100
万円売上高が増えるごとに、運転資金は5万円ずつ増えることになります。
(3) 運転資金の心得
運転資金が苦しくなるのは売上拡大期・営業拡張期の後だと心得ることが大事です。
つまり、地震のあとの津波の如く、地震(売上拡大)が急激に大きければ大きいほど、
津波(運転資金)は大きいと知るべきです。

今回はここまでとします。次回は回収サイトについてご紹介します。
いかがですか、少し会計資料の読み方がお分かりいただけたでしょうか?
簿記・会計は税務署や金融機関に求められるからする事務ではありません。自社の経営状況を把握するためにやる『経営管理業務』です。また、だから毎日、会計処理をする必要があるわけです。そうすれば常に最新の経営状況が掴めることになります。

なお、インプルーブ研究所にお問合わせ(ココカラ)いただければ、簡単に自社の耐久力を診断できるシートをお送りいたします。