284.420万経営者のための会計4
2016年11月5日
セクション4 純資産の見方
1 純資産とは
◆『純資産』の項目には試算表や決算書を見るといろいろありますが、重要なのは『資本金』と『繰越利益剰余金』だけです。
『資本金』とは、会社を設立したときの出資金です。
◆『繰越利益剰余金』とは、事業を始めて貯めて来た『当期純利益』の累積です。
この資本金と繰越利益剰余金などの合計は必ず「資産ー負債」と一致します。
ですから、「純粋な資産」という意味で『純資産』といいます。
また、資本金も繰越利益剰余金も、自社自身で集めた資金ですから、『自己資本』ともいいます。
では、これらをどう見て行けばよいのでしょうか? 一緒に考えていきましょう。
2 純資産は「これまでの事業活動の成果」
◆いろいろな言い方があるのでしょうが、ひと言で言えば「純資産はこれまでの事業活動の成果である」ということです。
ですから、「自社のこれまでの事業成果はどうだったのか?」という答えはここにあります。
◆純資産が当初の資本金より増えていれば、とりあえず成功です。その場合は、もっとうまく行く改善策がないか検討しましょう。
◆純資産が当初の資本金より減っていれば、うまく行っていないということです。したがって必ず改善・変革が必要です。
したがって、最低でも1年に1回程度は、この純資産を確認したいものです。
できるならば、中間決算期と決算期の年2回ぐらいは、あらためて見てほしいと思います。
(1)「純資産は増えていなければならない」のが常識
事業がうまく行っていれば、かならず『繰越利益剰余金』が貯えられて、純資産は大きくなっています。
その大きさが、事業の順調さを物語ります。
決して、「総資産が大きくなっている」ことが事業の順調さを示しているのではありませんので、ご注意ください。
確かに、事業が大きくなったことは総資産の額が示しますが、それは違う角度から見えれば「リスクの大きさ」とも言えます。
また、売上高の大きさは取引の大きさを示していますが、それ以外の何物でもありません。
◆人間で例えれば、総資産は体の大きさを示し、売上高は摂取する食事量の多さを示しているに過ぎません。
創業の頃と比べれば、たくさん食べられるようになったし、おかげで体も大きく成長したということは事実ですが、
体内の健康状態はわかりません。
◆純資産は「体内の健康状態を表す」と言ってよいのかもわかりません。
ですから、純資産が増えていない・減っているということは不健康へ向かっていることを示しており、
◆いまの中小企業は全般に純資産割合が低いのですが、それは決して「常識」や「当たり前」ではありません。
まず、その思い込みを払拭しましょう。
(2)純資産の意味と見方
さて、その純資産をどう見ればよいのでしょうか?
一般的には「自己資本利益率」というものがありますが、利益と自己資本を比べて、何か得られるものがありますでしょうか?
以前と比べて、増えた・減ったはわかりますが、「それで?」という感じです。
ここではもう少し、具体的な見方を考えてみたいと思います。
①自社の成長度合を見る「自己資本成長率=自己資本÷資本金」
まず一つは、創業以来どの程度、自社が成長して来たのかを確認しましょう。
事業をやる目的は、「社会貢献を通じて、資本を増やすこと」とも表現できます。
それを見る指標がこの『自己資本成長率』です。自分で商売を始めた以上は、元手を増やして行きたいものです。
目指す成長のスピードはそれぞれのペースでいいと思いますが、順調な企業は4~5年で、倍々程度になっています。
②自己資本の状況を確認する「自己資本現預金割合=現預金÷自己資本」
安定した経営を続けていくためには、貯めた自己資本のいくらかは「手元資金」として持ちたいものです。
いくら計算上の繰越利益剰余金があっても、それがすべて設備投資に回っているという状況は、適切な経営状況とは言えません。
そこで、手元資金(現預金)と自己資本を比べることで、その状況が確認できます。
◆安定した企業は少なくとも自己資本の70~80%程度は手元資金で保有しています。
いまは、またこれからも、経営環境は先行き不透明な時代が続きますので、
体力があまりない中小企業においては、なるべく自己資本の多くを手元資金で持つ経営が重要です。
③借入の状況を自己資本で管理する「借入金対自己資本倍率=短・長期借入金÷自己資本」
借入金はさまざまな角度からチェックすることが大切です。
なぜなら、企業が事業を継続できなくなる現実的な一番の理由は、借入金返済できなくなることで引き起こされるからです。
したがって、借入金を平均月商と比べてみることも、債務償還年数をみることも大事なのですが、
それに加えて、自己資本と比べてマネジメントするは実務的にはとても大事なことです。
そこで、この「借入金対自己資本倍率」です。
経営分析ではギアリング比率とも呼びますが、この見方には二つの観点があります。
ひとつはオーソドックスな通常の見方で、なるべく適正度をマネジメントとしようとする姿勢です。
◆その場合は「借入金を自己資本の50%以下に抑える」ということが一つの判断基準となります。
多くの優良企業は、そのほとんどが借入金対自己資本倍率を20%前後には抑えたマネジメントをしています。
もう一つの見方は積極経営、攻めの経営の場合です。
この場合は、少ない自己資本で、いかに多くの資金を引き出すかということがテーマになりますので、この借入金対自己資本倍率も
高くなります。つまり、ハイリスク・ハイリターン経営です。 しかしこれは特別な例です。
今回は『純資産』の意味と見方を勉強しました。
その要点は
1.純資産とは、資本金と繰越利益剰余金である。
2.純資産は増えて行かないといけないものである。
3.純資産の見方には3つある。
(1)自己資本成長率
(2)自己資本現預金割合
(3)借入金対自己資本倍率(ギアリング比率) 以上です。
次回は資産の意味と見方をご紹介します。 おたのしみに!
(次回へつづく)