283.420万経営者のための会計3
2016年10月29日
セクション3 総資本の見方
(前回「2 負債の見方」の続きです…)
(2)固定負債の意味と見方
『固定負債』は、固定的な負債という意味ですから、流動負債を除く、原則1年以上に渡って返済する負債ということになります。
原則1年以上に渡って返済する負債とは、主に、設備投資や土地・建物などを購入するための『借入金』や支払期限が明確でない
『長期未払金』などです。
いずれにせよ、固定的な使途である固定資産と比べることが見方のポイントです。
■固定的な使途と比べる
経営における固定的な使途とは『固定資産』です。
固定資産は基本的に金額が大きく、長く事業に使いますから、その投入資金源が固定的な資本であるかどうかを確認することは
重要なことです。
①その一番大局的な見方が「固定比率=固定資産÷自己資本」
この固定比率が100%以下であれば、分母の固定資産より、資金の出どころの自己資本の方が大きいということですから、
会社の固定資産はすべて自己資本で購入されていることになります。
ですから、「固定資産の投資活動としては安全性が高い」と判断できます。
しかしなかなか、固定資産の購入資金を自己資金だけで賄えるという会社はあまり現実的にはありませんから、
その補足的な資金調達状況を確認しておくことが必要です。
固定比率は高くとも「200%以下に押さえたい」ところです。
つまり、会社の固定資産の半分以上は自己資金で購入するようにしたいということです。
②補足的な見方が「固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)」
さきほど「その補足的な資金調達状況を確認することが必要」と言いましたが、その確認がこの固定長期適合率という見方です。
名前はチョッといかめしいですが、内容はいたって単純です。
「固定資産は自社の資金と長期返済の銀行借入金で賄いましょう!」ということです。
固定資産は先ほども言ったとおり、長く使うモノで、それだけではリターンも産まないモノです。
ですからなるべく自己資金を多くして、その不足する分だけを、長く返済できて、金利も低い長期借入金で賄うということが、
あるべき資金調達の姿です。
身近な例で言えば、車は自己資金と自動車ローンで購入すべきということであり(それもなるべく自動車ローンを抑えて)、
決して、それだけでは足りなかったからカードローンを使うということはダメ!ということです。
このような例えを言えば「当たり前!」と思われるのでしょうが、
多くの中小企業は、この固定長期適合率が100%を超えているというのが実情です。
100%を超えているということは、自己資本+固定負債より固定資産の方が多いということですから、
固定資産購入に際しては、流動負債も資金源にしてしまっているということです。
特に、土地を多く持っている、自社建物を持っている企業などに、比較的多くこの状態が見受けられます。
この指標は必ず100%以下が大原則、できれば70~80%以下にマネジメントしたいところです。
■借入金をチェックする
最後に一部、流動負債も含まれますが、「借入金」の見方です。
いま多くの中小企業は「借入金まみれ」と言われています。
借入金は流動負債と固定負債の両方にありますが、借入金の判断は合計で判断します。
①借入金の量を判断する見方「借入金対月商倍率=短期・長期借入金合計÷平均月商」
平均月商とは、家計でいえば「平均給与」にあたります。
したがって、この借入金対月商倍率とは、「何カ月分の給与にあたる借入金があるのか?」ということです。
そして理想的なモデルで説明をしますと次のようになります・・・
1)理想的な企業の売上高経常利益率は10%と言われ、その最大の借入金返済枠は税金を除くと「売上高の5%」です。
2)また、短期・長期の借入金を合わせた平均の借入金返済期間は「5年」と言われています。
3)すると、毎月の借入金返済枠は「売上高の5%」、返済期間は「5年=60ヶ月」となりますから、
借入金総額は「月次売上高の300%」となります。 つまり、「平均月商の3ヶ月分」です。
4)では、現実的に売上高経常利益率が10%という企業ってあるでしょうか? 答えはほとんど「ノー」です。
ということは、「短期・長期の借入金総額はMAXでも月商の3ヶ月分に抑えましょう」ということになります。
いま多くの企業は、借入金が3カ月以上あり、それが「借入まみれ」と言われている所以です。 あなたの企業はどうでしょうか?
②借入金の返済力をみる見方「債務償還年数=短期・長期借入金合計÷(年間減価償却費+年間営業利益)」
借入金利息はPLの営業外費用で支払っていますが、借入金返済はPLから支払っていません。
借入金返済はBSで支払います。 このことはたいへん大事なことですので、よく認識しておいてください。
詳しく説明すれば、経常利益から税金を納付し、残った『当期純利益』がBSの『繰越利益剰余金』へ行き、
そこから借入金返済をすることになります。(だから赤字企業は手元資金を取り崩して借入返済をしていることになります!)
ただそれだと返済力の見方がややこしくなりますので、簡便的にえいやっ!と『営業利益』を借入金返済原資とみなしています。
さらに、なるべく返済能力があるように評価できるように(!?)、実際には現預金支出しないという理屈で『減価償却費』を
加えて、返済原資と見ることになっています。
これは考え方だけの問題だけですので、実務上、『営業利益』だけを返済原資としてとらえても何ら問題はありません。
ただその結果は、5年以内の借入金返済期間とさせたいものです。
5年以内という根拠は、上記の平均返借入金済期間が5年だからです。
ですから、もし、年間営業利益が300万円程度の会社であれば、1500万円までの借入金で抑えるということです。
ちなみに金融機関などでは「債務償還年数は最大10年以内」という基準を持っていますが、その根拠は、10年以上先に
その企業が存続しているのか、していないのか、わからないからだと言われています。
③借入金と預金残高のバランスをみる見方「預金対借入金比率=預金合計÷短期・長期借入金合計」
融資が下りれば、その融資額は預金口座に入ります。
そしてその資金を設備投資や運転資金に使い、翌月から借入金返済をその預金口座からしていくわけです。
資金事情が苦しい中で融資を受け、そして融資目的で使えば、一挙に預金残高が減るわけですから、
この頃が一番大変厳しい状況となります。 できれば、返済する気持ちにすこし”ゆとり”が欲しいところですよね。
そのためには、借入金と預金のバランスを常にマネジメントする必要があります。
それが、預金対借入金比率です。
これはなかなか難しい問題ですが、数値的に言えば、常に最低でも借入金残高の10%程度は預金残高として持ちたいものです。
借入金の平均返済期間は60ヶ月でしたから、1回当たりの返済額は約1.7%となります。
したがって、預金残高が10%ということは、5~6回分程度の返済残高ということになります。
ただしこれに通常の運転資金に備えなければなりませんから、できれば借入金残高の30%程度以上は預金残高として持ちたい
ものです。ということは、融資を受ける場合にも、できれば必要資金+αの少し余裕をもった融資を受けることも大切です。
さて、今回は流動負債に続き、『固定負債』の意味と見方を勉強しました。
その要点は
1.固定負債とは、経営の設備投資的な資本である。
2.固定負債の見方には2つある。
(1)固定比率
(2)固定長期適合率
3.借入金の見方には3つある。
(3)借入金対月商倍率
(4)債務償還年数
(5)預金対借入金比率 以上です。
次回は純資産、自己資本の意味と見方(純資産に見方なんてあるの?…あるんですよ)をご紹介します。 おたのしみに!
(次回へつづく)