77.事業継続計画(BCP)の策定
2011年7月1日
3.11東日本大震災から3ヶ月半が経ち、ますます厳しい経営環境を迎えようとしている。最近報道量がめっきりと減ったが、震災を退けても円高・デフレ・内需縮小、原油高などの課題があり、加えて節電影響や増税議論の高まりとともに生じてくる消費減退、中小企業金融円滑法の期限延長切れなど新たな経営課題が山積である。このような先行き不透明なときにこそ、それぞれ事業の行きべき道を明確にし、実績と計画を照らし合わせながら堅実に歩むことが重要である。
そのようなこともあって、昨今はBCP(事業継続計画)の重要性が説かれている。
BCPとは災害時において事業を継続させる対策という意味で使われているが、中小企業においては災害時だけではなく、まさに文字とおり平時からの「事業継続計画」と捉えるべきだと思う。
そこで今回は簡単な経営計画の策定方法を紹介する。計数は経営の羅針盤、数字は万人共通の言語。社長は数字で社員に語りかけよう。
1.経営計画は3つのことを社長が意思決定すれば策定できる
経営計画を作る手法はいろいろあるが、ここでは最もシンプルな作り方を紹介する。次のたった3つことを社長が意思決定すれば次期計画のフレームは出来上がってしまう。
(1)目標利益
①前年が赤字の場合は、経営計画の目標利益を原則、ゼロとする。
②前年が黒字の場合は、社外流失資金を賄えるだけの金額を目標利益とする。社外流失
資金とは、損益計算書以外で支払う現金のことをいう。次の計算式で求められる。
目標利益=(借入年間返済額+準備金+積立金-減価償却)÷(1-実効税率40%)
(2)予定固定費
予定固定費は原則、前期と同額か又はそれ以下とする。
(3)目標限界利益率
目標限界利益率は、たとえ僅かでも改善した限界利益率を目標設定する。
たったこれだけで経営計画の骨組みができてしまう。例えば、目標利益を銀行借入金年間返済額240万円+積立金120万円-減価償却費100万円=260万円÷60%=433万円(※)、予定固定費を前年の90%とし2,700万円、目標限界利益は2%上げて48.0%であったとしよう。
その場合は次のように経営計画が作られていく。
(※)税引前利益433万円から法人税等173万円(433万円×40%)を引けば、税引後利益は260万円となる。
2.経営計画の策定
(1)目標売上高の算出
目標売上高=(予定固定費+目標利益)÷目標限界利益率
=(2,700万円+433万円)÷(1-40%)=5,221万円
(2)目標変動費の算出 *変動費とは売上原価中の直接原価(商品、材料費、外注加工費など)のこと。
目標変動費=目標売上高-(予定固定費+目標利益)
=5,221万円-(2,700万円+433万円)=2,088万円
(3)目標限界利益の算出
目標限界利益=予定固定費+目標利益
=2,700万円+433万円=3,133万円
以上をまとめると年次経営計画は次のようになる。
目標売上高 5,221万円
目標変動費 2,088万円(40.0%)
目標限界利益 3,133万円(60.0%)
予定固定費 2,700万円 (前年比90.0%)
目標利益 433万円
3.各勘定科目への割振りの仕方
(1)目標売上高の各売上高科目への割振り
目標売上高を原則、昨年の各売上高勘定科目の構成比で按分する。
(2)目標変動費の各変動費科目への割振りの仕方
目標変動費を原則、昨年の各変動費勘定科目の構成比で按分する。
(3)目標固定費の割振りの仕方
目標固定費は原則、昨年の各固定費勘定科目の構成比で按分する。
その上で、人件費科目を中心に再調整する。
4.月別展開の仕方
考え方はいろいろあるが「経営計画は予測することが目的ではなく、管理・統制する
ことが目的」という観点から考えれば、12分の1が一番良い。
これで、勘定科目別に月別展開した経営計画ができました。簡単でしょ?
5.(できれば)経営計画を達成するための方策を考える
最後に無理のない範囲で方策を考える。どうしたら目標の売上高が達成できるのか、変動費はどうやって抑えるか、固定費はどうやって節約するかなど、ストーリーを考える。このストーリーが仮説となる。実績が計画から外れてくるということは、仮説に誤りがあるということになる。従ってこれを是正し、目標達成ができる仮説に修正し、また活動を展開していく。このことをPDCAマネジメントと呼んでいる。
こう考えればどんな規模の事業であってもPDCAマネジメントを実施できることがわかる。
6.計数感覚を磨くポイント6ヵ条
最後に社長の計数感覚、数字に強くなる秘訣を教えよう。
(1)社長は100万・1,000万単位、部課長は10万単位で数字を掴む。
桁取りで人の職位と器がわかる。
(2)決算書は大きな数字だけを下から上へ読む。
B/SもP/Lも主要な数字は5つしない。
(3)分析比率は数字の意味を考える。
「別れの涙を分析すれば、水素と酸素でただの水」では困る。
(4)二つ以上の比率を組み合わせると、分析の自社ノウハウができる。
(5)経営の始末は分析でつけるが、分析結果は次の計画に必ず活かそう。
(6)社内に目標数字を示して実績対比をしよう。
利益責任と成果配分を統合すれば自主管理ができる。