295.簿記の基本 引当金の仕訳
2017年1月21日
第3回 簿記の基本「引当金の仕訳」を知ろう
1.引当金とは
「引当金」という用語は、あまり聞き慣れない言葉ですし、また大層な響きもあるので、いかにも難しそうに聞こえますが、
実はなんていうこともありません。
引当金とは、「抵当」や「担保」あるいは「将来の何かに備えてお金を準備する」というだけのことです。
そうわかると、たちまち難しく感じていた「賞与引当金」や「退職給付(退職金のこと)引当金」のこともカンタンです。
会計は、実はカンタンな意味のことも専門的な用語を使って表現していますので、難しく聞こえるだけで実はカンタンなのです。
何といっても、会計・経理はお金の計算ですから、難しい筈はないのです。
では、引当金に話を戻します。
①引当金とは、抵当・担保・備えでありますので、預り金的な性質のものです。
②したがって、本来は他人のお金であるのに預かっているようなものです。
③他人のお金ということは、「負債」ということです。
④負債は右側、貸方の科目です。
⑤したがって、仕訳の基本は「(左)相手科目/(右)引当金 」となります。
2.賞与引当金の仕訳
賞与の仕訳は本来、賞与を出したときに仕訳をすれば良いわけです。
但し、賞与という科目は製造原価と販管費の両方にありますから、それぞれ分けて仕訳します。
《支給月》 労務費の賞与 / 現預金 XXXXX円
販管費の賞与 / 現預金 XXXXX円
しかしこれでは少し問題があります。
たとえば、夏季賞与と冬季賞与の2回賞与を出している場合、支給時期は確かに年2回ですが、
その賞与考課期間はそれぞれ半年間ずつあるわけです。
その半年間の考課の結果、たとえば夏は6月に、冬は12月にボーナスとして支給しているわけです。
会計はよく「発生主義で」といわれますが、その観点と、より正確な月次損益を計算するという観点からも、
毎月発生しているものは毎月計上していくという考えが本来の考え方となります。
つまり、毎月概算を引当てておくということです。
そうすると先ほどの仕訳は次のようになります。
《月 次》 労務費の賞与 / 賞与引当金 XXXXX円 ※金額は概算賞与額の6分の1となります。
販管費の賞与 / 賞与引当金 XXXXX円 ※同上
そして支給月になると
《賞与月》 賞与引当金 / 労務費の賞与 XXXXX円 ※引当てた賞与を戻します。
賞与引当金 / 販管費の賞与 XXXXX円 ※同上
という仕訳で、概算計上したものを一旦、取り消して、改めて正式な金額を計上します。
労務費の賞与 / 現預金 XXXXX円 ※最終賞与額を再計上します。
販管費の賞与 / 現預金 XXXXX円 ※同上
こうすれば本来の月次損益が毎月把握でき、かつ賞与月に確定させることができます。
3.退職給付引当金の仕訳
賞与引当金の仕訳が理解できれば、退職給付引当金の仕訳も同様です。
ただし、そもそも退職金制度がない企業は関係ありません。
ですから、この退職給付引当金の計上については、『就業規則』に基づいた退職金制度がある企業だけが対象となります。
《月 次》 労務費の退職金 / 退職給付引当金 XXXXX円
販管費の退職金 / 退職給付引当金 XXXXX円
《支給月》 退職給付引当金 / 労務費の退職金 XXXXX円 ※引当てた退職給付を戻します。
退職給付引当金 / 販管費の退職金 XXXXX円 ※同上
労務費の退職金 / 現預金 XXXXX円 ※支給した退職金を再計上します。
販管費の退職金 / 現預金 XXXXX円 ※同上
※賞与引当金と退職給付引当金はもっともポピュラーな引当金ですが、その他にもいろいろな引当金科目はあります。
それは必要に応じて調べてください。
4.引当でもっとも大切なこと
上記のように会計処理をすることで、より正しい月次損益が把握できますが、
もっと重要なことは「引当てた金額は近い将来支出する」ということです。
たとえば、賞与として毎月100万円引当てたとします。
すると6か月後には、少なくとも600万円を賞与として支出するということです。
ですから、それに見合った金額が預金にないといけないわけです。
一般的にはそれができずに、賞与資金として金融機関に融資申込をし、四苦八苦して賞与をする中小企業が数多く見られます。
本来はそんなことにならないように経営しなければなりません。
ということは、引当金を計上したなら、それに見合う預金を別建てに用意しておく必要があります。
たとえば、納税資金用に「納税準備預金」を積み立てている優秀な中小企業も少なからずあります。
それと同様に、「賞与支給準備預金」あるいは「退職金支払準備預金」なるものを併せて準備しておくことが、
引当でもっとも重要なマネジメントであることをご認識ください。
どうですか、このように簿記・会計が少しわかってくると、意外と会計も楽しくなりませんか。
本来、会計は税務署や銀行のためにではなく、このように経営に活かしていくためにあるのです・・。