222.経営技術「戦略サファリ」
2015年7月5日
■戦略サファリ -あとづけでない成功の真因を探る-
戦略サファリ(Strategy Safari)とは、1998年、ヘンリー・ミンツバーグ、ブルース・アルストランド、ジョセフ・ランペル3名の経営学者による著作です。ヘンリー・ミンツバーグらは経営学を10のスクールにまとめ、サファリ(旅)にして見せました。
その要諦は次の4点にまとめられます。
1.まず始めに「声を聞く」 ここに成功の要諦はある
ミンツバーグらは、実践への応用を重視し、戦略とは実践を通じて徐々に出来上がってくるものであるといっています。
つまり、戦略とは事前に計画されるものではなく、実際にビジネスを進めて顧客の反応を知り、現場の声を聞き、試行錯誤のうえに湧き上がってくるものであると主張し、3つの事例を挙げています。
事例1:グーグル
創業者であるサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジは、当初、検索アルゴリズムを他のインターネット・ポータルに売ることで収益化しようと考えていましたが、この仕組みで儲からないとわかると、オーバーチュアの手法(広告とページランクシステムの仕組み)を取り入れ、一気に収益化に成功しました。現在の収益モデルはそもそも計画されたものではなかったのです。
事例2:アップル
スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックはコンピュータ技術とデザインは当初から重視していましたが、あくまでもコンピュータは専門家が使うものだと考えていました。しかし、あとで加わったマイク・マークラが一般の家庭で使ってもらうようにしようと主張し、方向転換しました。
事例3:ウォルマート
世界最大の小売企業ですが、リテールリンクやEDIの巨大なITシステム導入を決断したのは創業者のサム・ウォルトンではなく二代目CEOデビット・グラスでした。
→このように成功している多くの企業は、決して創業者が現在のビジネスモデルを考えたわけではなく、マーケットやパートナーの声に耳を傾け、現在のビジネスモデルを構築しています。
2.企業は「二兎を追える」 経営戦略の常識を疑う
競争の戦略(コストリーダーシップ、差別化、集中)、PPM(金のなる木、花形、問題児、負け犬)を批判し、例えば、ベネトンはファッション性が高く(差別化、かつ低コストも実現している。
事例:サムスン
半導体分野でコストリーダーシップと差別化を図り、東芝・NEC・日立の市場を奪いました。
→成功している企業は、ビジョナリー理論でも紹介しましたように、二者択一・ORの抑圧をはねのけ、ANDの才能によって両極にあるものを同時に追求しています。
3.とりあえず「行動してみる」 学習と試行錯誤が強みを創る
ラーニングスクールを支持。戦略は、まず行動を起こして、その学習・試行錯誤を通じて形成されるものである。
事例:ホンダ
ボストンコンサルティンググループは、ホンダを「日本国内で大量生産を行ってスケールメリットを実現したうえで、コストリーダーシップ戦略を追求し米中産階級に低価格の小型オートバイという新しい市場セグメントを提供した」と分析していますが、実はホンダには「アメリカで売れるかどうか、やってみよう」という考えしかなかったということです。
→成功している多くの企業は、考えることも大切なのですが、それよりも「まずやってみる」という行動指針を重要視しています。
4.企業に「思考停止は許されない」 多様性のある文化を創る
戦略マネジメントにおいて大きな失敗が起きるのは、マネージャがひとつの見解をまじめに捉えすぎてしまったときである。
事例:ウォルマート
ウォルマートは節約重視から大規模ITシステム投資へ転換しました。
→成功をし続ける企業は、それまでの慣習をただ踏襲し続けるのではなく、企業理念を踏まえてときには大きな方向転換をしています。ビジョナリー理論でいうところのBHAGです。
戦略サファリとビジョナリーカンパニーには多くの共通点があることを気づかされます。また高尚な思考よりまず現場の声、市場の声をよく聞き、そしてこれだと思ったことをやってみる。これを繰り返すことが大事で、その中にそれそれの企業にとって大事なことが見つかってくる、何か勇気が湧いてくる感じがするのですが、如何ですか。
私たちが忘れてはいけないことを示唆してくれているような気もするのですが‥。