206.覚えなくとも読める財表-9

2015年1月31日

第8回 覚えなくとも読める財務諸表 -借入金の読み方-

借入金には会計上、3種類ということをご存知でしょうか。特に、銀行借入れをしている会社の場合には、必ず3種類あると思われます。
そうでない場合には「読むに相応しくない財務諸表を作成している」といえるかもわかりませんので、まずこのことを確認しておいてください。

3種類の借入金とは次の通りです。
(1) 短期借入金
短期借入金とは、1年以内全額返済する銀行借入金のことです。たとえば、賞与を支給するためなどに一時的に借り入れた銀行借入などです。その場合は2~3ヶ月で返済しますから、短期借入金といいます。
(2) 長期借入金
次に長期借入金とは、1年以上に渡って返済する銀行借入金のことです。たとえば、設備などを購入するために借り入れた銀行借入は3年、5年と長きに渡って返済していくので長期借入金といいます。
(3) 1年以内返済長期借入金
問題が3つめである『1年以内返済長期借入金』です。これは「長期借入金の中の1年以内に返済する部分」という意味です。ですから、長期借入金がある場合は必ず1年以内返済長期借入金があるはずです。もし長期借入金があって、1年以内返済長期借入金がないような財務諸表が作成されている場合は顧問をしている会計事務所の怠慢です。これは自社の財務諸表を正しく読むために区分するようになった比較的新しい会計ルールです。一般的に、決算のことだけを考えて月々の会計指導をしている会計事務所が多いので、区分していない場合がままあります。
そんな財務諸表では正しく月次の経営状況を読めなくなりますので、厳しく会計事務所に要求するべきだと思います。

 

では、そんな借入金をどのように見ればよいのでしょうか。ヒントは「日常の家計の見方にある」でしたね。家庭にローンがあったら、それをどのように見ていますか? 一緒に考えましょう・・。

 

1.平均月商と比べてみる

借入金と月商を比べてみるとは、ローンと給料を比べてみることと同じことです。
「まだローンが給料の2ヶ月分も残っている」などと思われたことはありませんか。借入金もそれと同じ感覚で見る方法が「平均月商と比べる」という方法です。
では、どの程度、残っていても良いのでしょうか。一概には言えませんが、金融機関の目で見れば「月商3ヶ月分以内」といわれています。平均月商が500万円であれば、1,500万円程度ということです。
その根拠は統計的に会社の10年以上先のことはわからないので、金融機関は最長でも返済期間は10年間と考えています。それに対して毎月のモデル売上高利益率は5%と考えており、そのうち返済原資は半分の2.5%と考えています。すると、1年間の返済額は売上高の30%(=2.5%×12ヶ月)、掛ける10年間で300%となります。
つまり、平均月商の3ヶ月分と計算しているわけです。
これはあくまでも金融機関の目線です。経営の目線で考えれば、ふつう多くとも年商分程度でしょうか。これも各会社の売上伸び率などにより多少変化するのでしょうが、しかし年商以上の銀行借入をする場合には、より入念な返済計画を立てる必要があります。

経営分析ではこのことを『借入金対月商倍率』と呼んだりしています。

 

2.返済能力と比べてみる

返済能力とは「借金を返す経済力」です。
家計であれば「収入の10%程度あればなんとか返済できるけれど、20%となればチョッと厳しい」とか思いますよね。その感覚です。
それをどうやって測るのかといえば、借入金額と償却前営業利益と比べて返済期間を計算します。償却前営業利益とは、(言葉は難しいですが何てこともない)年間の営業利益に減価償却費を加えた金額ということです。たとえば、借入金が1,500万円、年間営業利益が200万円、それに年間減価償却費が100万円であれば、償却前営業利益は300万円となりますので、借入返済期間は5年間と計算されます。
では、どの程度の期間であれば良いのかといえば、金融機関の判断としては最大10年間といわれています。
その理由は先にもいったように会社の10年以上先のことはわからないので、最長でも10年間で回収するという判断です。ですから決して、「10年間以内だから良い」ということではありません。経営的には最長でも5年間程度にはしたいところです。

経営分析ではこのことを『債務償還年数』という言葉で呼んでいます。

 

3.預金と比べてみる

最後は預金と比べるということです。
家計でも「100万円ローンがあるけれど、預金が150万円あるから万が一の場合でも返せるから安心だ」と思いますよね。その感覚です。
どの程度あれば良いかは、借りて使った直後としばらく経ったあとなど、その状況で違いますので、一概に言えません。しかし、それでも借入金額に対して最低20~30%程度の預金残高は欲しいところです。

経営分析ではこのことを『預金対借入金比率』と呼んでいます。

 

 

いかがですか、このように考えると経営も意外と科学的にあるいは論理的にできると思いませんか。どの程度の範疇で経営するかは人間も同じ人間はいないように、会社も同じ会社はありません。だから、まさしく経営者の手腕です。だからこそ、会計で経営を管理すると安定した会社経営ができるのです。