280.中小企業の経営承継⑤

2016年10月8日

Ⅴ 中小企業「財務改善」の具体策

前回は、経営承継できる企業体とするためには優良企業から学び、

 ①少なくとも自己資本を高め、

 ②固定資産と棚卸資産の運用を減らし、

 ③原価を抑え、経費を削減し、

 ④適切な納税をして、繰越利益を貯めなければならない

ことを指摘した。 今回はそのための、具体的な処方箋を考えてみよう。

 

1.棚卸資産を減らすには・・

棚卸資産を適正にするためには「実地棚卸」をすることが有効だ。

それも、決算のための期末実地棚卸だけではなく、最低でも毎月末に実地棚卸をすることが大切だ

さらにもっと、できれば毎週末するぐらいが望ましい。そうすることで、過剰在庫や不良在庫を減らすことができる。

過剰在庫や不良在庫が減る、ということは売上原価率が下がるということであり、商品仕入や材料仕入が減り、

手元資金を少しでも増やすことにつながることになる。

できれば、(業種にもよるが)「棚卸資産回転期間は14日以下」にはしたいものだ。

 

2.固定資産を適正にする・・

すでに過剰にあるものは不要なものを処分するしかない。 処分すれば、いくらかの手元資金が増えることとにもなる。

大切なことは、今後は必要以上に設備投資をしないことである。 では、どうすればよいのか?

それは新たな設備投資をする場合には、かならず「設備投資採算を検討する」ことだ。

新しい設備を導入する目的は、収益を増やすためである。 このことを常に自覚することが大事だ。

決して、補助金が出るからとかの理由であってはいけない。

設備投資はその増設で収益を増やし、利益を稼ぎ、その利益から設備投資借入金の返済をし、かつ利益が残らなければならない。

それができないようであれば、新しい設備投資は見送るべきだ。

そういう習慣が社内につけば、過剰な設備投資や固定資産にはならない。

また設備ではないが、人材採用も同様である。

 

3.収益構造の改善・・

収益構造改善の原理原則は、売上高に頼るのではなく、売上が現状と同じでも、いまより利益を高めることである

そうすることで、そこに売上が増えれば、さらに大きな収益改善ができる体質になっている。

そのためには、売上原価の抑制と経費の削減が、まず重要となる。

売上原価である仕入・材料についてはすでに述べたとおり、実地棚卸を実施して不要な在庫をしないことで抑える。

あとは外注費と製造経費だ。

外注費は内製化ができないかではなく、内製化するためにはどうすればよいのかという方向で考えてみることだ。

「できないか」の発想には、すでに「できない」の前提がある。

そうではなく、するにはどうするか!という発想で考えることが重要だ。

製造経費については販管費の経費と同様に、削減金額目標を持って、削減金額に達するまで経費を削ることだ。

そしてどうしても、売上原価の抑制と経費の削減だけでは目標利益に達せない場合は、その分だけ増収が必要になることになる。

 

4.経営計画(予算)を作る・・

最後にそれらのことを経営計画書に落とし込み、周知徹底することである。

周知徹底するためには、形式にこだわることなく「経営計画発表会」を開催し、全員に説明することが大事だ。

さらに大事なことは作成した経営計画を活かすことである

つまり、経営計画達成の方策「重点施策」を考えることである。 それによって、PDCAが可能となる。

重点施策の成果をチェックC&アクションAするために数値計画を評価基準として、月次又は四半期の業績検討会議を実施する。

月次か、四半期かについては、年4回の確認と修正だけで計画を達成する方法より、年12回の確認と修正で計画を達成する方が

易しいので、基本は月次で検討会議を実施されることをお勧めする。

もちろん、自信がある場合は四半期でも良い。 会議は多いより少ないに越したことはない。

 

5.最終的には高付加価値経営にチャレンジする

高付加価値経営とは、より「儲かる」ようにする仕組み作りのことだ。(「儲ける」ではない)

3で説明した収益体質の改善は、費用を減らした分だけ利益が増えるという、初歩的な処方箋だ。

かんたんに言えば、固定費を減らして、その分、利益を増やす戦略だ。

しかし、この処方箋には限界がある。なぜなら、削減額は無限ではないからだ。

したがって、いずれは高付加価値経営に脱皮しなければならない。  では、高付加価値経営の「要諦」は何だろうか?

それは、「やりがい」と「待遇」と「給料」だ。

もう少し体裁のいい言葉で言えば、「理念」と「福利厚生」と「人件費」ということになる。

それを全部合わせると「おもしろい仕事」ということに翻訳できる。

それらが新しい製品開発や素晴らしいサービスのパワーとなり、顧客満足度を上げることになっていく・・。

つまり、固定費削減戦略から高固定費化戦略への切り替えが『高付加価値経営』ということになる。

 

財務改善の処方箋はこのほかにも、もちろんいろいろとある。

しかし、この棚卸資産と固定資産及び収益構造の改善はその中でも外せない全企業に共通する改善策である。

ぜひ、自社の棚卸資産回転期間(平均日商の何日分を持っているのか)と固定資産回転率(何倍の売上を上げているのか)、

収益構造(結論は売上高営業利益率)を確認されることをお勧めする。

なお、標準的な評価基準は、

   棚卸資産回転期間は14日以内

   固定資産回転率は4倍以上

   売上高営業利益率は10%以上 と考えられたらいいと思う。

 

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