305.簿記の基本 戦略経営(1)
2017年4月2日
第13回 簿記の基本「戦略的な経営に資する経理とは(1)」
これまで12回に分けて、経営に活かすための「簿記の基本」について説明してきました。
今回はその最終稿として、これまで12回のまとめとして『戦略的な経営に資する経理』と題し、まとめます。
皆さんの事業の経理処理に参考になれば幸いです。
1 このことをまず覚える
簿記の基本は取引を2つに分ける、仕訳するということです。
それは「資金の運用・使途」と「資金の調達・源泉」という2つの観点から見るということです。
(1)仕訳の左は「借方」と呼び、資金運用の増加と資金使途の増加が来る
資金運用と資金使途の増加とは、現預金の増加・売上債権の増加・棚卸資産の増加・固定資産の増加などと、費用の増加です。
逆に資金運用と資金使途が減った場合には、右の「貸方」に移動させます。
具体的には、現預金の減少・売上債権の回収・棚卸資産の減少・固定資産の売却などと、仕入や材料の返品などです。
(2)仕訳の右は「貸方」と呼び、資金調達の増加と資金源泉の増加が来る
資金調達と資金源泉の増加とは、買掛金の増加・未払金の増加・預り金の増加・借入金の増加などと、売上の増加です。
逆に資金調達と資金使途が減った場合には、左の「借方」に移動させます。
具体的には買掛金の支払・未払金の精算・預り金の支払・借入金の返済などと、売上の返品や取り消しなどです。
(3)仕訳はこの組み合わせであり、理論的には10何通りのパターンがあるが、実務的には次の8つのパターン
①資産の増加 / 資産の減少 [例]銀行口座に売掛金代金が振り込まれた ⇒ 預金 / 売掛金
②資産の増加 / 負債の増加 [例]商品を掛けで仕入れた ⇒ 商品仕入 / 買掛金
銀行口座に借入金が振り込まれた ⇒ 預金 / 借入金
③資産の増加 / 純資産の増加 [例]出資して資本金を増やした ⇒ 預金 / 資本金
④資産の増加 / 収益の発生 [例]商品を掛けで売った ⇒ 売掛金 / 売上高
⑤負債の減少 / 資産の減少 [例]買掛金を銀行振込で支払った ⇒ 買掛金 / 預金
⑥負債の減少 / 負債の増加 [例]買掛金を手形で支払った ⇒ 買掛金 / 支払手形
長期借入金のうち1年間返済分を1年以内返済長期借入金に振り替えた
⇒ 長期借入金 / 1年以内返済長期借入金
⑦費用の発生 / 資産の減少 [例]事務用品を現金で購入した ⇒ 事務用消耗品費/現金
⑧費用の発生 / 負債の増加 [例]家賃を翌月払いにした ⇒ 地代家賃 / 未払費用
2 現預金の仕訳
(1)預金は目的別の口座を開設する
納税のための「納税準備預金」を設けるという考え方があります。
同様に賞与引当金や退職給付引当金のための「賞与準備預金」や「退職金準備預金」などの口座を持つことは、
資金繰りに強い経営にします。賞与支払のために借入するなどは本末転倒だとは思いませんか。
引当をし、それ相当の預金を持つようにマネジメントすればそのようなことはなくなります。
(2)現預金残高のチェック方法を知る
仕訳ではありませんが、自社の現預金残高をチェックする方法を知ることは、
資金繰りに強い会社にするためには大変重要なことです。
単に「×××万円あるから安心」なんて考えていると、東芝やてるみくらぶじゃありませんが、足元をすくわれかねません。
キャッシュの有り高は会社の中にあるいろいろな『指標』と比べて、その有り高を判断する必要があります。
その指標としては、一般的には次のようなものが挙げられます。 ぜひ、経営者として『自社の指標』を持ちましょう。
①平均月商 ⇒平均月商とは会社にとって「1ヶ月の給料」とも言えます。
②平均総費用 ⇒1ヶ月の平均総費用(原価+販管費+営業外費用)は会社にとって「1ヶ月の生活費」とも言えます。
③運転資金要調達高 ⇒要調達高(「売上債権+棚卸高ー買入債務」など)に相当する現預金がないと自転車操業となります。
④借入金残高 ⇒借入残高に対してあまりにも現預金が少ないと返済に支障が出る恐れがあります。
⑤引当金 ⇒引当金に対してあまりにも現預金が少ないとそれを支払う時に支障が出ます。
⑥消費税納付額 ⇒消費税納付額(仮受消費税-仮払消費税)よりも現預金が少ないと消費税の納付ができなくなります。
このようなことが理解できれば、日常の経理はほぼ出来ると同時に、月次試算表や決算書も読めるようになります。
「戦略的な経営」に資する経理にするためにも、ぜひ理解しましょう。