86.貸借対照表のカンタンな見方

2012年3月9日

前回の「BSの意味」では次のような説明をしました。
BSとは会社の財政状況を表すと言われますが、具体的には事業に要しているお金の出所とそのお金で購入している物を表しています。これを図示すると以下のようになります。

左側:購入した物(総資産)        右側:お金の出所(総資本)
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1年以内に資金化できる  流動資産   他人資本 1年以内に返済する  流動負債
1年を超えて資金化できる 固定資産        1年を超えて返済する 固定負債
開業時に生じる      繰延資産   自己資本 自社で準備した資金  純資産

調達している総資本にそれぞれ返済期間があれば、当然のことながら使い方のルールがあります。それは前回の「BSのルール」で説明したとおりですが、その見方・検査の仕方があります。それを今回ご紹介します。検査の仕方は次のとおりです。

1.1年以内に返済する『流動負債』はすぐに資金化できる『当座資産』で運用する
流動負債とは支払手形・買掛金や未払費用です。これらは翌月から2・3ヶ月後には債務を支払わねばなりません。したがって流動負債の運用はすぐ資金化できる物で運用しておくことが望ましいと言えます。すぐ資金化できるモノを流動資産の中でも特に『当座資産』と言います。具体的には現金・預金と受取手形・売掛金などの債権を言います。したがって流動負債より当座資産の方が多ければ、いつでも流動負債は返済できますので安心です。
この検査値には『当座比率』という名前が付けられています。当座比率は大きければ大きいほど安心な検査値です。100%超を目指したい検査値です。
当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債
しかしいくら当座比率が大きくても、受取手形や売掛金に不良債権があれば実態は違ってきます。したがって、受取手形や売掛金の内容を確認する必要があります。倒産・廃業された得意先の債権はありませんか?2~3年も放置されている債権はありませんか?債権は2・3年も経つと請求権は時効となってしまいます。

2.1年以内に返済する『流動負債』はせめて1年以内に資金化できる『流動資産』で運用する
次に当座比率をもう少し大きく捉えて検査する方法です。
検査値名は『流動比率』といいます。これは当座資産と流動負債を比べるのではなく、流動資産と流動負債を比べます。『流動資産』には当座資産に加えて棚卸資産(在庫)や立替や仮払などを加えたものです。
流動比率も大きければ大きいほど安心な検査値です。200%超は目指した検査値です。
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債
但し、流動比率も当座比率と同様、落とし穴があります。棚卸資産はしっかりと把握されていますか?棚卸資産が過大に計上されていませんか?もし過大であればそれを差引して検査する必要があります。

3.1年を超えて資金化できる『固定資産』は『自己資本(純資産)』で購入する
『固定資産』とは土地、建物、設備、車両などです。当然のことながら、これらを購入するには多額の資金が必要になります。その資金の出所は『自己資本(純資産)』が理想的です。家計で言えば、自宅を新築するのに住宅ローンを利用しないで自己資金だけで建てるようなイメージです。
この検査値には『固定比率』という名前が付けられています。固定比率はこれまでの検査値値とは逆に、小さければ小さいほど良い検査値です。少なくとも150%以下を目指したいものです。
固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本(純資産)

4.固定資産購入で自己資本で足らない分は『固定負債』で補う
固定資産を購入する場合、自己資本だけでは足りないことは普通です。だから不足分を設備資金として銀行から長期借入金を借ります。これはその考え方で検査します。
検査値名は『固定長期適合率』(ちょっと難しい)といいます。これは「固定資産を長期的に適合させて購入する」という意味です。したがって、固定資産と自己資本に固定負債を加えて検査します。固定長期適合率も小さければ小さいほど良い検査値です。これは必ず100%以下にならなくてはいけません。できれば50%程度を目指したいものです。
固定長期適合率 = 固定資産 ÷ (自己資本+固定負債)

5.事業で要している資金・総資本はなるべく自己資本で賄う
仮に総資本または総資産が1億円であったとします。そのうち、いくらを自己資本で賄っているのかという見方です。安心した事業を営むという観点からは、無借金で経営できれば一番良いと言えます。しかし、積極的に事業展開をしたい場合はそれなりに資金を借り入れして大きく事業をする必要があります。一番いけないことは積極的に事業を展開したいわけではないのに、資金が足りないからという理由だけで借入をする経営です。そんな経営は借入金返済と金利返済に追われ、いつしか無理が表出してきます。
この検査値には『自己資本比率』とそのままの名前が付けられているのでわかり易いですよね。これは大きいければ大きいほど良い検査値です。多くの中小企業は10%程度ですが、それをマネジメントして50%超にはしたいですね。
自己資本比率= 自己資本(純資産+役員借入金) ÷ 総資本(総資産)
なお、中小企業の場合は固定負債の中に役員借入金があれば、それも自己資本に含めて計算します。実態的には役員借入金も自己資本と同様だからです。

6.経営環境の変化が激しい現代はなるべく現預金を多く保有する
最後は現預金です。現預金とは調達した資金で運用している資産の残りといえます。この現預金が多いほど、不測の資金需要のときにも対応できることになります。昨年の震災のときのように、何ヶ月も経営ができなくなってしまった、あるいは工場を修繕しなければならない。そんなとき、豊富な現預金があれば対処できます。またリーマンショックのときのように、突然売上が減ってしまった。そんなときにも対処できます。
検査値名は『手元流動性比率』といいます。これは手元にある流動資産、つまり現金・預金を『平均月商』と比べる検査です。現預金が何ヵ月分の売上に相当する量があるのか。売上高とは企業にとって、「生活費」とも言い換えられます。会社は売上を原資に毎月の仕入代金や給料・経費を支払っています。したがって手元流動性比率は大きければ大きいほど安心な検査値です。2ヶ月超は目指した検査値です。
手元流動性比率 = (現金+預金) ÷ 平均月商

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