82.資金に強い経営③マクロ検査
2011年7月26日
今回は自社の運転資金の度合いを知る検査値(経営分析指標)について紹介する。
1.売買活動をするために調達している資金額を知る
日常の売買活動に支障が出ないように、売買活動のために調達している運転資金額を知っておく必要がある。その検査値を「運転資金要調達額」という。つまり、売買活動をするために調達している資金額だ。これは次の算式で求める。
運転資金要調達高=(売上債権+棚卸資産)-買入債務
例えば、受取手形が600万円、売掛金が600万円、在庫が300万円、そして支払手形が150万円、買掛金が150万円ある会社であれば、運転資金要調達高=(1200万+300万)-300万=1200万円となる。この会社は売買活動を継続するために1200万円の運転資金を調達していることになる。
どのくらいが適正か、その目安はない。しかし、運転資金要調達高は少なければ少ないほど資金繰りが楽である。例えば小売・飲食業などが比較的資金繰りが楽な業種といえる。つまり日銭が入るからである。
では改善するためにどうすれば良いのか。まず算式から対処の方向性を考える。算式から考えれば(売上債権+棚卸資産)を減らすか、買入債務を増やすかということである。これを自社に当てはめて考えれば良いことになる。例えば、売掛金の回収をしっかりする、在庫を減らす、支払を延ばすということになる。これを具体的な行動レベルにまで落とし込んで実行することになる。そして成果を月次試算表で確認することになる。会計事務所によってはここまで指導してくれる会計事務所もある。いまや決算・申告書のためだけの会計事務所なんて過去の遺物だ。もし、貴社の会計事務所がそうであれば即刻変えた方が懸命である。同じ報酬でここまでやってくれる会計事務所はたくさんある。
2.売上が増えたらどのくらいの運転資金増額が必要になるかを知る
次に押さえなくてはならないのは、売上が増えた場合、どのくらいの運転資金増額が必要になるのか知ることだ。「こんな時代そんな心配は要らない!」と思われるかも知れないが、多くの企業がその落とし穴に嵌っているのも事実だ。いわゆる新規出店した場合だ。新規出店する場合は設備投資のために借入した返済だけを気にする場合が多く、成功すればそれも問題なく返済できると思っている経営者が多い。新規出店すると設備資金はもちろん返済しなければならないが、売上が増えれば増えただけ実は運転資金も準備しなければならない。それがこの検査値だ。それを「運転資金要調達率」と呼ぶ。算式は次のとおりである。
運転資金要調達率=運転資金要調達高÷年商
先ほどの例で年商が7200万円だったとすれば、運転資金要調達額は1200万円だったので、16.7%となる。つまり、この会社は売上100万円増えれば、167千円の運転資金が増えるということになる。このような会社が2000万円の資金調達をして新規出店した場合、仮に年間6000万円の売上を目標にするのであれば、借入金の返済のほかに、1000万円ほどの運転資金も調達しなければならないことになる。このような状況で開店当初の2~3ヶ月だけ勢いだけでは当然資金繰りは苦しくなることは予想できる。でも実にこのような失敗をする経営者は多い。
ではこの運転資金要調達率はどのくらいが適正なのか。これも低ければ低いほど良いということになる。しかし高くとも15%以下には抑えたいところだ。もし20%もあればちょっと高すぎる。一般的に急成長している企業ほど高くなる。したがって自転車操業の色彩が強くなる。一方、低い企業は資金繰りが楽だといえるが、しかし売上が急激に下がると途端に資金繰りは行き詰まる。いずれにせよマネジメントはしなくてはならないということだ。
この改善方法は運転資金要調達高の改善と同じである。
3.手元資金はどのくらいあるのかを知る
手元資金とは手元流動性ともいい、現金・預金と考えてよい。これがどれくらいあるかって、すぐわかるだろうと思われると思う。確かに自社に現預金がいくらあるかはすぐわかるだろう。しかし肝心なことは会社の収入が全くない場合、どれくらいもつのかを知ることである。家計でいえば、もし生活費が入らなくなっても何ヶ月ぐらい貯金を取崩して生活できるかということである。その検査値を「手元流動性比率」と呼ぶ。会社の生活費は毎月の売上高だ。だから次の式で求める。
手元流動性比率=手元流動性÷平均月商
これで現預金が平均月商の何ヵ月分ぐらいあるか分かる。例えば現預金が1200万円あり、平均月商が600万であれば、手元流動性比率は2ヶ月となる。ということは、この会社は2ヶ月程度全く売上がなくとも、なんとかやり繰りできるということだ。上場企業でいえばファナックや任天堂などは1年以上の手元流動性がある。リーマンショック以後、さらに東日本大震災もあったので、大企業は手元流動性を高める経営をしている。大企業以上に弱い中小企業こそ手元流動性を高める経営を志向しなければならない。「そんな無理だよ」という甘えはビジネスに許されない。
ではどのくらいあれば良いのか。これも一概に言えないが、中小企業という立場から考えれば3ヶ月程度は必要というのが理想であろう。しかし現実は1ヶ月分も満たないというのが現状である。だからこそ、がんばって改善しなければならない。
では、どうすれば改善できるのか。現預金を増やすのだから、やはり売掛金をきっちり回収することが第一である。さらにそれを推し進めて現金売上割合を増やすことである。「現金売上を増やす?」って思わないで努力はすべきである。例えば手付金として一部、現金でいただくとか、取引条件を組み合わせて現金売上とするとか、現金売上割合をいまより増やす方法はいくらでもあるはずだ。ぜひ、考えて欲しい。次に在庫を減らすことである。在庫を減らせば仕入が減り、仕入が減れば支払いが減り、現預金が残るということである。さらに経費を削減する。削減すればしただけ現預金は増える。
次回も自社の運転資金の度合いを知る検査値(経営分析指標)の後半を紹介する。