83.資金に強い経営④ミクロ検査
2011年7月28日
前回は自社の運転資金の状況を知る検査値について
1.運転資金要調達高
2.運転資金要調達率
3.手元流動性比率
の3点を紹介した。今回はその続きを紹介する。この3つの検査値は少しマクロ的であったが、これから紹介する検査値はミクロ的な検査値といえる。
4.売上債権は何日後の回収しているのか
多くの経営者に「御社の売上債権は何日後に回収されているのですか」と聞くと、「うちは30日です」とか「平均45日程度です」と答えられる。しかしほとんどの会社がそれより長い回収期間となっている。これは現場-管理部門-経営部門の齟齬を示している。実態は現場はあまり回収に注意しておらず、管理部門は少々遅れても今月回収されるだろうと惰性的であり、経営部門には報告がなされていないか、あるいは書類で報告はされているものの口頭では報告されていない。これが多くの中小企業の実態だ。やがて一つ一つの塵が「回収不能債権」に育っていくことになる。
そうならないためにも回収管理はしっかり行い(一般的には惰性的)、期日遅れの債権に対してはすぐ対応を着手し(一般的に放置されっぱなし)、回収に努めることです(一般的には得意先任せ)。この全体的な回収状況を把握するための検査値が「売上債権回収期間(日数)」です。算式は次のとおりです。
売上債権回転期間=(受取手形+売掛金)÷平均日商
=(売掛金÷平均日商)+(受取手形÷平均日商)
例えば、当社は売掛金は翌月回収、受取手形も翌月回収であり、手形回収が全体の50%だというのであれば、売上100のうち、50は30日後に、残り50は60日後に回収されることになる。すると売上債権回転日数は理論上45日となる。これが意外とそうなっていないのが現実だ。理由は部門間の齟齬であり、他人任せの姿勢にある。
ではこの売上債権回転期間はどのくらいが適正なのか。やはり短ければ短いほど良いということになるが、下請でなければ60日間程度が限度である。40日を超えたあたりから注意信号が点滅しだしていると考えてよい。
この改善方法はともかく期日内に回収することである。期日内に回収するためにはさまざまな行動レベルの具体策がある。それでも回収期間が長いのであれば約定期日を短縮化する必要がある。約定期日と書いたが、具体的には一部手付金・着手金をお願いするとか、上代を変更して現金売上に変更するなどである。また受取手形はいま以上、受付けないことも大切である。あるいはいまの手形取引を止めていくことも大事だ。
ここで現実的な売上債権回転期間短縮の効果を紹介する。それは売上債権回転期間の短縮ばかりでなく、できた企業の多くは「売上高も増える」ということである。不思議に思われるかも知れないが、これが事実なのです。何故そうなるかといえば、自社の都合だけでは債権回収期間の短縮はできないからです。期間短縮はお得意先様の協力・了解があって、初めて実現できるのです。得意先の協力・了解を得るためには、自社に対する信頼・期待がないと得られません。また社内へ目を向けると、回収期間短縮は一部の人の努力ではなく、全体の協力があって初めてできるものです。この全員による協力が、接客態度や電話応対、さらには営業活動に表われます。これらがシナジー効果として売上高を上げて行くことになります。
5.在庫は何日分抱えているのか
放漫在庫は資金繰りの厳しい企業と赤字企業の共通点である。放漫在庫は現金を投げ出しているばかりでなく、保管料とか運転資金借入金利などの「在庫金利」と云えるものをつけ加えて投げ出しているのである。さらには気づかない間に社内消費をしてしまっていたり、いつの間にかロスが発生している。
そのようにないためにも在庫管理をしっかり行うことが重要である。その全体的な在庫状況を把握するための検査値が「棚卸資産回収期間(日数)」です。算式は次のとおりです。
棚卸資産回転期間=棚卸資産÷平均日商
例えば、年商7200万円の場合、平均月商は600万円、平均日商は20万円になる。棚卸資産が300万円であれば、15日分の売上に相当する在庫を抱えていることになる。これが棚卸資産回転期間である。
ではこの棚卸資産回転期間はどのくらいが適正なのか。やはり短ければ短いほど良いということになるが、されど在庫切れを起こしてビジネスチャンスを逸するようでは元もこうもない。したがって15日程度が一般的な目標となる。1ヶ月分の30日もあるようであれば要注意と考えなくはならない。
この改善方法は3つに分けて考えれる。仕入の改善、保管の改善、処分の改善である。仕入の改善とは1回の数量を減らして回数を増やすことと、仕入品目の見直し絞り込むことである。仕入品目を見直し絞り込むためには「自社の主たるお客様、本当のお客様」を考えなくてはならない。それを中心として仕入品目を見直し絞り込む必要がある。本当のお客様を考える方法は色々いわれているが、お勧めしたいことは「ともかく一度自社の本当のお客様を考えてみる」ことです。いままであらためてそんなことを考えたことがない企業が多いと思われるが、考えてみること自体に意味がある。あまりむずかしく考えないで、まずはじっくり考えてみよう。このような仕入の考え方が一般的には「かんばん方式」とか「Just in time」と言われる。次に保管の改善です。王道は毎月一度は実地棚卸を実施し、品目ごとに有り高を確認することだが、ここでもまずお勧めしたいことが「整理整頓」である。これだけでロスや不良在庫の80%程度は防げる。最後に処分の改善である。これは商機を逃さす素早く処分をするということである。できれはその売価は真性出血にはならずぎりぎり擬似出血を目指したいものだ。そのためにもタイムリーさが重要となる。
6.支払は何日後に行っているのか
仕入の支払を期限通りに行うことは会社の信用に繋がる。支払は延ばせる限り延ばすという考え方もあろうが、それはあまりにも自分勝手であり、取引先からは信用されない。ただ大事なことは回収と支払のバランスである。回収が90日なのに、支払が20日であれば、多大な運転資金が必要となる。
そのためにも支払管理をしっかり行うことが重要となる。その全体的な支払状況を管理するための検査値が「支払基準買入債務回収期間(日数)」です。算式は次のとおりです。
支払基準買入債務回転期間=(支払手形+買掛金)÷1日当たりの売上原価
=(買掛金÷平均売上原価/日)+(支払手形÷平均売上原価/日)
例えば、支払手形150万円、買掛金150万円ある場合で原価率が50%とすれば、平均日商20万円だから1日当たりの売上原価は10万円となり、支払基準買入債務回転期間は15日となります。つまり、約1ヵ月後仕入代金を支払っていることになる。
ではこの支払基準買入債務回転期間はどのくらいが適正なのか。長ければ長いほど良いわけ(極論すれば永久になればタダになってしまう?)だが、そうも行かない。先ほども述べたように売上債権回転期間とのバランスだ。できれば売上債権回転期間と同程度にはしたい。優良中小企業といわれる企業はほぼ同程度となっている。しかしそうでない企業は売上債権回転期間より支払基準買入債務回転期間が長い。これはどういうことを暗示しているのだろうか。
この改善方法は期間を長くするというより、買入債務自体を少なくすることが大事だ。つまり、無駄な仕入をしないことだ。そして期日とおり支払うこと。これが自社の信用となり、あるときには協力を受けられることにも繋がるかもしれない。そこでよくやる失敗は期日前に支払うことだ。これを続けているといつのまにかこれが実質の支払期日化してしまい、場合によっては仕入先からこれを資金繰りの当てにされてしまい迷惑をかけることにもなりかねない。また支払を期日どおりにもどすと「どうかしたのか?」と在らぬ勘繰りを受けることにもなりかねない。最後に支払手形の利用は止めるということだ。確かに支払手形は資金繰りを楽にさせる面はある。しかしそれは一時の効果で、慢性化してしまうとその効力は消えてしまう。そればかりか決済できないことで倒産に至ることになる。手形を使っていなければ、支払を待っていただくだけで済んだのにだ。
以上が運転資金に関するミクロ的な検査値です。。