226.経営技術「B/Sマネジメント」
2015年8月20日
■B/S(貸借対照表)マネジメント -会社状況を事前察知する経営-
B/Sは多くの会計資料の中で、もっとも基本的な資料です。
しかし多くの経営者からは「損益計算書(P/L)」と比べると、見られていることが少ない会計資料でもある。
その理由の多くは「見てもあまりよくわからない」ということが挙げられる。
P/Lは、その会計期間の売上高・売上原価・粗利益・経費・営業利益・金利等・経常利益と、その1期間の業績状況だけを表しているに過ぎず(だからわかり易い)、B/Sは会社を始めて以来の自社の経営状況を表している。
そう考えればより重要な会計資料はB/Sであることは明白だが、先ほど申し上げたとおり、そのわかりにくさからか、多くの経営者からまともに読んでもらえないのが実状だ。
そこで今回は『経営技術』を磨くための、いくつかのB/Sのポイントを解説する。
B/Sを知れば必ず経営を強くできる。なぜなら、事前に危険を察知し、回避することができるからである。
B/Sを見ない・読まない経営とは、健康診断を受けても健康診断書を見ない生活と同じだ。
放置するといずれ大病を患うことになるかもしれない。 ぜひ、B/Sで経営技術を磨こう。
1.常に現金・預金の余裕を確認する
B/Sで必ず読むべき項目のひとつは『現金・預金』だ。ただし、残高を見るだけでは意味はなく、読む必要がある。
(1)現預金が減り気味ではないか
現預金は本来、順調に経営して行けてれば必ず増えていくものである。まずそのことを理解してほしい。
したがって、期首と比べてあるいは前年等と比べて減ってきているようであれば“アラーム”が鳴っていると理解できる。
減少状況によってアラームの音の大きさは違うが、必ずその原因を掴み、対策を講じる必要がある。
(2)現預金の残高は月商と比べてどうか
現預金は残高の多寡を確認するのではなく、月商と比べて確認する。
もし月商程度の現預金しかないのであれば、給料や月末の支払は大丈夫かなと疑問符が付けられる。
常に月商の2~3ヶ月分以上はある経営を心がけねばならない。
(3)借入金と比べてどうか
短期借入金も長期借入金もその返済は預金からする。売上からではない。
だから借入金返済はP/Lには表示はされず、B/Sの預金の減少と借入金の減少として表示される。
預金と借入金のバランスを見ることが大事だ。
2.売上債権を確認する
現預金の大もとは売上だが、直前のもとは売上債権だ。これは減りすぎても増えすぎても、共に問題を現している。
売上債権にはそれぞれの企業に応じた適正額というものがある。それが各企業で定めている回収サイトだ。
1ヵ月後に支払ってもらうことにしているのであれば売上債権は月商1ヵ月分程度の筈になるし、2ヵ月後であれば月商2ヶ月分程度の筈になる。
それ以上の売上債権があれば未回収債権があることを示し、それ以下であれば不正経理等の可能性も考えられる。
3.棚卸資産を確認する
棚卸資産は支障が出ない限り、少なければ少なければ少ないほど良い資産だ。持ち過ぎは不良在庫の原因になったり、置き場所にも困る。また不正の要因にもなるので、在庫を多くして良いことは原則的には一つもない。
この棚卸資産も常に月商と比べて、その適量を管理する。また1年に1回、1月に1回ではなく、できることであれば毎週実地棚卸をすることが大事だ。
4.資産増加を確認する
資産が増えれば増えるほど会社が大きくなったと思い、喜ぶ経営者が多くいる。しかしそれはまったくの思い違いだ。
現預金が増えて総資産が大きくなっていればともかく、固定資産や他の資産が増えているだけの場合は大きな問題かもしれない。
なぜなら、それらの資産を持つために、それだけ事業資金を使っているからだ。これが借入金依存症に陥る大きな原因になる。
そうならないためにも、定期的に売上高や利益と比較し、その有用性を確認することが大切だ。
回転率や利益率が向上していたり同じあればその資産増は適切だ判断できるが、もしそうでないならばシェイプアップが必要だ。
5.運転資金を確認する
運転資金とは売買活動に必要な資金を指す。具体的には売買活動に使っている資金のことであり、売上債権と棚卸資産と買入債務の差額が必要な運転資金を表す。これが増加傾向ではないかどうか確認することは大切だ。
6.借入金を確認する
(1)借入金が多くないか
過大な借入金に苦しんでいる中小企業は多いが、借入金の多寡は月商と比べてチェックできる。
製造業であれば月商の6ヶ月分まで、その他であれば月商の3ヶ月分までに抑えたい。これは根拠のない基準ではなく、だいだい返済原資を売上高の5%として見積もった基準だ。
したがって現在は、経常利益率5%を確保できている中小企業は少ないので、もっと低く抑えなくてはならない。
(2)借入金の減少と預金の減少を比べる
借入金返済が順調で、借入金が減っていても、同時に現預金も減っていないか確認する。借入金が減っていて、かつ現預金も減っていれば、それは手持ち現預金を取り崩して返済しているだけであって、本来の「借入金は利益から返済する」ということができていないことになる。言い換えれば、借換え体質になっているということだ。
借入金の中でも長期借入金は「利益から返済する(収益弁済)が基本」であることを覚えておきたい。
7.純資産を確認する
純資産こそが、これまでの『事業履歴書』だ。事業は自己資本である資本金でスタートするわけだが、純資産がそれ以上増えていれば、それが成功の大きさを表す。もし純資産が資本金より少なくなっているのであれば、いまのやり方ではビジネスモデルに問題があることを表す。さらにマイナスであれば『債務超過』といい、他人資本である負債の分すらの資産もないということなので、これまでのことは全否定して事業を組み立て直さなければならない。
8.決算書あるいは月次試算表の全体像
B/Sなり、P/Lを読みこなすためには、決算書全体の全体像を理解する必要がある。
決算書あるいは月次試算表は次のような『お金の循環』を表している。
①お金を集める(負債・純資産) →②投資する(資産) →③投資を活かして収益を上げる(売上)
→④費用を使って稼ぐ(利益) →⑤税金を支払って貯める(繰越利益剰余金) →これが次期の①になる
B/Sを見ない、読めないは「どんぶり経営」と同じ
最後に、会計事務所に依頼して、又は自社で月次決算を行って月次試算表を作成されている会社は数多くある。
それだけで、その経営者は「当社はどんぶり経営ではない」と思っている‥。
だが作成しているだけで、その作成書類を見たり読んだりしていなければ、それは『どんぶり経営』と同じである。
よく認識していただきたい。
月次試算表を“読む”経営をしていなければ、海図があっても海図の見方がわからず、目の前の景色や地形だけを頼りに航行している航海と同じです。海面の下に何があるのか、天候がこれからどう変化するのか、わからずに航海している船を想像して欲しい。
乗船している船員や乗客は船長のそんな状況も知らないうちは騒がないが、その事実を知れば船員・乗客は大騒ぎして一刻も早く下船するでしょう。恐らくあなた自身もそうされると思います。
だから、船長である経営者はB/Sを読めずして経営をしてはならないのです。 ひと月に一度は自社のB/Sを確認しましょう。